居酒屋が昼に定食を出したり、ラーメン屋が夜になると飲み屋になったり……。
時間帯や曜日によって、提供するメニューや店の屋号まで変える「二毛作」といわれる業態が増えている。


だが、実はなんと30年ほど前から、昼と夜で店の名前も、出すメニューも全く異なる店が、東京・高田馬場にあると聞く。
昼は「吉田屋そば店」、夜は「幸寿司」に変身する二毛作店だ。そばと寿司では、材料などもあまり共通するとは思えないけど……。なぜこんなスタイルに? 幸寿司に聞いてみた。

「もともと寿司屋を親子きょうだいでずっとやってきたんだけど、姉が出戻ってきて、『昼間に店があいてる時間もったいないから』と、同じ場所で商売することになったんですよ」

「あいてる昼の時間帯を有効活用」というところまでは、普通の発想だ。それが、なぜそば屋に?
「昼から寿司を食べようなんて人、あまりいないでしょ。
だから、昼は、手軽な立ち食いそばをやったら? ということになったんです。ちょうど駅前で、ライバル店もいないことだしってことで」

日曜祭日が休みとなるほかは、平日朝6時半から13時半まで「そば屋」を営業し、17時から24時まで「寿司屋」にシフト。確かに、死んだ時間がわずかで、経営効率は良いが、「変身」がどのように行われているのかというと……
「そば屋になるときは、ガス台を置いて、イスを上にあげ、ケースが見えないように台を置いちゃうんですよ」

それにしても、約30年間、「そば屋」「寿司屋」の二毛作をやってきたことは、並大抵のことではない。
しかも、きょうだいで……となると、他人よりも難しい部分もあるだろう。
「夜しか知らない人は、昼に通りかかって『あれ? なんでそば屋に変わっちゃったの?』なんて聞くこともあります(笑)。でも、あんたさんみたいに面白がってくれる人もいるし、興味がてら、そば屋に来てたお客さんが寿司屋にも来てくれたり、逆に、寿司屋のお客さんがそば屋にも……ということもあるんですよ」

同じ店で、時間帯をかえて「そば」「寿司」二本立てにしているメリットを改めて聞いてみると……。

「稼ごうとすればなんとでも稼げるところ」

次々に新しい店ができ、また、消えていく、難しい飲食業界にあって、この一風変わったスタイルを30年も続けてきた重みを感じさせる言葉だった。
(田幸和歌子)