本日夜9時から日本テレビ系で放送される『天空の城ラピュタ』(以下『ラピュタ』)。ご存知宮崎駿監督の代表作のひとつであり、正統派の冒険活劇であることから人気の高い作品である。


で、そんな『ラピュタ』の魅力のひとつが、多種多様なビークル、乗り物だ。宮崎駿作品に登場するメカは監督本人が超がつくメカオタク・軍事マニアでもあることから、ファンタジックでありつつ妙に説得力があるデザインが大きな特徴。ざっくりと「宮崎メカ」と括られることもある(筆者はこの呼び方があまり好きではないですが)。

『ラピュタ』のメカ描写は本当に細かい。ふんわりと「宮崎作品っぽいメカが出てる」というふうに見ることもできるのだけど、実際の航空機や内燃機関の発達史に沿った描写と、各勢力ごとのキャラクター性が盛り込まれているのだ。というわけで、ここではそのへんのディテールを掘り返してみたい。

今夜金曜ロードSHOW「天空の城ラピュタ」簡単に宮崎メカって言わないでくれ、メカへのこだわり徹底考察
DVDのジャケットでも主役メカ扱いのフラップター。全体の形は飛行艇の機首っぽいけど、上面にはエンジンのシリンダーが収まってるっぽいイボ状の出っ張りがある。

開始30分で怒涛のメカつるべ打ち!


物語が始まるのはパズーたちが住む炭鉱の町、スラッグ渓谷だ。「親方、空から女の子が!」のシーンで親方が釜に石炭をくべていたり、その直後にバルブから蒸気が吹き出すなど、冒頭から「この町では蒸気を動力にしているんですよ!」という描写が続く(炭鉱の立坑の周りに煙突が立っているのにも注目)。人々の服装からも、このスラッグ渓谷のイメージソースは19世紀中盤あたり、産業革命期のイギリスなどだろう。

そこに飛行石を探して乗り込んでくるのがドーラ一味である。彼らが乗っているのがガソリンエンジンを積んだ「オートモービル」であるというのが面白い。パズーがこの乗り物を珍しがっているところからわかるように、スラッグ渓谷では石炭以外の燃料で動く機械はほとんど存在していないのだろう。

で、パズーたちがこのドーラのオートモービルから逃げるのに使うのが蒸気機関車なのだ。
ここ、ガソリンエンジン対蒸気機関の対決になってて、しかもだいぶ差がついていたにも関わらずドーラたちの乗ったガソリン車が追いつくのである。この描写から、ドーラ一味は「田舎の炭鉱では見かけないような、強力なエンジンを搭載したパワフルなマシンを乗りこなす集団」というキャラであることがわかる。

その上さらに強力な集団として現れるのが軍隊だ。スラッグ渓谷には装甲列車で乗り込んでくるのだが、この兵器は実在する。もともとは20世紀なかばあたりまでロシアや東ヨーロッパみたいなだだっ広いところで使われていた兵器なのだが、重厚で多数の砲塔を積んだ姿はまさしく宮崎監督好み。劇中でも妙にディテールが描き込まれており、また下の方のハッチが開いて人が出てくるところの開き方も細かいので、「好きなんだね……装甲列車……」と言いつつ注目していただきたい。


というわけで、映画が始まって30分経過しないうちに「炭鉱のメカ類<ドーラ一味のメカ類<軍隊の兵器」というヒエラルキーが見事に提示されていることがわかる。さらに元ネタに関して言えば、19世紀半ばから20世紀の前半まで、だいたい100年ほどの範囲の機械類を、このヒエラルキーに準じて登場させていることも見て取れる。スチームパンクっぽいメカを無秩序に出しているわけではないのがポイントだ。

「風船みたいな飛行機=旧世代機」なのです


車や鉄道に比べるとより自由な描写がされているのが飛行機械に関してだ。しかしここでも、実際の飛行機の発達にぼんやりと沿った描写がされている。

まず、劇中に登場する機体の中で一番古いであろう飛行機が、パズーの父がラピュタに近づいた時に乗っていた、飛行船みたいな機体である。実際の航空機の発達史でも、まず一番最初に開発されたのは空気より軽い機体を風船のような容器に入れて空を飛ぶ軽航空機だった。
パズーの父が乗っていた機体は浮揚するためのガスが入っているのであろう風船部分の下に人が乗るゴンドラがぶら下がっており、その先端に動力源のプロペラがついている。これは小型の飛行船ということになるだろう。つまり『ラピュタ』の世界では、翼で飛ぶのではなく、気体の浮力で浮かぶようなメカが旧世代機として設定されているのだ。

