夏のジブリ3連弾の裏で、果敢に発進した新ドラマ「家族狩り」(TBS金曜10時〜)。ジブリアニメのスケール感もすごいけれど、テレビドラマにしては、物語も映像も、ヘビー級な見応えなので、こちらも注目してほしい。


原作は、直木賞作家・天童荒太の小説
映画も大ヒットした「SPEC」シリーズをつくった植田博樹がプロデュースしたこのドラマ、のっけから一家惨殺シーン。美しくも残酷な映像に、思わず身を乗り出した。

そこで、

チェックポイントその1 誰が家族を狩った(殺した)のか?



このドラマは、「誰か家族を狩ったのか?」という謎を追っていくミステリー仕立て。
一家心中のように見せかけて、次々と家族を殺している人物がいる。
誰が? 何のために?
捜査一課の馬見原光毅(遠藤憲一)たちが真相を追う。

チェックポイント2 ニオイに注目



このドラマのチャレンジングなところは、ニオイが事件の鍵となること。テレビからはニオイは出てこないにもかかわらず、演技や映像で、ニオイを表現している。

馬見原(遠藤憲一)が、事件現場に残されたニオイから、犯人に近づいていく。遠藤憲一、鼻が利きそうで、ぴったりの役どころ。

チェックポイント3 困ったちゃんばかりの登場人物たち



馬見原(遠藤憲一)がニオイからマークした女性・氷崎游子(松雪泰子)は「クレームばばあ」の異名をもち、正義感が強いあまり、何かと警察に怒鳴り込んでくる、児童心理司。
空手チョップの手つきで、机をバンバン叩くのが特徴。第一話では22回も叩いていた。
彼女のイライラの原因は、家に認知症のお父さん清太郎(井上真樹夫)。

この認知症のお父さんと、たまたま関わり合いになった美術教師・巣藤浚介(伊藤淳史)は、バスキアみたいに生きたいと願っているが、現実は、40歳手前の同僚・清岡美歩(山口紗弥加)から結婚を迫られ、バスキアからほど遠いドメスティックな日々を送っている。


結婚したがるアラフォーの同僚が、かなりやばい。
一話に関しては、家族狩り(殺人)の行為よりも、空手チョップのクレームよりも何よりもこわいくらいだった。

どういうことか振り返っておく。
強引に肉体関係に持ち込む→家に居座り、私物を置く→宅配の人に奥さん面する→着払いで高価な商品を買い、男に払わせる→周囲にふたりの関係を匂わせる→親に会ってと迫る→決定打・子供ができたと吹聴する
ほら、こわい。
彼女に限って「家族狩り」って「夫になる人狩り」なんじゃないかという気さえしてくる。


チェックポイント4 みんな家族に悩んでる 



認知症のお父さんは、娘のことを、妻や会社の部下に間違えたり、近所を徘徊したり。
その妻(松雪演じる游子のお母さん/浅田美代子)は夫を置いてパチンコ三昧。

挙げ句に、辛い辛いと、尾崎豊「I LOVE YOU」をしんみり歌いだして、娘の気持ちをいっそう追いつめてしまう。

美術教師・浚介は「家族が集まることはない」と暗く意味深に語り、生徒たちには、「家族ほど不条理なものはない。家族とはなんだ? 法律か本能か絆か愛か」と問いかける。

彼にひどいめに遭わせられたと嘘をつく(ひどい!)美少女女子高生・芳沢亜衣(中村ゆりか)は、父親の過度の期待に押しつぶされそうになっている。
ニオイに敏感な刑事の娘はグレているらしい。
ほかに、アル中で娘を虐待している父親も出て来る。


誰も彼もが家族にひどい目に遭っているという悲劇を小説に書いたときの、天童荒太の心境は「家族にかえろう」という風潮がうさんくさく感じたから。
「家族が崩れたことで生じた問題が多々あるのに、解決もしないまま、ともかく家族にかえろうとすると、結局は家族内の弱いものに我慢を強いることになる、ことに子どもにしわ寄せがゆくのが明らかだったからです」(新潮社のサイトから

この小説が誕生したのは95年。04年に、全面的に改稿されたバージョンが発表されて、上記のコメントはそのときのもの。
そこから10年。現在、少子高齢化時代、晩婚化が進み、結婚してない人、子供を生まない人も増加する中、政府は盛んに結婚して子供を作ろうと煽っている。そんなときのドラマ化は、タイムリーでもあり、皮肉でもあり・・・。


チェックポイント5 2014年版 ますます深い家族の闇 



前述のアラフォー結婚したがり女性・美歩の設定は、ドラマオリジナル。
結婚してない、子供生まない、そんな女性が増えれば増えるほど、いけないことのように思われ、追いつめられていくことも増えた今、結婚をあせる彼女こそ、昔よりもいっそう深くなっている家族に関する闇を体現しているのではないか。
それから、もうひとりオリジナル設定の人物がいる。
唯一、妻も子も大事にしていて、健やかに見える、美術教師の元教え子・鈴木渓徳(北山宏光)。
「こいつもおれの子かっていったらがちわかんないすけどね」などとさらっと言うから、こわい。
彼もまた、現代の、新たな闇を担っていそう。

チェックポイント6  辛さから逃げるには、もっと辛くなること? 



パチンコ依存の母は「この家にいると辛いから」自分はパチンコに逃げ、娘(クレームばばあ)のことを「もっと辛い仕事(に逃げているんです)と言う。


辛い辛いの連続は、ジブリ三連弾より強烈。
生きることは、辛く悲しいことばかり。だからせめて、自分より辛そうな登場人物が描かれているドラマに逃げこんではいかが? という提案なのだろうか、このドラマ。
2話以降も、まだまだ悩み苦しむ人たちが出てくるようだ。

家族団らんしながらリビングで見ると気まずいけれど、大なり小なりワケあってひとりぽっちの人には、このドラマ、むしろ癒されるかもしれない。
一話の最後なんて、一家心中か殺人か? という事件がまた起こったとき、その家の息子の死体(部屋に羽が舞っている)を見て、刑事(遠藤憲一)が「美しい」と思ってしまう場面なのだから。

ともあれ、今、最大に気になるのは、二話目で、クレームばばあ(松雪泰子)が、何回机をバンバン叩くか?と、美術教師・浚介(伊藤淳史)が、同僚美歩(山口紗弥加)に狩られちゃうのか、はたまた逃げられるのか? ってことである。

真面目なドラマなのに不真面目な見方して、すみません!

あ、でも、クレームばばあこと游子のチョップは、お父さんの癖を受け継いでるらしいことが回想でわかるので、しんみりしちゃうのだ。

(木俣冬)