パルコがWEB研修を導入した背景 ショップスタッフの働き方の現状とは

2018年3月からパルコは、全スタッフを対象にした「オリエンテーション(入店前)研修」を、集合型研修からWEB研修に変更した。同時にショップブログをより効果的に活用する「SNS研修」もスタートしている。
同社執行役 店舗統括部担当の中野千晶氏は、ショップスタッフが新たに入店し、覚えてもらうルールについての研修はWEB動画の方が相性は良いと指摘。一方で、人手不足の現状ではショップの店長たちが意見を交わし、情報を共有する「人材定着研修」も重視している。合理的な入店前研修のあり方や採用と定着方法、インフルエンサーを利用したSNSでの宣伝方法について中野氏に聞いた。
パルコがWEB研修を導入した背景 ショップスタッフの働き方の現状とは
パルコ執行役 店舗統括部担当の中野千晶氏


WEB研修を導入せざるをえなかった事情


――入店前研修を従来の「集合型研修」から「WEB研修」に変更した背景について教えてください
中野千晶氏(以下、中野) ショップスタッフに対する研修は、戦略的に変えたこともありましたが、売場状況に対応をしてきた部分もあります。たとえば、「集合型研修」は時間と場所をしっかりと決め、席を用意して講師が説明する仕組みです。
ですが、時間と場所を明確にしてもショップスタッフは参加が難しいのです。ショップの営業時間はしっかりと決まっており、何人かのシフトで回すことがショップスタッフの働き方です。
その中で別の場所で研修を行いますから、来てくださいと呼びかけても、うまくいかなくなっていた実情がありました。今の人手不足、タイムシフト制拡大の時代は、効率的に学べるWEB研修のようなやり方が必要になってきています。

――具体的なWEB研修の内容は
中野 入店前研修では、「ショップスタッフが出退勤するパルコ従業員通用口の場所や手続き」「お客様から問い合わせが多い質問内容」「火災・地震などの緊急時対応」「レジの閉め方、不審者やけが人を発見した場合の連絡先」などを動画で説明しています。文字で伝えるよりも、今の若い人が慣れている動画や写真などで視覚的に伝えるようにしています。パルコにはさまざまな研修がありますが、単純に覚えてもらわなければならないパルコのルールについてWEB研修を行っています。好事例の共有や共感・気付きを得る研修は、ワークショップスタイルのフェイス・トゥ・フェイスの研修が望ましいと考えています。

パルコがWEB研修を導入した背景 ショップスタッフの働き方の現状とは

WEBの良さは繰り返して見られることです。集合型研修では分からない部分をそのままにしてしまうことがあります。そして新人が来ると、ショップ店長にも新人に研修をアレンジする業務が生じますので手間がかかります。そのアレンジ業務がなくなることと、新人にとっては、場所と時間にとらわれずに研修を受けられることがWEB研修の魅力です。内容によって異なりますが、動画の長さは1分や5分など短くまとめています。

――従来の入店前研修はどのくらいの頻度で開催されていたのでしょうか。

中野 月に1~4回と店舗によって異なりますが、新規入店が多い時期には1日2回開催する場合もありました。

――WEB研修での動画はどうやって視聴するのでしょうか。
中野 グループウェアのトップ画面から、各ショップにIDとパスワードを付与しておりますからログインしてもらえば見られる環境です。今、入店前動画は6本と少なくしています。合計21分です。最低限、ショップスタッフが遵守すべきルールを説明しています。


――ショップからはどのような反応がありましたか。
中野 ショップ店長からは「教える手間が省けて助かった」という声があり、ショップスタッフからは「なかなか聞けないことが明確にわかった」という声がありました。昔は90分~120分の研修があり、受講者が飽きてしまうケースもありました。


パルコがショップの採用活動を支援 店長同士のグループワークも


――今、ショップでの人手不足の現状はいかがですか。
中野 数百店舗のショップが入っていますが、アンケートを採ると、そのうちの6割から人手不足と回答があります。
スタッフ募集は基本的にネット経由ですが、一番有効な方法はクチコミです。もともと、ショップのファンだった人がショップスタッフになることもあります。


