信一朗「でも俺、決めたんです。忘れることはできないけど、もうこれ以上あの事件に縛られるのはやめようって。
引きずってたら、一生、前に進めないですから」

5月31日(木)放送の木曜劇場モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―(フジテレビ系列)第7話。
守尾信一朗(高杉真宙)もまた、入間(高橋克典)や神楽(新井浩文)に人生を壊された被害者だ。復讐心に飲み込まれている真海(ディーン・フジオカ)と対照的な言葉がまぶしい。
「モンテ・クリスト伯」謝らなかった大倉忠義、さすがに鈍すぎた復讐鬼ディーン・フジオカ7話
イラスト/Morimori no moRi

復讐の先にあった虚無


7話にしてついに、真海をおとしいれた犯人の1人・南条幸男(大倉忠義)が死んだ。
香港マフィア・ヴァンパとの関係や、暖(=真海)を逮捕させるために嘘をついていたことを愛する妻・すみれ(山本美月)に知られた幸男。信頼していたマネージャーの愛梨(桜井ユキ)は、自分が見殺しにしたショーン・リー(ジョーナカムラ)の娘・エデルヴァであることも明かされた。

6話の「南条幸男のすべてを奪ってやろう。
彼の命さえも」という真海の台詞を思い出す。愛した人、信頼した人、地位や名誉のすべてを失い、幸男は自殺した。

幸男は、愛梨に「人生の全てに懺悔しろ」と言い放たれた。しかし、最期にすみれに宛てた手紙では、自分がいかにすみれを好いていたかを語るばかり。暖をおとしいれたことについては謝罪していなかった。

この期に及んで暖に謝らないんか! だが復讐しても謝ってもらえることはない。
自分のために悔いてもらえることもない。真海の復讐の先にあるものは虚無……。
ここからのクライマックス、真海はこの虚無と向き合っていかなければいけない。

愛梨は、ヴァンパにさらわれたあとに知らない土地で毎日汚い男たちの相手をさせられていた事実を幸男に話した。
3話以降、真海と愛梨の官能的な絡みのシーンがたびたび登場した。お互いに好意を抱いているわけでもなさそうなのになぜ? サービスカットか? と考えていた。


しかし、愛梨はその人生において、異性を慰めたり親愛の情を示したりする方法を「性的接触」しか学べなかったのではないだろうか。そしてそれは幸男のせいだ。
そう捉え直すと、お切ないシーンに思えてくる。

鈍くて純粋なおディーン様


真海の復讐計画にほころびが出始めたように見えてきた。でも、それは杞憂だった。
寺門類(渋川清彦)の死と幸男の失脚によって、神楽と入間は暖が生きていることに気づいたのも真海の想定内のようだ。


土屋「鑑識まで来ていますね」
真海「“匿名の通報”で、死体でも見つかったんじゃないのか」

寺門の死体について、匿名の通報をしたのはおそらく暖か愛梨だ。疑いをかけられることで、自分の存在に気づいた入間との直接対決を狙っている。

復讐計画は順調だ。だが海を見ながら信一朗と話している場面。

真海「ただ、なぜこんなことになってしまったんだろうって、考えてたんですよ。昔はみんな幸せだったのに……」

びっくりして「えー!」と声が出た。

「みんな幸せ」じゃなかったんだよ。幸男は好きな人を暖に奪われたようでつらかった。神楽も、自分が船長になりたかったのに怪我をしてしまい、さらには暖ばかりが慕われて信頼されて悔しかった。
暖とすみれだけが、みんな幸せだと思っていたのだ。真海は、自分が嘘の通報で刑務所に送られた理由は何だと思っているのか。

あまりにも鈍い、良く言えば純粋な真海。
信一朗は別ベクトルで純粋だし、2人が並んでいるとほんわかぶりに変に和んでしまう。

今夜放送の第8話からは最終章に突入し、入間家、神楽家を巻き込んで、復讐はクライマックスを迎える。
すみれや信一朗の前では人間らしさを見せるようになってきた真海は、復讐で何を得るのか。

今回登場したショーン・リーは、原作ではアリ・パシャという太守にあたる。「パシャ」というのはトルコの官職名で「将軍」などと訳される。
フェルナン(=幸男)の裏切りにあって殺されるアリ・パシャ。トルコに「アリ・パシャ」と呼ばれるフォークダンスがある。曲も踊りものどかで可愛らしいが、歌詞は彼の死を歌ったものだ(動画)。また、ギリシャのヨアニナ湖付近には、アリ・パシャが殺された場所が実在している。

ドラマでも原作でも、演技や描写の向こう側に、登場人物ひとりひとりの生きてきた背景が見える『モンテ・クリスト伯』。ドラマを見て、原作を読んで、歴史や文化的な背景を知って、と何度でも楽しめる。

(むらたえりか)

【配信サイト】
FOD
TVer

木曜劇場モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―(フジテレビ系列)
原作:アレクサンドル・デュマ(仏)『モンテ・クリスト伯』(1841年)
脚本:黒岩勉
音楽:眞鍋昭大
主題歌:DEAN FUJIOKA 『Echo』(A-Sketch)
プロデュース:太田大、荒井俊雄
演出:西谷弘
制作・著作:フジテレビ