韓国で、1日に3人の男性に性的暴行を受けた少女の話が物議を醸している。事件の主人公はチソニ(仮名)。

15歳の中学2年生だ。

 昨年4月、チソニが家に帰ってこないことを心配した父親が、警察に通報。翌朝、それまで消えていたチソニの携帯電話の電源が突如としてオンになった。警察がGPS機能を手掛かりに居場所を突き止め、現場に急行したのだが、チソニが見つかったのは自宅から約50キロ離れたワンルームマンションだった。

 警察に保護され、事情を聞かれたチソニの口からは、衝撃の事実が明らかになった。なんとわずか1日の間に、3人の男性に性的暴行を加えられたというのだ。
しかも、その3人は、それぞれまったく面識がない他人だった。チソニは、駐車場や廃工場、また男性の自宅で、それぞれ性的暴行を受けたと証言した。

 娘の安全を守れなかったという自責の念から、母親はうつ病を患い、自殺未遂を起こした。父親は「中学生であると知っていながら、娘に暴行を加えた男どもを、許すことはできない」と、その心中を韓国メディアに対して語っていた。

 そんな驚くべき事件から数カ月後、事態は一転する。事件後、チソニの供述を通じて捜査線上に浮上した男性3人が、全員、証拠不十分で不起訴処分となったのだ。
両親は激高し警察に詰め寄ったが、警察は「強制性はなかった」と、その事情を説明した。

 韓国メディアは後日、最初にチソニに暴行したとされる男性(30代後半)を直撃し、説明を求めた。すると男性は、「むしろチソニの方が積極的に性行為を要求した」と釈明した。

「彼女は、普段からウェブサイトで知り合った男性と性行為をするのが好きだと言っていた。最近は美人局も多いし、私も警戒して携帯でその時の会話をすべて記録していたので、それを聞いてもらってもいい」

 その男性は、ほかにも「チソニが投稿した中古PCパーツサイトへの書き込みを見て、会う約束をした」などと証言している。

 男性がどんな目的で録音をしていたのかは、定かではない。
弁護士らは「自分に都合のよい証拠を残すために、計画的に録音していたのではないか」と疑っている。また、チソニが書き込みを投稿したという証拠も、最後まで発見されなかった。

 しかし、その男性の録音データが決定的な証拠となり、他の2人も不起訴処分となったそうだ。ちなみに、3番目にチソニに暴行を働いたとされる男性は、未成年に対する性的暴行の前科を持っていた。なお、その証拠となった録音データは一般には公開されておらず、警察のみが事実を握る状況となっている。

 今回の事件を受けて、韓国では成人男性と未成年女子の性行為について、厳罰を科すべきだという意見が出てきている。
現在、韓国では14歳以上の女子は法の保護の対象とならず、強制性が認められなければ罪にならない状況だ。逆に13歳未満の女子と成人男性が性行為を行った場合、「未成年者擬制強姦罪」という罪が適用され、強制性がなくとも処罰の対象となる。韓国の弁護士のひとりからは「他の先進国と同様に、少なくとも16歳までは無条件に法の保護下におくべき」という指摘が挙がっている。

 なお、チソニは小学5年生の頃からその事件の日まで、合計で13人の男性に性暴力を受けてきたという。最初に暴行を加えたのは実の叔父で、その時に大きな精神的後遺症を負った。チソニの精神カウンセリングを担当する医師は、次のように話している。


「幼い頃に受けた性暴力の精神的傷が根深い。加害男性に好意を持ってしまうような精神的後遺症、つまりストックホルム症候群が治らなければ、同じような事態に何回も巻き込まれる可能性がある」

 いくら性的暴行事件が多い韓国の事情といえども、今回のような事件は正気では見ていられない。法の不備などとともに、韓国社会の闇が浮き彫りになった一例ではないだろうか。
(取材・文=河鐘基)