――ショップの採用についてパルコ側で何か支援をしているのでしょうか。
中野 ショップスタッフは売ることが本業であり、採用に詳しくない場合もあります。そこで、ショップの方に資料を配布し、応募があったら即レス・即アポで対応することや、面談内容の準備が大事であることを伝えています。
バイトの応募者は複数のショップの面接を受けていて、合否をすぐ知りたい傾向にあるからです。面接の日程が決まっても、来てくれない場合もあります。
「面接はショップ側だけではなく、応募側も見ている」「なじめないと辞めてしまう」とも伝えています。
最近では「履歴書不要」と助言しています。面接に来てくれたときに簡単に書いてくれれば、それで十分なのです。

――採用した後の定着も大事ですね。
中野 店長の相談相手はやはり、別のショップの店長です。そこでグループワークを開催し、悩みを話してもらうと、別の店長から「あるある」と共感も得られ、どうすれば回答を導き出すかも話し合っていきます。
多くのショップでの経験を取材している講師からも、解決方法を提示しています。あるショップスタッフがお客様にいい対応をしたら、きちんと評価することがモチベーションアップにつながる事例も紹介しています。また、ショップスタッフへの指示の仕方も、たとえば「この服を右に置いて」と言うだけでなく、こうすることでお客様はなぜ喜ぶのかという根本の理由まで伝えることでやる気も変わります。ショップは人間関係を作っていくことが一番大事なので、詳しく説明することで、ショップスタッフが「私は店長から期待されている」という意識を持つきっかけになります。

――ショップスタッフの承認欲求を満たしてあげることが大事なのですね。
中野 すごく大事ですね。やはり「なぜ自分はここにいるのか」認識することは重要です。それがないと「私がやらなくてもほかの誰かがやる」という意識に変わり、辞めてしまいます。ショップには正社員、契約社員、パート・アルバイトがいますが、それぞれの能力を発揮し、適正を認めていくことが大事です。それを講師が話すだけではなく、隣のショップの店長が経験を話すことで、「私にもできそうだ」「私もそのくらいやらなければならない」と、やる気と共感を得ることになります。そういう場づくりを一生懸命やっています。こういう集合型研修により、店長の定着につながっています。
お客様の要望も多様化し、eコマースとの競争、労務管理、コンプライアンスなど店長の仕事は昔よりも明らかに増えています。悩みは尽きないです。ただ、研修として仲間意識は醸成し、気づきと刺激につなげています。


SNS研修でショップスタッフによる情報発信を促進


パルコがWEB研修を導入した背景 ショップスタッフの働き方の現状とは
SNS研修のようす

――お客様に魅力をより伝える「SNS研修」でインスタ映えの方法を学んだショップスタッフからの声は。
中野 目にとまる写真は大事で、見栄えが良くないとすぐスルーされてしまいます。そこでSNS映えする写真テクニックやスマホでの写真加工法など、専門的なスキルがなくても簡単にできるノウハウを学んでもらっています。ハッシュタグの付け方なども教えています。
とくに写真は構図が重要で、撮影した写真に空間の美を表現できるようにしています。もともとショップスタッフはセンスがありますから、少し教えるだけでどんどん進化します。
パルコがWEB研修を導入した背景 ショップスタッフの働き方の現状とは
SNS研修前と研修後の撮影写真比較


――ショップスタッフの中にはインフルエンサーもいますか?
中野 あるショップスタッフがSNSで商品紹介をするとイイネが集まる例を見てきました。インフルエンサーは自身のライフスタイルを提案していますが、それに共感する人がとても多いのです。その人が使いたい商品であれば私も使いたいという人も増えたのでしょう。「24時間パルコ」は大げさですが、店舗の営業時間外にもネットでいろいろな情報を発信してもらえるのはありがたいです。お客様の興味は多様化しているので、商品の魅力だけではなく、ライフスタイルの情報発信ツールとして使ってほしいですね。
ただ、会社を背負って発信していますので、注意事項についてはショップと共有しています。

――デジタルを活用した研修は今後どうなっていくでしょうか。
中野 ショップスタッフが何に悩んでいるのかを吸い上げ、それを解決するお手伝いができればいいです。常に時代にあった研修が求められます。WEB研修や人材定着研修も時代の変化が生み出したのです。今後はさらに進化していきます。
そしてリアルの現場を持っているパルコですから、お客様が何を期待しているのかをしっかりと把握することにつながる研修になっていけばいいですね。
(長井雄一朗)