「希望の党が政権を取ってからは世の中が少しずつおかしくなっていき、気づいたときには誰にも止められなくなっていたのです」
現実を先取りしていた金子修介監督「希望の党」選挙前に必見です
『希望の政治 - 都民ファーストの会講義録』中公新書ラクレ
小池 百合子編著

9月28日、衆議院が解散され、10月10日公示、22日投票の日程で総選挙が実施されることになった。台風の目というか、巨大台風そのものになっているのが小池百合子東京都知事率いる「希望の党」だ。野党第一党だった民進党を飲み込み、勢力を増しながら進撃を続けている。

「希望の党」の設立が発表されて以来、「現実を先取りしていた」とネット上で話題になっている動画がある。ショートムービー『希望の党☆』だ。

今から12年前の2005年に、総務省と財団法人「明るい選挙推進協会」の依頼により、平成ガメラ3部作や『デスノート』シリーズなどで知られる金子修介監督によって制作された。20分ほどの小品であり、現在はYouTubeの金子監督のチャンネルで全編観ることが可能だ。ちょっとした時間ですぐに観られるので、ぜひ観てみてほしい。

前編


後編



選挙権剥奪! 痴漢は死刑!


主人公は平凡なサラリーマンの父(木下ほうか)と女子高生の娘(渋谷飛鳥)。父親は選挙への意識が低く、10年も選挙に行っていない。政治に関心のある娘に「明日行くよね? 選挙」と言われても、「誰が政治家になっても日本そんなに変わらなくない?」と明るく返して、選挙当日も妻と一緒にデートに出かけてしまう始末。

ところが選挙の結果、過半数を獲得して政権を取るのが「希望の党☆」だ。若者に支持された「希望の党☆」は次々と斬新な政策を実現させていく。

たとえば、父は“国民権利義務新法”によって選挙権を剥奪されてしまう。「あり得ない」と一笑に付す父だが、それは現実だった。その代わり、「希望の党☆」に参加していた娘は試験をパスして特別選挙権を手に入れる。

ほかにも、ペットを虐待すれば重罰、痴漢には容赦なく死刑判決が下される。政治に参加する若者たちは暴走し、日本はあっという間におかしくなっていく。そしてついに戦争が始まる――。

いきなり世の中に現れ、あれよあれよという間に圧倒的な支持を得る政党の名前が「希望の党☆」というのが現実とリンクしている。イメージカラーが緑なのも偶然ながら見事に一致。なにより、権力を支える人々とそれを汲み取る権力が一気に暴走していくところにリアリティがある。

劇中では「希望の党☆」を操る権力者の姿は描かれない。だが、若者たちの“真面目さ”や“正義”が見えない権力者にいいように利用されているのは確かだ。「冤罪というリスクを冒しても犯罪者を許さない」と勇ましい発言をしていた娘が、徴兵されて涙を流すシーンが象徴的である。関係ないが、終盤に漫画家・楳図かずおがものすごい役で登場するのも見ものだ。

「“戦争反対”は“反日”のレッテルが貼られかねない時代」


脚本は劇団アロッタファジャイナを主宰する松枝佳紀。「希望の党☆」というネーミングは松枝氏によるものだ。「前向きな印象をもたせつつ票を集め、結局ひどいことヤラカスならどういう政党名がいいかなと考えた結果『希望の党☆』だったんです」とのこと(ツイッター 9月26日)。ものすごい先見性である。

作品のメッセージは「選挙へ行って一票を投じよう」というシンプルなものだ。劇中では父がいつの間にか選挙権が奪われていたが、これを荒唐無稽と笑ってばかりもいられない。実際、我々はいつの間にか選挙から「選択肢」を奪われつつある。

第一次安倍政権で法務大臣を務めていた長勢甚遠氏は、国会議員が多数参加した会で「国民主権、基本的人権、平和主義の三つをなくさなければ、本当の自立自主憲法にならない」と発言して喝采を浴びた(2012年5月10日)。今回の選挙で政権を争う自民党と希望の党は、いずれも憲法改正を大きな目標にしている。我々が奪われるのは選挙権では済まない可能性だってある。戦争だってずいぶん身近になった。

金子監督はインタビューで次のように語っている。
「12年前は『戦争反対! 日本は戦争しないって決めたんだ』という父親の絶叫も不偏不党のセリフとしてごく当たり前に使われていましたし、ムービーを見た官僚も笑って喜んでいましたが、今や“戦争反対”は“反日”のレッテルを貼られかねない時代ですからね」(日刊ゲンダイ 9月28日)。
「ブラックジョークで作ったつもりなんですけど、突然12年たって目の前に現れてしまったので驚いた。映画のようにならないようにきちんと注目していきたい」(『ビビット』9月29日)。

まずは我々も、政治の動きに注目しつつ、22日に選挙に行くところから始めなければいけない。その前に『希望の党☆』を観ておこう。

(大山くまお)