連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第1週「わろたらアカン」第1回 10月4日(水)放送より。 
脚本:吉田智子 演出: 本木一博
「わろてんか」3話。早くも釈然としない展開を全力で擁護してみる
連続テレビ小説 わろてんか Part1 (NHKドラマ・ガイド) NHK出版

3話はこんな話


京都の年中行事のひとつと数えられた「くすり祭り」の日、てん(新井美羽)は神社で運命の人・北村藤吉(松坂桃李)と出会う。

話が1話に逆戻り


3話めにしてラストカットを主人公の笑顔に譲った松坂桃李演じる藤吉については、後述するとして、はじまりは、てんと、親戚の丁稚・風太(鈴木福)との顔芸。
お父さん(遠藤憲一)の真似して目をつりあげた新井美羽の顔の仕上がりがじつにすばらしかった。


祖母・ハツ(竹下景子)から風太にカメラがパンしたり、てんと風太のやりとりを右に左にカットを矢継ぎ早に切り替えて見せたりして、見え方が単調にならないようにがんばってはる。
なんとかして第一の盛り上がり・運命の人(松坂桃李)との出会いまでボールをつなげようという努力を経て、話は、1話の冒頭、お祭りの日に戻る。
正確にいえば、戻ったのではなく、1話で時間がすでに戻っており、そこからお祭りの日に進んできたというわかりにくい構成になっている。
1話で「話はおまつりの日の少し前にさかのぼりますが」と小野文惠アナがナレーションしていたとはいえ、近未来過ぎて、時制を混乱する視聴者もいたンじゃないだろうか。
しつこく書くが1、2話と松坂桃李のアップで終わらせていることからして、彼との出会いに、すべてを賭けている、そんな涙ぐましさを「わろてんか」という浪花節的なものさえ感じてきた。

そして、また、わかった。

「わろてんか」とは「恋」のドラマなのだ。

主人公が恋と銭に目覚めた瞬間


「わろてんか」を「笑い」という芸の話と思ってみると見間違う。
主人公の「笑い」に対する想いは、どうやら、すべて「恋」が原動力になっているようだ。
まつりで、てんが、落語「ちりとてちん」を楽しんでいると、お金を払わず観ていたことをとがめられ逃げた拍子に舞台に上がってしまう。
芸を邪魔してしまったてんを、お客さんが笑って観ていて、それに対して彼女の表情は高揚していく。そこに「(てんが)はじめて笑いの力を知った瞬間でした」とナレーションがかぶる。
芸事に一家言ある人だったら、これはあかんと思うだろう。
芸を邪魔した自分が笑ってもらって何が笑いの力か。
でも、違う。大事なところはそこではない。
その後、てんは、風変わりな着物を着て、芸人と名乗る藤吉に出会う。
境内を華麗に疾走し、てんからチョコをもらって嬉しそうな顔をするこの男が、てんの名前の「てん」は、事前に紹介されていた言葉「てんご」(いたずら)のてんだと言う。
だが、笑うことを禁止されているんだとしょんぼりするてんに、藤吉は、「笑いは何色か知ってるか?」と意味深に訊く(でもその答えは風太に邪魔されてしまう)。


笑ってはいけないという、いわゆる“呪い”を解いて、彼女をもっと広い世界に連れ出してくれる、王子様との出会いである。

てんは、芸人の男に恋し、彼と生きていくために、笑いを商売にすることに目覚めるのである。
舞台の上から、落語を、そして自分を観て笑っている人たちを観たてんは、笑いが銭を生む力があることに目覚めたのだ。
のちのやり手興行師の誕生である。
そう思えば、この展開は、ちっとも不自然ではない。

そして、ここに、恋愛ものを得意とする吉田智子を脚本に起用した意味が出てくる。

ティーン向けの恋愛映画ふうを狙った作品だとしたら、手堅いつかみだ。
それが、吉と出るかは、もう少し様子を見たいと思う。

今日のおにいちゃん


バイタリティーにあふれている妹と比べ、おにいちゃん・新一(千葉雄大)は今日も安定の儚さだった。一瞬、けほっと咳き込むところなど芸が細かい。