4月19日(木)、木曜劇場モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―(フジテレビ系列)がスタートした。
原作は、日本では「巌窟王(がんくつおう)」の名で知られるフランスの名作『モンテ・クリスト伯』(アレクサンドル・デュマ)。
主人公のエドモン・ダンテスをもじった柴門暖(さいもん・だん)を演じるのは、ディーン・フジオカだ。
おディーン様の復讐前日譚「モンテ・クリスト伯」最後に愛は勝つのか、複雑な1話を解きながら妄想してみた
イラスト/Morimori no moRi

怒涛のストーリーと主要人物をおさらい


公式サイトやポスターには、宗教画のようなメインキャストの写真と「それは、震えるほど美しい復讐劇。」というキャッチコピー。コピーのとおり、水産業者「守尾漁業」の船員である暖(ディーン・フジオカ)の復讐物語だ。

1話では、暖がなぜ復讐をしなければいけなくなったかという、いわば前日譚が描かれた。映画のようなスケールとスピード感。初見では、ちょっと待って追いつけないよ! と焦った。
原作に沿えば、2話以降もどんどん登場人物が増えていくはず。
その前に、1話のストーリーと主要登場人物をおさらいしておきたい。

2003年の春、暖が乗る遠洋漁業船「海進丸」が遭難した。船長のバラジ(ベヘナム)と暖を信じて待つ守尾漁業の社長や街の人々。その中には、暖の婚約者である目黒すみれ(山本美月)や、暖の母・恵(風吹ジュン)姿もあった。
ある日、海進丸の帰港の連絡が入る。船員たちや暖は怪我をしたものの無事上陸したが、バラジだけは嵐の中で頭を打ち亡くなってしまった。


亡くなったバラジをテロ組織「ククメット」のメンバーと疑っている公安部参事官・入間公平(高橋克典)も、帰港に立ち会っていた。バラジの遺体をまさぐり何かを探す様子は、遠慮や死者に対する礼儀がない。冷酷な人間であることがうかがえる。
のちに、暖がバラジから手紙を預かっていたことを利用して、暖をテロ組織の関係者としてラデル共和国に引き渡す。暖は、ラデル共和国の刑務所で厳しい拷問を受けることになる。

暖が入間に目をつけられるきっかけを作ったと思われる人物が3人いる。

1人目は、暖の友人でありながらすみれに思いを寄せる売れない役者・南条幸男(大倉忠義)。原作では、フェルナンという名前だ。
2人目は、暖とともに守尾漁業で働いており、暖や仲間たちに「カグ兄」と呼ばれ慕われている神楽清(新井浩文)。原作での名前はダングラール。
そして3人目は、幸男と清の先輩、暖の実家を狙う地上げ屋の寺門類(渋川清彦)。原作では、カドルスという名前。


居酒屋にいた清と寺門が、幸男を呼び止めて昼から酒を飲むシーンがあった。3人は、バラジの手紙を暖が持っているという情報をここで共有する。
この場面は原作にもある。ダンテス(暖)とメルセデス(すみれ)が仲良くしている様子を横目に、3人はダンテスを陥れる計画を話し合うのだ。

この「裏切り」の場面を原作と同じ構図にしたのが良かった。不満顔の男たちががん首を揃え顔に影を落として密談している様子。
光の具合や面持ちが相まって、宗教画の一場面として切り取りたいくらい絵になる。
原作を読んでから見るとより重厚さを感じられるのでおすすめ。今後も要所でこういった構図の踏襲が出てくると思うと楽しみだ。

幸男と清に共通しているのは、暖に嫉妬しているということ。暖を恋敵と見ていた幸男と、船長の座を暖に奪われた清。寺門も、町のみんなが「暖ちゃん、暖ちゃん」と持ち上げていることを良く思っていなかった。

男たちの嫉妬心や出世欲、保身などのために、ただの漁師だった暖が生死までをも左右される過酷な状況に追いやられてしまう。

暖を救うのは神でなく愛?


幸せに暮らしていた頃を象徴するシーンとして、暖がすみれにプロポーズをする場面を撮ったホームビデオが登場する。暖とすみれの結婚式でも上映されていた。その結婚式の最中に、暖は警察に連行されてしまう。
ホームビデオのBGMとして流れていた音楽は、KAN『愛は勝つ』(1990年)だった。

また、遭難のあとで退院した暖とすみれが一緒に星を見上げる場面があった。暖が、遭難中の自分の気持ちを話す。

「みんなが寝たあと、一人で甲板に出て仰向けになってさ。『もうこれ、すみれと一緒に見れないんだなあ』と思って、俺、諦めてた。ごめんな」
すみれ「愛は勝つんだよ。どこにいても、暖を連れ戻すから」

「暖を連れ戻」してくれるのは、すみれなのか? 愛なのか? と思い調べてみた。紫色のすみれの花言葉は「愛」なのだそう。すみれは、愛そのものなのだ。

原作では、キリスト教の思想に沿い、ダンテスが「神はなぜ私をここ(この状況)に置いたのか」と答えを求め続ける。それが1つのテーマにもなっている作品だが、日本にキリスト教の思想は根付いていない。
その代わり、復讐の鬼となった暖が「愛」によってどう落とし前をつけるか、ということが芯になりそう。

復讐ドラマのポイントは、制作者やその時代の復讐観が反映されるところだ。
「復讐は誰も望まない」とか「復讐をして虚しさを覚えた」という作品もあれば、「復讐して全てを吹っ切ることができた」という前向きなオチもある。
「モンテ・クリスト伯」は、原作の復讐観に沿うのか、それとも、現代日本でドラマ化する意味のある結末に変えてくるのか。
初回の視聴率は5.1%と振るわなかった(ビデオリサーチ調べ・関東地区)。
しかし、関わる人物も増え、話が面白くなっていくのはここから。

原作において重要な人物の一人に、モンテ・クリスト伯が連れている奴隷のエデという女性がいる。名前から想像するに幸男のマネージャーである江田愛梨(桜田ユキ)がその役を担うことになりそう。
その他の名前もじりや配役の工夫にも注目しつつ、2話からの展開を楽しみに待ちたい。

第2話は、今夜10時から放送予定。

(むらたえりか)

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木曜劇場モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―(フジテレビ系列)
原作:アレクサンドル・デュマ(仏)『モンテ・クリスト伯』(1841年)
脚本:黒岩勉
音楽:眞鍋昭大
主題歌:DEAN FUJIOKA 『Echo』(A-Sketch)
プロデュース:太田大、荒井俊雄
演出:西谷弘
制作・著作:フジテレビ