海外のホテルや国内の外国人観光客が多いホテルに泊まると、客室の引き出しに聖書が置かれていることがある。じつはその仏教版があるのを知っていますか? 

『仏教聖典』は、仏陀(ブッダ)が説いた教えを集めた膨大なお経のなかから、例え話や大切な要素を取り出し、分かりやすく現代語でまとめたものだ。
世界でもっとも配布・販売された本は聖書といわれているが、『仏教聖典』はどれくらい広まっているのだろうか。同書を発行する仏教伝道協会にうかがった。

「今まで64の国と地域に830万冊以上を配ってきました。国内外の主要ホテル1万3000軒147万室に常備され、日本ホテル協会加盟ホテルには、ほとんど置かれています。病院では国内の1100軒に備えられ、その他に学校や図書館などへの寄贈もしています」

『仏教聖典』を置いているホテルを各国別に見ると、上位から日本(4149軒)、米国本土(3615軒)、メキシコ(1079軒)、ブラジル(506軒)、英国(483軒)、タイ(482軒)、カナダ(415軒)、ハワイ(390軒)、ドイツ(374軒)、マレーシア(298軒)の10カ国になるという。仏教伝道協会の海外協力機関がある国の頒布数が多い状況にあり、それゆえ米国圏が強いそうだ。


海外に広める場合、英語だけではなく現地の言葉に即すことはとても大切だ。どれくらいの数の外国語に同書は訳されているのか。

「日本語や英語はもちろん、フランス語、ヒンディー語、タガログ語、エスペラント語など計46言語あります。手話に対応したDVD版、朗読CD版、点字、電子書籍にも対応しています」

お経と一言にいっても膨大な数があり、それを1冊の本にまとめるのはかなり難しい作業だろう。どのように編集したのか。

「1925年にその元となる『新訳仏教聖典』として日本で編纂(へんさん)作業が始まり、約5年をかけて最初のものが出版されました。
1965年に仏教伝道協会が設立され、その後この初版を元に何度も編集会議が行われ、現在の『仏教聖典』に至っています。内容は日々の暮らしに深いつながりのあること、親しみを感じる箇所を選んで掲載しています。中国を経由して日本に伝わった、基本となるお経だけでも5千を超え、加えてスリランカやタイなどに伝わったパーリ語のお経もあります。宗派によって大切にするお経は異なりますし、それゆえ重要な箇所を慎重に偏りなく選ぶことは、大変な作業でした。現代に沿った内容にするため識者の会議は毎年行われています」

同書は「人生」「修養」「悩み」「日常生活」「家庭」「社会」といった分野別に索引が付けられ、目的別にも読めるようになっている。「生かされ生きている」と感じ、人生をより意味あるものとして自覚するのが仏教の考え方の1つ。
世界で『仏教聖典』はその一助を担っているのだ。
(加藤亨延)