「サブリミナル」とは何か、ご存知でしょうか? 単語そのものの意味で言うと、「潜在意識に働きかけること」。転じて現代においては、映像や音声における表現手法の一つとして広く認識されおり、映像でいうと、スローにしなければ知覚できないほんの一瞬、趣旨とは無関係な画像をカットインさせることを指します。


サブリミナル手法に人の心を扇動する可能性があることは否定できず、悪用されれば、不当に購買意欲を刺激される恐れがあります。そのため、わが国においては1995年にNHKが、1999年に日本民間放送連盟が、それぞれサブリミナル手法の禁止を発表しています。
にも関わらず、過去に幾度か「実例」が報告されており、最も世に影響を及ぼしたのが、以下に紹介する事例です。

地下鉄サリン事件の2ヵ月後、騒動は起こった


今から21年前の1995年。世紀末の世は、一つの宗教団体に底知れぬ恐怖を感じていました。オウム真理教です。麻原彰晃を教祖として頂に据えるこの教団は、90年代前半から社会問題化。

決定的だったのが、95年3月20日。営団地下鉄(現在の東京メトロ)構内に神経ガス・サリンを大量散布するという、空前にして絶後のテロ行為、世にいう「地下鉄サリン事件」を起こしたことにより、世間ははっきりと認知したのです。彼らはイチ宗教団体という枠組みから著しく逸脱した存在なのだ、と。

そんなサリン事件の喧騒も冷めやらぬ、95年5月7日と14日。オウム真理教特集を2週続けて放送していたTBSの『報道特集』という番組で、麻原彰晃と教団最高幹部である上祐史浩の顔のアップ、加えて血の付着したナイフのアップなど、計16カットが一瞬だけ挿入されていたことが判明します。

郵政省から厳重注意を受けたTBS


この一件は、同年6月9日に放送された日本テレビ系列のニュース番組の告発により明らかになったのですが、当然、オウムに対して過剰な恐怖心を抱いていた世間からは激しいバッシングが飛びました。この批判に対してTBS側は「番組テーマを際立たせる1つの映像表現」と説明したものの、非難は収まらず。

その後、同局は、郵政省から厳重注意を受け、「視聴者が感知出来ない映像使用はアンフェアであった」と言葉を改めて謝罪することになったのでした。

アニメ『シティーハンター3』でも麻原彰晃の写真が…


実はこの一件が発覚する前の1989年12月24日、日本テレビ系列で放送されたアニメ『シティーハンター3』でも、麻原彰晃の写真が1カット挿入されていたのですが、それはあくまで当時新興宗教として話題になっていた同教団・教祖への好奇心からくる遊び心でやっていたに過ぎない事案でした。
アニメ業界では、ビデオ録画してスロー再生した視聴者のみが分かる、こうしたファンサービス的な意図なしのサブリミナルを昔からよく行っていたといいます。反面、「番組テーマを際立たせる」「映像表現」という意図的な演出としてサブリミナルが使用されたのは、TBSの『報道特集』が日本の放送史上初。

以降、サブリミナルに対して、世間からは厳しい目が向けられるようになりました。効果のほどは明確には定かではありませんが、少し不気味に感じる一件でした。

(こじへい)

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