13人に1人がレイプ被害に遭う性暴力大国「日本」は政府の啓発もお粗末

内閣府がAV出演強要問題、JKビジネス問題、デートレイプドラッグ、デートDV等の「若年層を対象とした性的な暴力の啓発」を始めたのですが、これが大きな波紋を広げています。これらの問題に対して予算を配分したこと自体は重要な一歩ではあると思うのですが、その中身が酷く、インターネット上で大きな批判を呼んでいるのです。


性暴力を矮小化するような内閣府の表現


まず、デートレイプドラッグに関するキャンペーンでは、「飲み物を飲んだら、急に眠くなって気を失った。気が付いたらセックスの最中だった」という事例が紹介されているのですが、これらの行為が「強姦」「レイプ」「強制性交」に該当するという記述がありません。それゆえ、「それはセックスではなくレイプだろう」「性暴力を矮小化するな」という批判が殺到しました。

確かに被害者にとっては「強姦」や「レイプ」等の言葉を聞きたくない人もおり、そのような人々に配慮した可能性もありますが、それ以前に自分の受けたことは性被害だと認識できていない被害者も多々いるのですから、しっかりと記載をするほうが良いと私も思います。

また、デートレイプドラッグの被害事例をいくつか列挙したあとで、「それって犯罪かも!」と記載しているのですが、この「推測の言い回し」が猛烈な批判を受けました。これが仮に窃盗や特殊詐欺であれば、「それって犯罪かも!」のように推測の言い回しをするでしょうか? おそらく「それって犯罪です!」のように、断定の言い回しをすることでしょう。

安倍首相と仲が良かったとされるジャーナリストの山口敬之氏が、デートレイプドラッグを用いてレイプを行ったと訴えられた際、証拠が揃っているのに不起訴になったことが海外のメディアでも注目を集めるほど大きな問題になっていますが、この事件に関連付けて、「断定の言い回しを避けることで山口氏が犯罪にならない余地を残したのではないか?」「首相に忖度したのではないか?」という憶測すら招いています。


性暴力は「女性の問題」ではなく「男性の問題」


次に、4つの問題全てに言えることですが、どれも被害者女性に対する自衛や電話相談の啓発ばかりで、加害者対策ではない点も批判に上がっていました。

女子体操選手に対して性的虐待を行ったアメリカのチームドクターが、175年の禁錮刑を言い渡されましたが、日本の政策メニューからはこのような「社会による加害者に対する毅然とした態度」が全然見えてこないのです。加害行為という諸悪の根源を根絶させなければ問題は解決することはできないはずなのに、対症療法ばかりに重点的に行っても効果が薄いとしか言えません。

日本の行政はいい加減、これらの女性に対する暴力の問題は「女性の問題」ではなく「男性の問題」であるという発想の転換を行うべきでしょう。啓発や教育すべきは男性側であり、必要なのは男性の加害防止教育です。法務省と連携してさらなる厳罰化を目指すこと(デートレイプドラッグの単純所持罪等)や、レイプ表現に対する暴力表現表示義務の実施、文部科学省と連携して男子の加害防止教育の徹底等を行う必要があると思います。

信用されていない国や社会が相談なんてされるわけない


もちろん、相談窓口を設けること自体は悪いことではありません。確かに必要なインフラです。
ですが、現時点で十分に利用されるか、大いに疑問を感じます。

まずは加害者対策を徹底的にやった上で、「私たち国や社会はこれだけ加害者と戦っている。私たちはあなたの味方です。だから安心して相談してほしい」のようなメッセージを被害者にも発するなら分かります。ですが、ほとんど加害者対策を打っていない国や社会に、心に傷を負って、人間不信になっているかもしれない被害者が、安心して助けを求められるでしょうか?

