全日本こっくりさん同好研究調査会会長の米光一成です。
コックリさん、心霊写真、透視捜査、ピラミッドパワー。

七十年代に少年だったぼくが強烈に影響を受けたのが、オカルトブーム。
それを牽引した男が、中岡俊哉(なかおかとしや)だ。
彼の評伝が出た。
タイトルは、『コックリさんの父 中岡俊哉のオカルト人生』
コックリさん、心霊写真、透視捜査、ピラミッドパワー『コックリさんの父 中岡俊哉のオカルト人生』

中岡俊哉は、『テレパシー入門』『狐狗狸さんの秘密』『恐怖の心霊写真集』『ピラミッドパワー』などの大ベストセラーを連発した。
超能力のテレビ番組にもたくさん関わっている。

1969年、「ショック!」という番組で、超能力特集をやって、恐山のイタコをスタジオに招いて、あの世の力道山を招霊。
視聴率は20%を越えた。
1974年の「13時ショー」では、スプーン曲げの少年を登場させて、大ブームになる。
1976年、透視能力者クロワゼットを日本に呼んで、透視捜査をやった。

ぼくは、『狐狗狸さんの秘密』『ピラミッドパワー』にどハマりしたクチだ。
ピラミッドパワーというのは、ピラミッドの形がエネルギーを生み出すという説である。

ちゃんとした比率でピラミッドの形をつくり、一辺をちゃんと南北にあわせて置くと、ピラミッドの先端からエネルギーが出てくる。
ピラミッド内の高さ2/3のところにもエネルギーが集中する。
30年以上前に読んだ本の記憶で書いているけど、けっこう覚えてる。
カミソリの刃が切れ味するどくなるとか、みかんが腐らないとか、水がマイルドになるとか、牛乳がヨーグルトになるとか、いろいろ書いてあって、ぼくもたくさん実験した。
本には、厚紙でできたピラミッドがオマケでついていた。
それを使ったり、針金をピラミッド状にして使ったりした。

「ピラミッドジェネレーター」というものもあった。
小さなピラミッドが4列×5段も並んでいて、ものすごいパワーを発するという商品だ。
雑誌の裏表紙の通信販売で、なけなしの小遣いをはたいて買った。
ピラミッドパワーで頭が良くなるというので、タオルで巻いて枕にして寝ていた。刺さって頭が痛かった。

脱線した。


本書は、全五章構成。
プロローグ 一九七四年三月七日の「奇跡」
第一章 三度の臨死体験
第二章 超常現象との出会い
第三章 ユリ・ゲラーと超能力ブーム
第四章 コックリさんと心霊写真
第五章 クロワゼット、衝撃の透視能力
第六章 ハンドパワー、そして「死後の世界」へ
エピローグ 予知されていた寿命

著者は、息子さんの岡本和明と、いわば「最後の弟子」である辻堂真理。
第五章は、当時のテレビ番組の様子も判って、とても興味深い。
透視能力者クロワゼットのテレビ番組の内幕について、だ。
あのころの「水曜スペシャル」は、スポーツ・芸能・超常現象が企画の三本柱だった。
ユリ・ゲラー特番の見世物っぽいところに不満を持っていた中岡は、もっと検証を軸にした番組をやりたいと望んで、参加する。

で、ユリ・ゲラーをしのぐ人物は?ってことで、透視能力を持つジェラルド・クロワゼットを呼ぶのだ。
オランダへ行き、ユトレヒト市警を尋ねる。
刑事が、三冊のファイルにまとめられた捜査資料を示し答える。
「クロワゼットの能力を100%信用している。二十年近くも彼の力を頼りにして難事件を操作してきたが、外れたことは一度もない……」
透視能力を駆使して、数々の迷宮入り事件をクロワゼットは解決しているのである。
そこで、透視能力を使って行方不明の捜索をする番組を企画する。

オランダで透視してもらって、それに従って番組スタッフが捜索する。
放送当日の午前七時四十分、ダムで少女の水死体を発見してしまうのだ。
「電話を受けたときは正直にいって、“まさか”と思ったよ。遺体をカメラに収めたわけだからね。そこまでパーフェクトに事が運ばなくてもよかったのに……とさえ思った。(…)しかも、遺体で発見されたのが七歳の女の子。両親だって番組を観るだろうし、この映像をそのまま流したらどうなると思う?」
映像を観ながら、フタッフのひとりが「この映像を流すのかよ!」と叫ぶ。
映像を流すことに諸手を挙げて賛成したスタッフは一人もいない。
「人の死を見世物にしてはいけない」とスタッフ全員、考えながら、番組の宣伝として使われ、煽る状態になってしまう。
今だと、どうだろう。放送できないのではないか。
当時のテレビが持つ野蛮さと強さが、空前絶後の超能力番組を生み出したのだ。

正直なところ、ぼくも大人になってから、中岡俊哉さんって、どういう思いで、こういった本を書いたり、番組を作ったんだろうと思っていた。
インチキだって判ってて「子供騙し」で、ぼくたちを引っ掛けていたんじゃないか、と考えることもあった。
だが、この本をよむと、少なくとも、中岡俊哉は、真面目に超常現象を研究しようとしていた。
第六章では、「国際サイコトロニクス研究連合」を東京で開催する顛末が描かれている。そこで、中岡は、私財を投げ打って、開催に尽力するのだ。
それまでも、中岡は、不思議な現象を調査するために、何度も現地に行く。
信じる信じないといったレベルではなく、何か不思議なことがあるから、それをどうにか捉えようとしながら活動していたことが判って、なんていうか、少年時代のぼくも救われる本だった。

『コックリさんの父 中岡俊哉のオカルト人生』、カバー裏には、オフィシャル版「コックリさん文字盤」付きだ。(米光一成)