「日本は強力な国際プレーヤーではない」 今のドイツから日本はどう見えるのか
「スーパーアジア」催事場内

「ドイツでは日本への関心が薄れてきているのではないか?」とベルリンで暮らしていて感じることが増えた。きっかけは、「ドイツ社会における日本文化への関心の高さ」と「独メディアでの日本の話題の少なさ」の相反するふたつの現象だ。


ドイツでは日本文化への興味は強い。この強い興味は、日本のアニメやマンガといったコンテンツの人気に現れており、書店のマンガコーナーのほとんどは日本の作品が占めている。また日本食の人気も高く、最近のベルリンには寿司以外を扱う日本食レストランも数多くある。一方で、ドイツ国内の報道を見てみると、日本についての報道、特に日本の政治経済の報道はドイツでは少ないことが目につく。アメリカやイギリスのメディアでは報道されていた日本のニュースも、独メディアではほとんど取り上げられない。

これら、ドイツにおける「日本文化の人気の高さ」と「日本の政治経済への関心の低さ」というふたつの現象には、どういう背景があるのか。


日本のアニメやマンガはすでに日常の一部


まず日本学の専門家何人かに聞いてみると、「ドイツ社会における日本文化への興味の高さ」と「独メディアでの日本の扱いの少なさ」は、それぞれ別の現象として捉えるべきだと指摘する。

マンガや食文化のような日本文化は、ドイツではすでに日常の一部となっている。最近では、布団や畳などの日本の住文化もドイツで広く受け入れられており、日本文化はドイツにおいてブームに左右されない地位を確立しているからだ。

日本文化がドイツに根付いていることは、筆者も普段の生活において実感している。スーパーにはパック入りの寿司や枝豆サラダが販売されており、これらの商品にはドイツ向けのアレンジが加わっている。この現状は、初めは「異文化」として存在した日本食が「ドイツ文化の一部」になりつつあることを表している。
「日本は強力な国際プレーヤーではない」 今のドイツから日本はどう見えるのか
ドイツのスーパーに売られている、すし



もはや日本は強力な国際プレーヤーではなない


日本文化はドイツ社会に根づきつつある一方で、独メディアにおける日本に関するテーマの扱いはとても小さい。専門家たちは、この状況には日本の経済力が関係していると見る。
経済の弱体化によって、日本はドイツでは強力な国際プレーヤーとみなされなくなった。この認識がドイツ国内の報道における日本の話題の少なさの一因だ。

東日本大震災と原発事故も、独メディアが日本に対する関心を失うきっかけとなった。そしてドイツは地震と原発事故が日本経済に与えたダメージを重く受け止めている。復興や事故処理の費用が際限なくかかることも、ドイツにおける日本に対する懸念を大きくしている。こうした不安が「日本経済は衰退し、日本は国際プレーヤーではなくなった」という見方を強め、独メディアの日本離れを加速させた。


原発事故の対応の遅れは、ドイツにおいて日本社会全体の衰退を象徴しているとの考えも広まった。2012年の独紙ターゲスシュピーゲルは「衰える国、日本」という記事を報じた。この記事には、原発事故にもかかわらず、変わることのない日本の政治と日本社会への疑問が提示されている。

日本はドイツでの人気を保ち続けられるのか?


「日本は強力な国際プレーヤーではない」 今のドイツから日本はどう見えるのか
日本を扱ったドイツ語の雑誌

日本の政治的、経済的な力の低下とそれに伴う日本への印象の変化は、今後ドイツでの日本文化の人気にも影響を及ぼすのだろうか。

専門家たちは、日本の政治的、経済的な力の衰えはあるものの、ドイツにおける「日本文化の人気」にはそれほど影響を与えないと分析している。特にアニメやマンガは若い世代を中心にドイツに浸透しており、その人気は揺らがない。
独経済専門紙ハンデルスブラットによると、独コミック市場の売り上げの約75%は日本のマンガが占める。2010年から5年間で日本のマンガの売り上げはドイツにおいて50%以上伸びているとする統計も発表されている。

経済大国の国際プレーヤーから老齢期にさしかかった文化の国へ。ドイツで筆者が感じた日本への印象の変移は、その過渡期を映し出していた。
(田中史一)