被害者が「相談してみよう」と思えるのは、国や社会やその組織が「自分の味方になってくれる人たちがいる」という実感ができた時です。そういうことを十分にしていないのに、「相談して!」と言っても、おそらく利用する人は限定的でしょう。
被害者相談をやるのにも、必ず加害者対策がセットでなければならないのです。


13人に1人がレイプ被害遭う性暴力大国・日本


先日、内閣府が3年に1度調査を実施している「男女間における暴力に関する調査」の平成29年度において、7.8%もの女性がレイプ被害に遭ったと回答しました。約13人に1人という異常過ぎる数字です。実際に被害を訴えた人との間に圧倒的な開きがあります。「日本は性犯罪が少ない」と言われることがありますが、やはりそれは嘘であり、大半が泣き寝入りをしているだけという日本の現状がここから分かるはずです。

なお、3年前の6.5%より1.3%増ですが、学校が正確な数字の把握を始めたことでイジメ件数が増加したケースと同様、レイプの件数自体が増加したのではなく、インターネットによって情報が入手しやすくなったこと等によって、自分が受けたことはレイプ被害だと認識できた女性が増えたのではないかと私は考えています。

「性暴力に遭ったことがある」と回答する女性は約3割であるに対して、「痴漢被害に遭ったことがある」という女性は約3人に2人(63.8%)に及ぶという調査(2004年11月東京都実施)もあり、痴漢が性暴力であるという常識がこの国では広まっていないことが分かるわけですが、それと同様に、知人や恋人等から望まない性行為をされたのに、それをレイプだと認識できていない日本人女性も多いことでしょう。


「嫌よ嫌よも好きのうち」という加害者の勝手な妄想をいまだに垂れ流す人たちがいて、女性に「あなたの受けた性被害は暴力じゃないよ」と教えているわけですから、「認識できていない」という暗数も含めれば、性被害の件数は7.8%よりさらに多いはずです。

NHK・Eテレが痴漢セカンドレイプ番組を放送


何故これほど泣き寝入りさせられる女性や、そもそも被害を受けたとすら認識できていない女性が多くなるかと言えば、やはり一番の原因は性暴力を矮小化したり、エンタメ化するような雰囲気が社会にあることが最大の要因だと思います。

その典型的な事例が先日起きました。NHKのEテレで2018年3月28日に放送された「#ろんぶ~ん」では、痴漢を面白ネタの材料に扱う番組を放送し、当然インターネットで大きな批判を浴び、たくさんの抗議を受けていました。痴漢は犯罪なのに、それを「楽しむ」ことの題材にしてしまうNHKの倫理観はどうなっているのでしょうか? 公共放送ですら、この程度の認識であることに驚きを隠せません。

番組PRのVTRでは「イライラとムラムラが充満する満員電車」というナレーションが流れていますが、痴漢加害者は加虐欲や支配欲を満たすことが目的であり、性欲と性暴力欲は違います。それを混同することは暴力の矮小化であり加害者幇助ですが、それをなぞるようなエンタメ番組を流せば、数多いる被害者女性たちへのセカンドレイプになることは確実です。


世界で活発化する#MeTooムーブメントは、性暴力そのものに対する反対の声というよりも、性暴力を抑圧したり矮小化したりエンタメ化してきた社会に対して反対の声だと捉えることのほうが正確だと思うのですが、あろうことかNHKのこの番組はそれとは真反対の「加害者#MeToo」を行っているわけです。

「痴漢を面白ネタにするようなセカンドレイプ番組をやるくらいなら、私たちに性教育(≒健康教育、人権教育、人生プランニング教育etc)の番組をやらせて欲しい! 日本中から第一線かつ現場で活躍するスペシャリストたちをゲストに呼んで、視聴者の人生を豊かにすることに資する番組にしますよ!」と思うのですが、世界の性教育から30年以上遅れている日本では、そういう番組はあと30年以上経たないと登場しないのかもしれません。

ジェンダーの専門家をもっと関与させるべき


今回は内閣府の啓発キャンペーンの問題点に焦点を当ててきましたが、女性への暴力の問題等、ジェンダーが絡む問題に関して行政の認識は特に疎いわけですから、意思決定過程においてより専門家やオピニオンリーダーの関与を高めるべきだと思います。これは先ほどのNHKの番組作りにおいても同様です。

それは決して炎上防止のためにやれと言っているわけではありません。限られた税金や予算の中で最大限の効果を発揮することを考えれば、広告代理店にお金だけ払って、効果がない施策を打って炎上を繰り返すことは、被害者だけでなく国民全体にとっても損失でしかないのです。


内閣府は4月を「AV出演強要・『JKビジネス』等被害防止月間」と定めたとのことなので、しっかりと軌道修正をして臨んでいただきたいと思います。まずは、キャンペーン名を「被害防止月間」ではなく「加害防止月間」に改めることから始めてほしいです。
(勝部元気)