客からすれば、寿司は非常に衛生面が気になる料理である。日本の寿司屋でさえ衛生面が不安に思える店があるというのに、灼熱の国・タイの路上で握られている寿司は衛生面は大丈夫なのか!? しかしタイに長く滞在していても「寿司に当たった」という話を一度も聞いたことがないのも事実。
ということで、とりあえずタイの路上で握られている屋台の寿司屋で、にぎり寿司を食べてみることにした。

ある意味、路上の寿司屋でにぎり寿司を食べるという行為は、コオロギやタガメを食べることより恐怖。見えない敵と戦う恐怖がある。しかし、江戸時代には寿司屋の屋台が多数あったと聞く。もしかするとタイ人はそれを真似たのでは!? 江戸っ子を真似るとは粋なタイ人だ。まあ、絶対にありえないが。


タイの首都バンコクには、路上で寿司をにぎる“寿司職人じゃない普通の人”が多くいる。普通の人がにぎるのだから、酢飯に期待してはいけない。ただし、ネタはけっこうイケるという話を聞いていたので、食中毒という恐怖はあるものの、ちょっとだけネタに期待。

私が寿司を食べ……いや、挑戦したのは、世界中の旅行者が集まるカオサン通りからほど近い寿司屋台。この屋台で寿司を握っているモンさん夫婦(仮名)は、店頭に並べる寿司がすべて完売してしまうほど大人気の寿司屋台。1カン10バーツ(約30円)なので、お腹いっぱい食べるとすればタイ人にとって高額な食事となる価格だ。


モンさんいわく「いつもは並べてある寿司から選んで買ってもらうんだけど、売れすぎてにぎるのが追いつかなくて、注文を受けてからにぎっているんだよ。商売繁盛はうれしいねぇ~」とのこと。じゃあさっそくにぎってくれよとタマゴとエビを注文。手にビニールの手袋をしていることを考えると、少しは衛生面を考えているようだ。しかし、そう思っているそばからビニールの手袋をしたままお客さんにお釣りを渡している……。手袋の意味なし!

と、とりあえず見なかったことにして、にぎられたタマゴとエビのにぎり寿司を食べてみる。
……何かが足りない。完全に酢が足りない。いや、足りないんじゃなくて、酢が入ってない! みりんのような甘さだけが口の中に広がる。表情がこわばる私を見て「なんか変デスカ? ナハハーッ♪」とモンさん。

もしかすると、タイの寿司は酢を入れないのかも? そう思った私は、寿司が売られているタイのスーパーやレストランに行って確かめてみたところ、スーパーの寿司には酢が入っていなかったが、和食レストランではしっかりと酢が使用されていた。それはどういうことなのかタイ人に聞いてみると、酢が入っていたほうが美味しいが、入っていなくても平気とのこと。
日本人にとって酢はけっこう重要なのだが……。

灼熱の太陽の下で食べる寿司は非常に甘ったるかったが、その暑さのせいか、味のせいか、美味しいとかまずいとかはどうでもよくなり、笑いだけがこみ上げてきた。

それから数日が経ったが、まったくお腹を壊すことなく毎日を過ごすことができている。よく考えてみればタイでお腹を壊したことがない。日本で“生クリームスパゲッティ”だの“納豆クレープ”だのを食べ歩いていたので、免疫がついたかも!? 嫌な免疫だ……。
(空条海苔助)

<今回取材した寿司屋台>
店名:ありません
住所:Th Ratchadamnoen Klang Taladyod, Phranakorn Bangkok Thailand Southeastern Asia