連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第16週「抱きしめたい!」第93回 7月18日(水)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二

93話はこんな話


いよいよ新居に引っ越しという段になって、涼次(間宮祥太朗)が新居を変更する。そこは・・・。


映画が暗礁に乗り上げる


2000年春、いよいよバブル崩壊の暗い影が・・・。それは映画製作にも多大な影響を及ぼす。
「追憶のかたつむり2」の出資会社が出資を取りやめたことを、エグゼクティブプレミアムプロデューサーの斑目(矢島健一)がまず涼次に伝える。
映画が半分以上出来上がっていても出資が止められお蔵入りになることは、この世界ではよくあること、と斑目はクールだ。

その頃、鈴愛(永野芽郁)は茶碗を割って「やな予感」を覚えていた。
予感は当たり、新居が変更に。それは涼次が暮らしていた三おばの家の、離れだった。


夫婦はもともとは他人


嫁ぐ娘に電話でアドバイスする晴(松雪泰子)。
「家族と夫婦はちょっと違う」「もともとは他人や」。なので「ちょっと努力がいるかもしれん」。
優しい言葉──たとえば「ありがとう」とか「ごめんね」とかを口に出してかけてあげたほうがいい。

これまでずっと鈴愛が「ありがとう」「ごめんね」を言わなかったのは、家族の間では言わずともわかるという意識を他人にまで当てはめていたことがここへ来てようやくわかった。まあ、大方そうだろうとは想像できたが。これからはちゃんと「ありがとう」「ごめんね」のコミュニケーションができるドラマになると視聴者のストレスも少し軽減されるだろう。


人間がふたりだと重たすぎるじゃん


涼次は元住吉(斎藤工)との最後の夜を過ごす。
「犬みたいで猫みたいなところがある」と涼次のことを言う元住吉。だから、この狭い部屋で一緒に暮らせたと。
「人間がふたりだと重たすぎるじゃん」とはけだし名言。
「おれ、捨て犬ぽいところありますからね」と返す涼次。自分で自分のことを「捨て犬っぽい」って言う人も珍しいようにも思うが、その自覚こそが、甘え上手につながっているのだろう。
「天涯孤独」「捨て犬」などクリシェを用いて他人の懐にするっと入っていく、それこそが彼が幼い頃に両親を失ったハンデをプラスにして生きのびて来たアイデアだろう。

鈴愛と涼次はやっぱり似た者同士と思う。
いや、待てよ、もしかして鈴愛にとって寂しいから犬や猫を飼うようなものだったりして?

お茶の作法


新居に引っ越してきた早々、大家から母屋への呼び出しが。
キンキラキンの和室で光江(キムラ緑子)が待ち受けていて、お茶を出される鈴愛。
何かとドジっ子の鈴愛だが、なぜか、お茶の作法は知っていた。
畳のへりを踏まず、ちゃんとお茶をいただける鈴愛。正座もちゃんとできるし、丁寧に挨拶もできる。
これまでの彼女とは別人のようだ。
ところが肝心のところで大失態。光江の顔を覚えていなかった。あろうことか、カエルの置物? と言い出して・・・。
ひきつる光江。なぜかこのエピソードでは鈴愛ではなく光江が恥をかく。

正座で足がしびれてすってんころりん(3回も!)してしまうのだ。
コケる展開はベタではあるが、キムラ緑子の身体能力は目を見張るものがあった。
脚さばきが軽やかで、下品になってない。バラエティー番組などで女性タレントがあられもなくひっくり返って笑いをとるような感じでは決してない。キムラ緑子のように転ぶのは技と意識の高さが必要だと思う。
「半分、青い。」93話。バブル崩壊、株価下落、新居変更
連続テレビ小説「ごちそうさん」完全版 DVDBOX1 NHKエンタープライズ
キムラ緑子と朝ドラといえば「ごちそうさん」(13年)。ヒロインをいびり尽くす小姑役は凄まじいものがあった。

「ごちそうさん」

それにしても、さらっと2000年になっていた。

99年から00年になる時って世の中もっとざわついていた気がするが、昭和から平成も、20世紀から21世紀もいっさい触れない「半分、青い。」。とことん、“私”個人の物語なのである。
(木俣冬)