話題の映画『ダンケルク』監督が撮った出世作『メメント』の衝撃を振り返る【キネマ懺悔】

『メメント』(※写真はAmazonより)
映画館が戦場になる。

IMAXの巨大なスクリーンとサウンドシステムで『ダンケルク』を観賞すると、まさにそんな気分にさせられる。第二次世界大戦中、ドイツ軍によりフランスの港町ダンケルクに追い詰められたフランスとイギリスの連合軍の撤退作戦の様子を描いた本作。

やべーよ、やべーよ、やられちゃうよ……と気が付けば、手に取ったポップコーンが指の汗でヘナヘナになっているほどの臨場感である。

密度の濃い映画体験を味わえる『ダンケルク』


現在大ヒット上映中のこの映画だが、見所はリアリティを追究した極力CGを使わないド迫力の戦闘シーンに加え、「防波堤1週間、海1日、空1時間」という異なった時間経過を断片的に切り取り、同時進行させ106分の中に収めていることだ。

いわば観客は3つの視点で緊張感を高め、それぞれの戦場ダイジェスト映像的な密度の濃い映画体験をすることになる。
その理由をパンフレット内インタビューで、イギリス人の父親とアメリカ人の母親を持つクリストファー・ノーラン監督は「普通の映画で言う“サードアクト”(通常の映画には4段階あり、3段階目のサードアクトが最高の盛り上がりを見せる)を今作では最初からやりたかった」と述べている。

ノーラン監督の出世作『メメント』


ノーラン監督と時間のコントロールと聞くと、やはり時間を逆行していく編集構成が話題になった長編監督2作目『メメント』を思い出す人も多いのではないだろうか?

2000年(日本では翌01年)に公開された本作は妻のエマ・トーマスも製作に参加。実弟ジョナサン・ノーランの小説『Memento Mori』を原案としており、弟とともにアカデミー賞などで多くの脚本賞候補にもなった。いわば無名の監督だった30歳(当時)のクリストファー・ノーランを世に出した記念碑的な1本だ。

『メメント』のストーリーは、保険員レナード(ガイ・ピアース)が妻を目の前で殺害されたショックから前向性健忘に陥り、数分間の記憶しか保てなくなってしまう。犯人を追うレナードは数少ない手がかりを忘れないように自らの身体に文字情報としてタトゥーを彫り、出会った人や場所をポラロイドカメラで撮影してメモを書き込む。

やたらと自分に優しい女ナタリー(キャリー=アン・モス)や胡散臭い協力者テディ(ジョー・パントリアーノ)の存在。こいつは敵か? 味方か? 限られた断片的な情報を元にレナードは真犯人に辿り着くことができるのだろうか……。

「記憶は自分の確認のため」


レナードの1日は毎朝「ここはどこ? モーテルか?」という疑問から始まる。目が覚めたら、そこは常に自分の知らない場所。拳が血で汚れているぞ……なぜだ? するとクローゼットには血まみれの男が入っている。誰だこいつ? って怖すぎる。

「記憶は思い込みだ。記録じゃない」と常に大量の写真や事件資料を持ち歩き、自分の生きる目的を思い出そうとするレナード。

考えてみてほしい。あなたも朝、学校や会社に行ったら、クラスメイトや同僚のことを全部忘れてしまっているわけだ。トイレでポラロイド写真(今だったらスマホ画面だろうか)を見て、名前と顔を確認してその場を取り繕うしかない。
他人の話と思って笑いながら喋っていたら、実はそれが自分の体験談だった的な記憶のねじれ。……恐怖である。劇中の台詞「記憶は自分の確認のため」はまさにその通りだろう。

主要登場人物3名がとにかくハマり役だ。
主役のレナードに扮する当時33歳ガイ・ピアースのいい奴そうだけどなんか馬鹿っぽいあの感じ。『マトリックス』のトリニティ役で有名になったキャリー=アン・モスが演ずる「あんたなにか知ってるやろ」と突っ込まずにはいられない謎の女ナタリー。ジョー・パントリアーノのテディが醸し出す「もうこいつ絶対なにかやってる」感。

綿密に組み立てられた時間軸に加え、登場人物全員フェイクで観客を欺くことに成功している。

"スタイリッシュなデートムービー"的に紹介されていた


ちなみに01年の日本公開当時はスタイリッシュなデートムービー(という書き方に懐かしさを感じるが)的に雑誌等で紹介されており、映画館で上映終了後はその衝撃のエンディングに「えっ? これどういうこと?」「分からへん」「とりあえずキャリーのおっぱいがエロい」なんて囁きが広がっていた。
1度目の観賞で唖然として、2度目の観賞でその結論の答え合わせをしたくなる『メメント』の底知れぬ魅力。

本作公開から5年後、クリストファー・ノーランは『バットマン ビギンズ』を監督、その続編の『ダークナイト』で世界中の映画ファンの度肝を抜き、2010年の『インセプション』では撮影賞含むアカデミー賞4部門を受賞。現代の巨匠の仲間入りを果たした。
まだ47歳の男盛り、これからしばらくノーランの時代は続くだろう。


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『メメント』
映画公開日:2001年11月3日
監督:クリストファー・ノーラン 出演:ガイ・ピアース、キャリー=アン・モス、ジョー・パントリアーノ
キネマ懺悔ポイント:86点(100点満点)
前回、本連載で取り上げた『KAMIKAZE TAXI』の原田眞人監督が『ダークナイト ライジング』公開時にノーラン監督について「端役脇役の扱いが甘いのが気になる」と指摘しつつも、「大作でミスをせず、大技を連発しながら人物がぶれないという、この才能は凄い」と絶賛している。

(参考資料)
『ダンケルク』パンフレット(松竹株式会社)
『ダークナイト ライジング』パンフレット(松竹株式会社)
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