「ヒドい」「バカだ」「病気だ」「痛い」「ズルい」「卑怯だ」……などなど、およそ正義の味方とは思えない賛辞の言葉が与えられている特撮ヒーロー作品が、今エッジな特撮ファンの間で話題となっている。

 その名は『非公認戦隊アキバレンジャー』(BS朝日・TOKYO MX)。

 本作は36年という長大な歴史を持つ「スーパー戦隊シリーズ」初となる、「非公認」扱いの特撮ヒーロー作品なのだ。

 主人公は、スーパー戦隊に憧れるイタい29歳・赤木信夫(和田正人)ことアキバレッド。総合格闘技をたしなむツンデレ少女・青柳美月(日南響子)ことアキバブルー。ボーイズラブとスーパー戦隊を愛するコスプレ少女(本当は20代のOL)・萌黄ゆめりあ(荻野可鈴)ことアキバイエローの3人。彼ら『アキバレンジャー』は、自らの活躍を東映に認められて日曜朝に放送してもらうために、秋葉原を狙う悪の組織・秋葉原のオタク文化を否定する悪の組織・邪団法人ステマ乙と戦うのだ。

「痛さは強さ! 非公認戦隊アキバレンジャー!」

 を合言葉に、萌えフィギュアや痛車を駆使して戦う3人だが、敵対する悪の組織もアキバレンジャーの変身アイテム「MMZ-01(モエモエズキューーン)」によって妄想が増幅して生み出された、いわば「非実在」な存在。

まさに「見えない敵」と日夜戦い続ける3人の「痛い」姿は、いい年して特撮ヒーローが大好きな大きなお友達に、大きな共感をもって受け入れられている。

 そんな本作だが、その誕生の裏には2011年から2012年にかけて放送されたスーパー戦隊シリーズ35周年記念作品『海賊戦隊ゴーカイジャー』(テレビ朝日系)の存在があったそうだ。

「企画の発端はまさに『ゴーカイジャー』であり、『ゴーカイジャー』なくして『アキバレンジャー』はありません。スーパー戦隊シリーズは“シリーズ”と冠しつつも、単年度の作品としてその年にその作品を見てくれる子どもたちに重点を置いた、独立した世界観で作られてきました。そんな中で『ゴーカイジャー』は初めて単年度作品を過去のシリーズと絡めて語る作品でした。ただ、そこで登場する先輩戦隊は、あくまで『ゴーカイジャー』たちの魅力を高めるサポート要素の一つとして配置され、見てほしいのは当年の戦隊(=ゴーカイジャーの6人)の活躍であるというスタンスは崩していません。



 一方で『ゴーカイジャー』という作品は、過去の戦隊を知るたくさんの年長のファンの目を再び戦隊シリーズへ向ける強い副作用を発揮し、彼らの応援はこちらの予想を大きく上回る熱さを感じさせてくれました。“『ゴーカイジャー』で『シリーズ全体への愛』を注いでくれた年長のファンの応援を、一年で終わりにしてしまうべきではない”。これこそがアキバレンジャー発想の原点です」

 そう語るのは、東映の日笠淳プロデューサーだ。

 彼は「年長のスーパー戦隊シリーズファンに絞った商品が成立する手応えを得た」という営業上の理由も包み隠さず語る一方で、「かつて送り出した作品を今も愛してくれるファンに喜んでもらいたい」というクリエイター集団としてのモチベーションの高さが『アキバレンジャー』の原動力だと語る。

 そんなファンの愛にあふれた後押しと、ちょっぴりビターな大人の理由から誕生した『アキバレンジャー』だが、その制作体制は本家シリーズと比べても遜色のないガチな布陣となっている。

 80年代から特撮ヒーロー作品に携わり、ゼロ年代のスーパー戦隊を数多く手掛けた敏腕プロデューサーである日笠氏をはじめ、シリーズの顔となる第1話の監督を多く手掛けてきたシリーズ立ち上げの達人である田崎竜太監督。

スーパー戦隊シリーズには欠かせない名物脚本家・荒川稔久など、特撮ファンなら見逃せない大ベテランスタッフの名がズラリと並ぶ。

 しかし、日笠プロデューサーは今や世界に名だたるサブカルチャーの街・秋葉原を舞台に『アキバレンジャー』を描くことに対し、当初は自信が持てずにいたそうだ。

「メインのスタッフは、サブカルチャーの街になってからの秋葉原に通うという経験はほとんどない年寄りだらけなので(笑)、秋葉原の“雰囲気や空気感のリアルさ”を再現できるか自信は持てずにいました。それでもリアルな“アキバ”の雰囲気が出ていると思ってもらえるとすれば、一番大きいのは、もっと若い世代のマニア属性を持つスタッフたちの的確な知識や助言や取材の成果でしょうね。また、それを取捨しまとめる年寄りクリエイターたちが隠し持つふた昔前のオタク魂、オタクセンス的なものが、若い世代のオタクとも共通する部分を持っているということでもあると思います」

 つまり、『アキバレンジャー』は単なるネタ作品というわけではなく、特撮オタクたちの世代を超えた制作体制から生まれた「愛の結晶」なのだ。イイハナシダナー。



 そんな本作は、パロディ要素やメタ表現が多く取り入れられ、「スーパー戦隊」の存在を信じている子どもたちの夢を壊しかねない内容となっているため、「良い子は見ちゃダメだぞっ!」というキャッチコピーが掲げられている。

 そんな「いい大人」のためのヒーロー『アキバレンジャー』が、晴れて公認戦隊となり日曜朝のスーパーヒーロータイムや劇場作品といった陽の当たる場所で活躍する日は訪れるのだろうか。

「我々作り手は、登場人物の“公認になりたい”という希望を、全力で叩き潰すことに日夜努力しております(笑)。“良い子は見ない”ということがある程度保障される環境の中でしか、共演はあり得ません。アキバレンジャーをゲストに呼ぼうなんて言い出す公認戦隊は、スーパー戦隊の風上にも置けないと思います!」

と日笠プロデューサーは冗談めかしつつ語る。

 どうやら『アキバレンジャー』最大の敵は「大人の事情」という、やはり見えない敵になりそうである。

 しかし逆境にある時こそ輝くのがヒーローである。

 非公認という地位に甘んじることなく、公認されることを目指して戦い続ける彼らが晴れてメジャーな世界に立つ日が来るまで、我々特撮ファンもともに応援し続けようではないか。

 ただし、良い子には見せちゃダメだぞ!
(取材・文=有田シュン)

●『非公認戦隊アキバレンジャー』
放送日時:BS朝日 毎週金曜日25時30分~
     TOKYO MX 毎週月曜日25時~
     バンダイチャンネル(http://www.b-ch.com/) 毎週火曜12:00~配信