JRAのトップジョッキーの後藤浩輝(享年40)騎手の自殺の衝撃は、いまだに関係者に暗い影を落としている。

 3月1日の中山競馬場の第9R「富里特別」では、後藤騎手からの乗り替わりでダイワレジェンド(牝4=国枝)に騎乗した三浦皇成騎手が勝利。

ゴール入線時に、左腰に着けた喪章を握りしめる姿が注目を集めた。また、開催中の中山、阪神、小倉の各競馬場に献花台、記帳台も設置され、武豊騎手や内田博幸騎手らが哀悼の意を表した。

 それにしても解せないのは突然、死を選んだ後藤騎手の心中だ。競馬サークル関係者はこう話す。

「前日に後藤騎手と話した知人も、『いつもと変わらない様子で、まさか翌日に自殺するなんて想像もできなかった。いまだに信じられない。
これは何かの間違いなんじゃないかって思う』と話しているくらいですからね」

 なんとも謎は深まるばかりだが、ファンの間でささやかれているのは落馬、負傷を繰り返しているうちに「死にたくなったのかもしれない」という疑念だ。確かに、後藤騎手は度重なる落馬トラブルに遭っていた。12年5月6日のNHKマイルカップで落馬し、「頸椎骨折、頭蓋骨亀裂骨折」と診断。復帰後の14年4月27日の東京競馬10R「府中市制60周年記念」でも落馬し、「第五、第六頸椎辣突起骨折」に見舞われた。

 落馬事故の原因は2度とも岩田康誠騎手のラフプレーとされており、つい先日も同じエージェントから騎乗馬を提供されている北村宏司騎手との絡みで落馬負傷したばかりだった後藤騎手。

「確かに、落馬事故がまったく影響しなかったとは言い切れないでしょう。
これが直接的な自殺原因ではありませんが、もともと情緒不安定気味なところがあった後藤騎手にとって、頚椎や頭ばかり痛めているうちに、なんらかの悪影響を受けてしまった可能性はゼロではない」と前出関係者は証言する。

 その一方で、後藤騎手にも近しい別の競馬サークル関係者は、それは根本的な自殺原因ではないと断じる。後藤騎手は常に「騎手という職業は常に死と隣り合わせ。覚悟がないと、この仕事はできない」と知人に話していたそうで、落馬事故の相手となった岩田騎手に対しても「恨み? そんなのまったくないよ。お互いプロなんだからね」と話していたというのだ。

 むしろ今回の自殺の謎を解き明かすにあたっては、後藤騎手の生い立ちや複雑な家庭環境にスポットを当てなければならないだろう。
前出・競馬サークル関係者は、後藤騎手がこんなことを話していたと明かす。

「小さい頃、親父に一家心中させられそうになったんだ。母に対してのDVもひどくてね。ある時、姉貴と母は親父の元を出て行った。俺も一緒について行ったんだけど、なんか親父をひとりぼっちにさせておくのが気になってね。戻ってしばらくは父子生活が始まったんだけど、ある夜、首吊り自殺を図ろうとした親父の体が、寝ていた俺の上にいきなり落ちてきて。
未遂に終わったけど、それだけにとどまらず、今度は川に投げられて、その後、親父も飛び込もうとしたりしてね。寝ている時にいきなり首を絞められたこともあったよ。それで、母のところへ逃げた。そうしたら、母は新しい男を作っていて。やっぱり親父の元へ戻ろうと引き返したんだ。でも、母は俺のことが心配だったんだろうね。
姉貴と一緒に俺についてきたよ(笑)。新しい彼氏? 母に捨てられたみたい」

 再び家族4人での生活が始まったが、母のおなかには新しい生命が宿っていた。それが今の弟となるわけだが、後藤騎手が20歳を過ぎた頃に、実はその子は親父の子ではなく、例の新しい彼氏との間にできた子だったことを知ったとか。だが、この頃の後藤騎手はある種、自身のそういった家庭環境を達観していたという。

 周りを楽しませることが大好きだった後藤騎手はカラオケが趣味で、その日歌いたい曲名をメモに書いてズボンのポケットに忍ばせてやって来るほどの念の入れようで、酒が入るとみんなの前で突然脱ぎだし、それこそ江頭2:50ばりのパフォーマンスを見せていたそうだ。

「実は、後藤騎手の体には派手なタトゥーが入っていた。
普通なら女の子は引いちゃうんでしょうが、どんなに酔っ払ってろれつが回らなくなっても、全裸でフルチンをブラブラさせても、女の子に抱きついたりセクハラしたりすることはなかった。それもあって、女の子はみんな『彼って優しい~』って、後藤騎手にメロメロになっちゃうんですよ」(前出・競馬サークル関係者)

 そんな後藤騎手だが、1カ月ほど前には、他人の話もうわの空で「なんか様子が変だった」と話す知人も多い。それと同時期に後藤騎手が六本木、西麻布界隈で出席したイベントに関してこんな話も。

「いつもよりもガラの悪い連中が多くて、全裸の写真を撮られていましたよ。『まさか、ゆすられていたんじゃないか?』と心配する声も出始めています」(同)

 今回の後藤騎手の自殺の闇は想像以上に深そうだが、明るいパフォーマンスで競馬界を盛り上げて、GIレースを制し、JRA歴代16位の通算1447勝を挙げた名ジョッキーには、天国で安らかに眠ってほしい――。
(文=中川克幸)