「憎しみは、憎しみで乗り越えられない。私にそれを教えてくださったのは、千川さん、あなたです」

12月17日放送の日曜ドラマ『今からあなたを脅迫します』(日本テレビ系列)最終回。

愛する人を殺した犯人への復讐のため、脅迫屋・千川完二(ディーン・フジオカ)がたった1人で「財団法人 雨垂れの会」に乗り込んでいく。
「今からあなたを脅迫します」最終回「なぜ人を殺してはいけないのか」問題にひとつの回答を示した
イラスト/まつもとりえこ

最終回 あらすじ


事故死とされていた千川の恋人・来栖稚奈(松下奈緒)。しかし本当は、稚奈の裏切りを許さなかった雨垂れの会代表・富永絢子(真野響子)の差し金による殺人だった。真実を知った千川は、たった1人で雨垂れの会に乗り込み富永を殺そうとする。
金坂澪(武井咲)ら脅迫屋チームは「千川に人殺しをさせたくない」と一致団結し、千川の復讐を止めに入る。

武井咲の体型をカバーした衣装の意義


「今からあなたを脅迫します」最終回「なぜ人を殺してはいけないのか」問題にひとつの回答を示した
藤石波矢『今からあなたを脅迫します』 (講談社タイガ)

「私が依頼人です。亡くなった稚奈さんのために、富永さんに罪を認めさせてください」

傷付いた女性やこどもを助ける「財団法人 雨垂れの会」。代表・富永に、殺人を指示した罪を償わせるため、会の施設に千川、栃乙女(島崎遥香)、目黒(三宅弘城)、スナオ(間宮祥太朗)が潜入した。

そのとき流れていたシリアスな音楽をバックに、アジトで1人お留守番の澪がクリスマスの飾りつけをしているのが、シュールでもあり可愛くもあり。

思えば、澪を演じている武井咲が妊娠しているため、澪の衣装は体型をカバーする形のものが多かった。もちろん妊娠や妊婦のお腹は隠すべきものではないが、大学生役なので、ある程度は目立たなくする工夫は必要だった。
5話で監禁されたときに着ていたラズベリーピンクの横リブニットや、7話で千川と話すときに着ていた白いタートルネックニットと白いラウンドスカートの組み合わせは、特に洗練されて見えた。
妊婦がニットなど暖かそうな服を着ていてくれると、なんとなく見ている方も安心できる。それに、妊娠してお腹が大きくてもこんなに可愛い格好ができるんだ、という気づきが毎回楽しかった。


「あの、私も何かお手伝いを」
千川「金坂澪、今からきみを脅迫する。ここに残って、クリスマスパーティの準備をしろ」
「クリスマスパーティ?」
千川「クリスマスケーキは必ず作れ。さもないと、きみにチキンは食べさせないぞ」

最終回の澪は、白いトップスに丈の長いふんわりとしたジャンパースカートをはいている。脅迫屋チームのアジトでお留守番をしながら、言いつけを守ってクリスマスの飾りつけをしている。
澪がかがんだり振り返ったりすると、ロングスカートがふんわりと揺れる。緊迫した音楽と、澪に流れる日常的な時間。


『今キョー』は、クライム・ミステリであるだけでなく、善と悪をたゆたう「人間の心の揺らぎ」をテーマにした人間ドラマだ。犯罪を生業としている脅迫屋も、家(アジト)に帰ればクリスマスパーティをしたり、ときにはこどもと楽しく交流したりもする。
ピッタリと体型に合った千川の衣装と、ゆったりしすぎるほどゆったりとした澪の衣装。善と悪を象徴し合う2人が、異なるシルエットによってお互いの存在を補い合っていたように感じる。

脅迫はOKで殺人はNG。今キョーの倫理観とは


「今からあなたを脅迫します」最終回「なぜ人を殺してはいけないのか」問題にひとつの回答を示した
ドラマ 「今からあなたを脅迫します」 オリジナル・サウンドトラック/林ゆうき

