「エロ動画をDLしたら警察に捕まる?」「もう二度とネットでエロが見られない?」。韓国ネチズンの間でこんな悲鳴が上がったのが4月中旬。

成人コンテンツの規制強化を盛り込んだ電気通信事業法施行令の改正案が、同月16日から実施されたのが原因だ。

 同施行令によると、韓国国内のオンラインストレージなどの業者には、今年10月末から「違法わいせつ物」のフィルタリングが義務付けられる。同時にその検索、送受信が制限され、2年間の運用管理記録の保存も必須。違反すると2年以下の懲役、または1億ウォン(約1,100万円)の罰金。また青少年に販売するスマホには、施行令改正案の実施と同時に「違法わいせつ物」をフィルタリングするアプリのインストールが義務化された。

 朴槿恵大統領が2013年から政権スローガンのひとつとするのが、“非正常の正常化”。
行政から民間の経済活動まで、各方面の不正や歪み=“非正常”を是正しようとする政策だ。今回のネットのエロ規制も、実はその一環。ネットに氾濫するわいせつ物から青少年を守る、というのが骨子だ。また4月30日には、主要ネットメディアからエロを締め出す新聞振興法改正案が可決された。同改正法は国内主要ポータルサイトにコンテンツを提供する企業を対象に、扇情性・暴力性のある記事、また露出度の高い広告の配信を禁止。違反した場合は、最大1,000万ウォン(約111万円)の罰金を科す。


 電気通信事業法施行令の改正から1カ月を過ぎたが、今のところ大きな騒ぎにはなっていない。韓国のネットユーザが過剰反応していた面もあるが、同施行令はまだ安定運用に向けた移行期間中だ。一方でこの間、エロ規制をめぐるさまざまな問題も提起されてきた。

 中でも重要なのは、違法でない成人コンテンツと違法わいせつ物の違いだ。日本と違って韓国は露出部位の制限が多い上、レイプや獣姦など、行為の内容も規制の対象。しかも、それを0~4の等級に区別する。
判定を行うのは放送通信委員会(放通委)だが、基準が曖昧なので運用は恣意的になりがちだ。そこで業者は処罰を逃れるため、違法でない成人コンテンツを次々とフィルタリング対象にしているという。

 もうひとつ根本的な問題は、政府のエロ規制は当然ながら国内企業にしか及ばないこと。韓国は日本と異なり、国内企業がSNSはじめ各種ウェブサービスで圧倒的なシェアを占めてきた。だが政府による国内企業への締めつけが、海外企業へのユーザ流出を招いているという。その代表例が、写真や動画を共有するSNSサービスInstagram。
特定の韓国語ハッシュタグで検索すると、過激な写真や動画がこれでもかと並ぶ。国内企業のサービスでは厳しく規制される自撮りなどのエロを、海外企業のサービスでどんどん共有するようになったわけだ。

 ユーザを奪われる国内企業からは、“逆差別”の声も漏れるエロ規制。そうかと思えば、青少年のスマホにインストール必須のフィルタリングアプリは、早くも無効化アプリが出回って制度が崩壊状態。エロ撲滅のためネットに挑戦する韓国政府だが、前途は多難だ。
(文・コリアラボ)