誰もが知っている『テトリス』。いわゆる「落ちものパズルゲーム」の元祖にして最高傑作だ。

とにかく、やめられない、止まらない。いつまでも飽きのこないゲーム性は、まさに中毒になるほどの魅力があった。

そのテトリスの魔性に魅入られた一人に宇多田ヒカルがいる。
「5歳のときから毎日プレイしている」と語り、『テトリスDS』では限界まで得点を重ねる「カウンターストップ」まで達成しているというから驚きだ。

その宇多田の腕前が公の場で初披露されたのは『HEY!HEY!HEY!MUSIC CHAMP』においてだった。果たして、その実力やいかに……?
幾度かのテトリスブームとともに振り返りたい。


ゲーセンのアミューズメント施設化、その裏にテトリスあり


80年代中期に旧ソ連で開発されたテトリスが日本に上陸したのは、88年末のこと。まずは各種パソコンに一斉に登場している。翌月にはファミコンに移植され、同時期にアーケード版がゲームセンターに登場。ここから人気が加速して行く。

シンプルで奥深いテトリスの魅力は、それまでゲームセンターに足を運ばなかった層を掘り起こした。
UFOキャッチャーを始めとするプライズゲーム機が導入され始めた時期とも重なり、それらと並んでカップルや若い女性を呼び込む牽引力となったのだ。

それまで不良やマニアの溜まり場的イメージだったゲーセンだが、ライト層の動員が増えるに連れ、清潔で開放的な明るい空間にシフト。
今のような健全なアミューズメント施設になったのは、テトリスの果たした役割が大きいともいえるだろう。

携帯型ゲーム機「ゲームボーイ」でテトリス人気爆発


翌年6月にはゲームボーイにも登場し、424万本というGB史上No.1のセールスを記録。ブームはさらに加速する。
いつでもどこでも遊べるのはもちろん、通信ケーブルを使った対戦モードが最大のポイントだ。自分が消したブロックが相手のフィールドにせり上がって邪魔をするシステムが、対戦を白熱させる。対戦相手の画面が見えないので不意を突かれることも多く、そのハプニング性の高さも躍進の要因となった。

この後、毎年様々なハードから数多くのアレンジ版が登場するが、ゲームマニア寄りになって行った感は否めない。
しかし、意外なところから再び大きなブームが到来するのである。

『ごっつえぇ感じ』で行われたテトリス対決とは?


96年に登場したテトリスをモチーフにした携帯ミニゲーム機(記事はこちら)がその火付け役だ。
その販路は広く、スーパーやCDショップを始め、一部コンビニにもあったほど。千円ほどのお手頃さもあって、再び普段ゲームをしない層にテトリスが浸透して行く。

この復活したテトリスブームに乗って、秋には『ダウンタウンのごっつえぇ感じ』で「芸能界テトリス王への道」という企画が行われたことも。ゲーム好きとして知られる松本ならではの肝いり企画だ。
しかし、松本の意気込みに反して、テトリスの腕前は普通レベルといったところ。


当初は「キング・オブ・テトリスト」を自称する松本人志が10人の芸能人に勝ち抜き対戦する内容だったが、対戦相手のPUFFYの2人や河相我聞の方が上手かったため、「松本が何人勝てるか」に企画変更している。
いずれにしても、2週に渡ってゴールデンタイムで放送されたのだから凄いことだ。テトリスが完全に市民権を得ていることが伺える。

『HEY!HEY!HEY!』で見せた宇多田ヒカルの腕前


この企画の発展系となるのが、01年3月の『HEY!HEY!HEY!』での松本と宇多田ヒカルのテトリス対決だ。

「オレほんまにテトリスうまいよ。ブロックの角が丸くなるまでやったから」なんて、天才的なボケを見せる松本に対し、メガネを掛けた本気モードの宇多田は、迷いのない素早いコントローラーさばきで松本を圧倒。3本勝負を2連勝し、松本泣きの3戦目もあっさり返り討ちと、見事な腕前を披露している。


このころの宇多田は、7thシングル『Can You Keep A Secret?』をリリースし、主題歌となったドラマ『HERO』が毎回30%超えの視聴率をたたき出すなど絶好調期。前年のNHK「好きなタレント調査」では女性タレント部門の1位を獲得するなど、圧倒的なカリスマを誇っていた。
そんな宇多田だから影響力は絶大だ。テトリスの社会的地位を爆上げし、広くセールスにも貢献したのは間違いないだろう。

宇多田は『HEY!HEY!HEY!』500回記念にVTR出演した際に「ずっとこれからもテトリス名人の道を突っ走って行こうと思っています」と語ったが、後にこれを体現するイベントが開催されてしまうから面白い。

奇跡のイベント! 宇多田ヒカルと素人30人のタイマンバトル


06年、ニンテンドーDSで発売された『テトリスDS』がミリオンセラーになり、新たなブームを起こす。
そんな中、“テトリス名人”宇多田ヒカルと一般人がこの『テトリスDS』で対戦するイベントが開かれたのだ。
会場は有楽町の東京国際フォーラム。クラブ二ンテンドーの会員限定イベントであり、抽選で選ばれた30人と宇多田の1対1のタイマン勝負が実現している。

序盤こそミスが重なったものの、ペースを取り戻してからは速攻で畳み掛け、実に26勝4敗の好記録をマークしているのだから、その実力は本物だ。
このイベントでは、さらに任天堂の開発チームの達人と9戦も行っているのだから、その集中力も凄すぎるが、それだけ夢中にさせるテトリスというゲームもまた凄いのである。

数え切れないほどのバリエーションがあるテトリスだが、筆者がハマっていたのはお手軽パソコン「MSX」版。プログラミングに興味を持って買った「MSX2+」だったが、見事にテトリス専用機になってしまったのだった……。

※文中の画像はamazonよりCan You Keep A Secret?