2013年11月4日、東京流通センターにて「第17回文学フリマ」が開催された。ときおり土砂降りになったりとあいにくの天気ではあったが、11時から17時までの開場中、人波が途切れることはなかった。


文学フリマといえば、エキレビ!では毎回、ライターが当日会場で買ったおすすめ本を紹介している。なかにはライターユニットのHKのように、文学フリマで売っていた本がこの企画でとりあげられたことをきっかけに、エキレビ!のライターになったというケースもあったりして、文フリには毎回お世話になっているといっても過言ではない。

今回は残念ながら紹介するライターが私(近藤)を含め3人と少ないのだが、それでも、いずれも各人が自信をもっておすすめする本(ではないものもなかにはあるんですけど)である。以下、各ライターおすすめ本の紹介に、私のコメント(太字部分)を添えてみた。紹介文にはそれぞれ冒頭に本のタイトルと、カッコ内に販売していたサークルの名前を示している。次回以降、参加される方たちの参考になれば幸いである。


■『Madagascar2012』(光森裕樹) 推薦者:米光一成
透明のカードにマダガスカルの写真と短歌が描かれたボックス。すごく綺麗!

■『よくわかるエアコン配管観察』(NEKOPLA) 推薦者:米光一成
配管のルールから構造、分類。実際にエアコンの取り付けをしていた著者による詳細な観察っぷりが楽しい。

NEKOPLAさんは何気にこの企画の常連ではないでしょうか。今回の新刊も買いましたが、またもや新境地を拓いたという感じですね。でも、独自の基準で集めて、独自の基準で分類して見せるというスタイルは今回も変わりません。


■『架空紙幣』(olo) 推薦者:とみさわ昭仁
出展ブースのテーブルに、むきだしで紙幣が置かれていた。しかし、日本の紙幣に見えたものは、よく観察してみると描かれている動物がやけに目のパッチリした白鳥だったりして、そんな紙幣は現行にも過去にもない。だいいち金額表示も「誤万円」や「偽円」だ。そして裏はメモ帳になっている。ようするに、これはあくまでも架空の紙幣ごっこをスレスレのところで楽しむお遊びなのだ。見た瞬間に「今回の推薦はこれに決まり!」って思った。
いざ購入しようと価格表示をを見る。すると、作者は紙幣に値段を付けるのは野暮だと感じたのだろう。頒布価格は「時価」となっていた。

最近、「デイリーポータルZ」で紹介されていて気になっていたのですが、まさか文フリにも出店されていたとは! まったく気づきませんでした(不覚……)。言語と貨幣って、交換するためのツールという意味では、わりと近いところがあると思います。そう考えれば、文学フリマで小説などと一緒に架空紙幣が売られるというのは何らおかしいことではないでしょう。
しかしこれ、どうやってつくっているのか、非常に気になるところです。


■『誠壱のタモリ論』(世田谷ボロ市) 推薦者:近藤正高
ライターの石川誠壱さんによる「タモリ論」。タイトルに書き手の名前が冠されているのは、藤圭子の「圭子の夢は夜ひらく」から着想を得たのだとか。
私も以前タモリについて書いたとき、色々と調べたつもりだったが、石川さんの本を読んでいて、リアルタイムでなければ知りえないこともやはりあるなーとつくづく思った。たとえば、タモリがデビュー当時、アイパッチとレイバンのサングラスを併用していた(イメージがブレてしまうので、このやり方は新人にはご法度ともいえる)という事実や、タモリという芸名が当時いかに斬新だったかという指摘などは、目からウロコだった。
石川さん自身が、初期の「笑っていいとも!」に出演していた頃のエピソードも見逃せない。
とにかく本書は、今後のタモリ研究には欠かせない文献であると、断言させていただきます。

■『中東短歌2』(中東短歌) 推薦者:近藤正高
じつはこの本は、4月に大阪で開催された文学フリマで、見本誌コーナーで閲覧して気になって買いに行ったものの、すでに売り切れて入手できなかったのだった。今回の文フリでは、前回買えなかった『中東短歌1』とともに、10月に出た新刊『中東短歌2』を購入した。
私は短歌についても中東についてもまったく詳しくないが、それでも読んでいると、さりげなく詠まれた光景のなかに、イスラム独特の習俗や文化などが垣間見えたりして面白い。たとえば柴田瞳さんの「往時茫々」と題する連作での、《懸命にHALALマークを探す手がチルド食品コーナーに冷えて》という一首。HALALとは、注釈によると《イスラム法で許された項目のこと。
主に、イスラム教徒が食べられる物を指す》そうなのだが、日本人である詠み手は、いったい誰のためにHAKALマークのついた食品を探しているのだろうか。想像をかき立てる。
本書に寄稿しているのは、中東諸国に在住経験を持つ人のほか、旅したことのある人、なかには「中東っぽい顔をしてるねー」と言われているというだけで(?)メンバーになった人もいるという。その年代も、60代から20代までと幅広い。何より、中東を題材にした歌集というのが珍しい。私がブースに足を運んだときにも、その前後に何人かお客さんが買いに来ていた。すでに固定ファンがついているようである。

以上、5冊を紹介した。いつもとくらべると少ないけれども、どれも「何か濃い」ということはわかっていただけたのではないだろうか。

文学フリマは今後、来年の5月5日(月・祝)に今回と同じく東京流通センターで「第18回文学フリマ」が、9月14日(日)には「第2回文学フリマ大阪」が、さらに11月24日(月・祝)には再び東京流通センターにて「第19回文学フリマ」が開催される予定となっている(詳細は公式サイトを参照)。次回以降も、面白い本や新たな才能との出会いを期待したい。
(近藤正高)