日常的に頻繁に行われている物の貸し借りですが、ビジネス上で契約書等を用いて貸し借りするのとは異なり、友達間では口頭での約束により物の貸し借りをすることが多いと思います。
「返してほしい」と長いこと言われなかったから返すのを忘れていたり、借りたものをなくしてしまったりすることは少なからずあるかとは思いますが、他の人に売ってしまった…なんてこともあるようです。

友達から借りたものを返さなかったり、なくしたり、もしくは売ってしまった場合はどのような法に触れるのでしょうか。見ていきたいと思います。

●窃盗罪、詐欺罪、横領罪の違い
「他人の財物を窃取した者」が窃盗罪(刑法235条)、「人を欺いて財物を交付させた者」が詐欺罪(同法246条1項)、「自己の占有する他人の物を領得した者」が横領罪(同法252条1項)です。
「窃取」とは、他人が占有している財物を、その意思に反して、自己又は第三者の占有に移すことです。詐欺罪は、騙されたとはいっても、その他人の意思に基づいて財物が交付されるものですし、横領罪は、財物に対する占有が他人ではなく、すでに自分に存在する点で窃盗罪と異なります。

●借りパク行為の刑事責任
友達から本やDVDを借りたにもかかわらず、これを友達に返還せずにそのまま自分の物のようにしてしまう行為を借りパクというようですが、何か犯罪が成立するのでしょうか。

友達の物を自分の物にしてしまうことは、その前提として、友達に返還する意思を喪失したという事実があります。返還する意思を有している限り、返還義務をいまだ果たしていないだけに過ぎませんから、民事責任を生じさせても、刑事責任までは生じさせません。そこで、返還する意思を喪失した時点に分けて考察してみます。
第1に、借りる際に、すでに返還する意思を喪失していた場合ですが、これは裏を返せば、返還する意思がないのに借りたということですから、返還する意思があるように装って、騙して友達に物を交付させたことになるため、詐欺罪に該当します。
第2に、借りた後に返還する意思を喪失した場合はどうでしょうか。友達から適法に借りて、その占有を自分に移転させている状態で返還する意思を喪失するわけですから、窃盗罪の問題にはなりません。
返還する意思を喪失して、自分の物のようにしてしまう行為は、まさに「自己の占有する他人の物を領得」したものとして、横領罪に該当します。
もちろん、「自分の物のようにしてしまう行為」といえるかどうかは、客観的事情から判断していくほかありません。無断で第三者に売却したり質屋に入れたりする行為は分かりやすいですが、長期間返還しないというだけでは、返還を忘れていたに過ぎない場合もありますので、所有者から度重なる返還要求にも応じないなどの事情がない限り、横領ということの立証は難しいといえます。
なお、所有者からの返還の要求に対し、例えば、紛失してしまったなどと嘘をついて返還を断念させた場合、横領行為を完成させるために騙したに過ぎないとして、横領罪が成立するとの見解もあれば、返還義務を断念させることにより不法の利益を得たものとして、より重い詐欺利得罪(刑法246条2項)が成立するとの見解もあります。

●いずれにしても民事責任は残る
借りパクは、たとえ刑事責任を生じない場合であっても、返還義務という民事責任は免れません。友達を失くさないためにも、借りたものはきちんと返すようにしましょう。


*著者:弁護士 田沢 剛(新横浜アーバン・クリエイト法律事務所。8年間の裁判官勤務を経たのち、弁護士へ転身。「司法のチカラを皆様のチカラに」をモットーに、身近に感じてもらえる事務所を目指している。)
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