完治「だって、留美さん泣いてたでしょ。なんか無理したんじゃないですか、これ。
こんな大事なお金、使えないですよ」
留美「無理したいの、安堂くんのために。それが、いまの私にとって一番の幸せだから」

5月10日(木)放送の木曜劇場モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―(フジテレビ系列)第4話。
モンテ・クリスト・真海(ディーン・フジオカ)ではなく、神楽(新井浩文)の妻・留美(稲森いずみ)を中心にストーリーが進んでいく。
復讐鬼ディーン・フジオカ「モンテ・クリスト伯」心に穴があいた女の行動は読み易くコントロールし易い4話
イラスト/Morimori no moRi

おディーン様の完璧なピタゴラ復讐装置


真海は、アパレルブランドを立ち上げたい青年実業家・安堂完治(葉山奨之)を留美に紹介する。

完治「僕、むかし親に捨てられて施設にいたんすよ。その頃って、自分の好きな服とか買ってもらえなくて。寄付してもらったものとか、おさがりとかばっかりだったんす。
だから、いつか絶対に自分の服を作りたいって思うようになりました」


かつて、留美は産んだばかりのこどもを入間(高橋克典)に捨てられたことがあった。
庭に埋められたこどもは亡くなったものと思われていた。だが、たまたま空き巣に入った土屋(三浦誠己)によって掘り起こされ、生き延びる。そのこどもこそが完治だ。

自分のこどもだとは知らないまま、留美は完治の事業のために金策をしようと仮想通貨に手を出す。しかし、留美が買った仮想通貨を真海が暴落させる。
慌てて元恋人の入間に金を借りた留美だったが、そのことが夫の神楽にバレてしまう。

神楽「この金は、お前が元愛人から貢いでもらった金だから、好きに使いなよ。でもよ、二度と俺の金に手ぇ出すんじゃねぇぞ! コノヤロー!」

家を飛び出した留美は、その金を完治に渡そうとする。そして、親子だと気が付かないまま身体を重ねた。

恋人とのこどもを失った悲しみが癒えず、夫に愛されることもない留美の心には大きな穴がある。そういう女性の行動は読みやすくコントロールしやすい。
完治のような未来ある若者の役に立つことに充実感を覚え、依存してしまうのもこのタイプ。
「大切なものを全て壊す」と言う真海が、最初に手をかける対象として留美を選んだのも納得だ。

「神楽にとって留美は大切ではないのに、なぜ最初に留美を?」という疑問もあるようだ。
真海が留美を利用して壊したいのは、神楽ではなく入間が大切にしている社会的地位だ。赤子を殺すつもりで捨てた過去が明らかになれば、真海をラデル共和国の刑務所に送ってまで守った警視庁刑事部長という地位が揺らぐ。

ようやく、真海の復讐がスタートした。
留美や完治を利用して入間を、愛梨(桜井ユキ)を利用して幸男(大倉忠義)を、というように復讐の仕掛けが張り巡らされていく。神楽のライバル不動産会社のCMに幸男を出演させるなど、神楽と幸男の関係すら利用する。
ひとりひとり順番には狙わない。周りに少しずつ地雷を埋め込んでいく。この先どこかのタイミングで、ピタゴラ装置のように一気に復讐の仕掛けが発動し、すべてが壊れる算段だ。

15年前、暖(=真海)はすみれ(山本美月)へプロポーズのサプライズ演出をおこなった。
あれ成功したものの、どこか素朴で可愛らしさがあった。
獄中でファリア(田中泯)に教養を与えられたとはいえ、真海はどうやって大がかりなピタゴラ復讐装置を計画したのか。
真海が完璧すぎて、「つらい拷問を受けた」「ファリアに教養を与えられた」のさらに先の説得力がほしくなってくる。話が進むにつれて、過程も明かされると嬉しいのだが。

若い2人の愛も勝つ、か?


周到な復讐計画の一方で、1つだけ真海の手中にはない出会いが発生していた。
かつて暖が働いていた守尾漁業の息子・信一朗(高杉真宙)が、魚市場で入間の娘・未蘭(岸井ゆきの)と知り合ったのだ。

入間に政略結婚させられそうで悲しむ未蘭に、守尾漁業のパーカーを「着てたら奇跡が起こりますよ」と言って貸す信一朗。
彼の言う奇跡とは、父が遺した1億円の借金を思いがけず返済できたこと。同じパーカーを借りた真海が、それを返すときに1億円分の小切手をお礼として置いていったのだ。


父親の会社を失っても漁業の現場で一生懸命に働く若者と、祖父を慕い大好きな海洋生物の研究をしている女の子。大人の嫉妬と欲望が絡み合う中で、この2人の偶然の出会いと交流にほっとする。
信一朗は真海と助け合った関係でもある。きっとこの2人には、真海も手を出さないのではないか。しんどい復讐劇の清涼剤だ、と思ったが、よく考えるとそうはいかない。

真海は、未蘭の大好きな祖父・貞吉(伊武雅刀)の身代わりとして刑務所に送られたのだ。貞吉に復讐すれば、未蘭を悲しませることになる。

1話で何度も繰り返された「愛は勝つ」という言葉が頭に浮かんでくる。信一朗と未蘭の間に愛が生まれたとして(原作では恋人同士だ)、2人の愛は入間や真海に勝てるだろうか。それとも、真海が2人に復讐の余波が及ぶことに気付き計画を変えるだろうか。
「計画通り」といきたい復讐に不確定要素が混ざった。

登場人物の背景が明かされると、見る人によって「誰に幸せになってほしいか、誰を応援したいか」が変わってくる。誰に共感、あるいは同情するかによって、復讐の後味も変わるはずだ。
自分の復讐観や、許せること・許せないことについて改めて考えてしまう。引き込まれる展開になってきた。

第5話は、今夜10時から放送予定。

(むらたえりか)

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木曜劇場モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―(フジテレビ系列)
原作:アレクサンドル・デュマ(仏)『モンテ・クリスト伯』(1841年)
脚本:黒岩勉
音楽:眞鍋昭大
主題歌:DEAN FUJIOKA 『Echo』(A-Sketch)
プロデュース:太田大、荒井俊雄
演出:西谷弘
制作・著作:フジテレビ