千川「なぜきみは、俺の邪魔ばかりする。
勝手に脅迫屋に出たり入ったり、家と思えば、拉致されて命を危険にさらしたり。挙句の果てには俺の……」
「復讐ですか。そんなの千川さんらしくない」

第4話で、千川たちの働きにより両親を殺した犯人・添島(前田公輝)と対峙することができた澪。澪が選んだのは、復讐として添島を殺すことではなく、彼に自首をすすめることだった。
今度は千川が、恋人の仇を前にして我を忘れて復讐をしようとする。澪は、添島を殺さなかった自分の経験から「憎しみは、憎しみで乗り越えられない」と、千川を諭す。


「あなたが本当の脅迫屋さんなら、誰1人傷付けたりしない。最後まで、人を救う正しい脅迫をしてください」
稚奈「どうしても脅迫がしたいなら、誰も傷付けない、人が救われる脅迫をして」

澪の願いに、亡くなった稚奈の言葉が重なり、千川は自分を取り戻す。
どちらも犯罪には変わりないのに「脅迫はOK、殺人はNG」という『今キョー』の倫理観がずっと不思議だった。でもそれは、千川が富永に言ったセリフで解決した。

富永「雨垂れの会を守れるのは、この私だけよ。傷つけられて泣き寝入りするしかない人たちを、どうすれば良かったっていうの?」
千川「見てみろ、ここにはあんたが守ってきたものがある。
それで救われた人々。あんた、どっかでやり方を間違えただけだ。
富永絢子、今からお前を脅迫する。犯した罪を償え。さもないと、人を救いたいと願うその心まで失うことになるぞ。人を正しく救う方法なんて、誰にもわからない。だから、生きながら考えろ。たとえ刑務所の中でも。それが、あんたの償いだ」

繰り返すが、本作のテーマは善と悪をたゆたう「人間の心の揺らぎ」。富永も、これまで登場した悪人たちも、一時的に悪に偏ってしまっただけで、また揺らぎ揺らいで善の道に戻ることができる。でも、それは生きていればこそ。
脅迫も、脅迫する行為自体は悪。それでも、工夫によって善の目的を成し遂げることができる。相手を殺してしまっては、善にも悪にもなれない。だから、そのボーダーは守らなければいけないというのが、『今キョー』の倫理観だったのだ。
「今からあなたを脅迫します」最終回「なぜ人を殺してはいけないのか」問題にひとつの回答を示した
イラスト/まつもとりえこ

ドラマ『今からあなたを脅迫します』は、hulu日テレオンデマンドAmazonビデオなどで配信されている。12月24日(日)よる10時29分までは、最終話がTVerで無料配信されている。
ディーン・フジオカのアクションシーン(通称:フジオカクション)も素敵だった最終話。未視聴の方はぜひ。

そういえば、千川に銃口を向けられたときの富永のセリフはしびれた。
富永「どうしたの? 早く撃ちなさい、人殺しさん。死んだってかまわないのよ。私は“会に反発する暴漢に殺された殉教者”。みんなの結束は一層強まるわ」
もしも筆者が正義の暴走により悪に染まった教祖的な女になったとしたら、一度は切ってみたい啖呵であった。

(むらたえりか)
「今からあなたを脅迫します」最終回「なぜ人を殺してはいけないのか」問題にひとつの回答を示した
イラスト/まつもとりえこ

日曜ドラマ『今からあなたを脅迫します』(日本テレビ系)
原作:藤石波矢『今からあなたを脅迫します』(講談社タイガ)
出演:ディーン・フジオカ、武井咲、鈴木伸之、島崎遥香、蛭子能収、三宅弘城、近藤正臣、ほか
脚本:渡部亮平、関えり香、ほか
音楽:林ゆうき
チーフプロデューサー:福士睦
プロデューサー:松本京子、難波利昭
演出:中島悟、狩山俊輔、ほか
制作協力:AXON
主題歌:DEAN FUJIOKA「Let it snow!」(A-Sketch)

Huluにて配信中