この「飛行船は古い世代の機体である」というのは、パズーがドーラ一味の母艦である飛行船タイガーモス号に乗り込んだ時にも示されている。この場面でパズーはタイガーモス号の外装が「布」でできていることに驚いているのだ。オートモービルを珍しがっているようなパズーの目から見ても、布製の飛行船はレトロな存在だと示されているシーンである。


これぞ宮崎メカ、フラップター


しかし、ドーラたちが主力機として使うフラップターはそんな古ぼけた機体ではない。この機体はこれぞ宮崎駿のメカデザインというべき、監督の嗜好が詰まったデザインである。全体に虫のようなシルエットでありながら、機体形状自体は1920~1930年代前半の航空機のエンジンカウルのような形状でまとめられている。特に機体上面の2列の出っ張りは、その当時の高速機のカウルに見られたシリンダーを収めるためのイボ状の突起を連想させる。

さらに機体底面の形状は飛行艇のフロートのようなえぐり込んだ形状になっており、機体全体の形状は後の作品『紅の豚』に登場したサボイアS.21の胴体前半のようなスタイルだ。機体上面中央に燃料タンクのキャップがあるのも、前面にクランクを突っ込んでスターターを回すのも、いかにも昔の飛行機っぽい。

このフラップター、飛んでいる時の芝居も細かい。
砦に囚われたシータを助けに行く場面では主翼4枚を高速で動かし全速力を出す。一方、ドーラ一味が初登場した夜中にシータを探している場面に注目してほしい。この場面では前側の2枚の翼は動かさずに滑空させ、後ろの2枚だけで機体を飛行させているのである。「なるほど、この飛び方だと速度は出ないけど、燃料消費は抑えられるから長時間飛んで上から人を探す際には便利なのか……」と納得してしまった。現実には存在しないけど、こういうディテールの確かさを積み上げていることで説得力が生まれる。メカオタク宮崎駿の面目躍如である。

ちょっとだけ登場した軍の飛行機もけっこうすごい


さらに強力な飛行機械を運用しているのが軍である。『ラピュタ』に登場する軍のメカでは空中戦艦ゴリアテが最もインパクトがあるが、ここではあえてパズーとシータが軍に捕まる場面でムスカが乗っていた(ムスカ初登場のシーンでもある)小型の全翼機に注目したい。というのもこの機体、全金属製の波状鋼板でできているのである。この波板は実際に昔の飛行機ではよく使われていた素材。金属板自体は薄くしたいが、それだと強度が足りないので波板にすることでねじれやへこみに強くしたというもので、独特のレトロな魅力がある。しかもこの機体、よく見ると機体の後部に茶色っぽい排気管が見える。ということは、プロペラなどではなくてジェットエンジンもしくはロケットエンジンで飛んでいるっぽいのだ。さらにドアにはポケット付きの布製カバーが取り付けられており、高級将校が乗る連絡機らしいディテールが見られる。

全金属製かつ、プロペラ以上の動力で飛ぶ機体……この時点で他の機体とはレベルが違うが、どうも軍はこの機体をゴリアテの下面にたくさん吊るして使っているようなのだ。注意して見ると、同じようなシルエットの飛行機がゴリアテの腹の部分に3機くらいまとまってぶら下がっている。旧世代機の飛行船とも、レシプロエンジン搭載機っぽいムードが濃厚に漂うフラップターとも一線を画す最新テクノロジーを使った機体。これをふんだんに使うことができることを示し、軍隊の装備がいかに充実しているかを表現しているのである。「19世紀中盤の技術レベルのところにジェットエンジンで乗り込んでくる」という時点で、この世界の軍隊は超強力な機材を持っていることがわかると思う。

本編の内容もさることながら、乗り物のディテールだけでも確かな情報量が詰まっている『ラピュタ』。本当は登場する武器や銃についてもいろいろ書きたかったのだが、残念ながらスペースがないので、その辺は次にテレビで『ラピュタ』が放送された時のお楽しみとしてとっておきたい。
(しげる)