9月24日に行なわれたベルリンマラソン。世界中のファンが熱狂したレースで日本期待の星、設楽悠太(Honda)が激走した。


同大会には、5000m&1万m世界記録保持者のケネニサ・ベケレ(エチオピア)、今年5月に非公認ながら2時間00分25秒をマークした、リオ五輪金メダリストのエリウド・キプチョゲ(ケニア)、元世界記録保持者のウィルソン・キプサング(ケニア)という、現在の男子マラソン界の“BIG3”ランナーが集結。世界記録「2時間02分57秒」の更新を目指した。

雨に見舞われたレースは、ペースメーカーが世界記録を上回るスピードで引っ張り、トップ集団は中間地点を1時間01分29秒で進む。そのなかで、マラソン2戦目の設楽が“攻め”のレースを見せた。セカンドペースメーカーにはつかず、単独で6位を走り、5kmを14分51秒のハイペースで突っ込んだ。その後は第2集団でレースを進め、中間点を日本記録更新も狙える1時間02分57秒で通過した。


初マラソンとなった今年の東京マラソンは、中間点を1時間01分55秒で通過。今回は序盤に下りのある東京と比べて1分ほど遅かったものの、集団で走ったこともあって余力はあった。失速のペースは抑えられ、残り12.195kmは東京のタイムを1分12秒も短縮する38分52秒。キプチョゲが2時間03分32秒で制したレース(ベケレとキプサングは途中棄権)を、2時間09分03秒の6位でフィニッシュした。

レース後、設楽は自身のツイッターに「自己ベスト更新できてホッとしています。まだまだこれから。
応援ありがとうございました」と投稿。文面から悔しさがにじんでいたが、ベルリンはふたつの“チャレンジ”をした上での結果だった。

ひとつは、レース1週間前にチェコでハーフマラソンに出場したことだ。しかも、日本新記録となる1時間00分17秒をマークしている。そのダメージを考慮すると、ベルリンは圧巻のパフォーマンスだったといえるだろう。実は、東京の3週間前にも丸亀ハーフに出場しており、そのときは「マラソンの中間点」を意識して、1時間01分19秒で走っている。
川内優輝(埼玉県庁)のように、様々なレース展開に対応できる“強さ”を実戦で身につけていくスタイルでどこまで記録を伸ばせるのか非常に興味深い。

もうひとつのチャレンジは、東京五輪のマラソン代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」の出場権を獲得するという“安全策”をとる前にベルリンに出たことだ。しかも、福岡、東京、びわ湖マラソンでのMGC出場基準となる「2時間11分00秒以内(日本人3位以内)」というタイムを完全無視するようなハイペースで突っ込んでいる。設楽が見据えているのは代表権争いではなく、その先にある“世界との戦い”なのだ。

双子の兄・啓太と共に、東洋大時代に箱根駅伝で活躍した設楽悠太の持ち味はスピードと積極的なレース。ポーカーフェイスで口数は多くないが、内に秘めた“思い”を走りで表現するタイプだ。
3度目のマラソンとなることが有力な来年の東京では、日本記録(2時間06分16秒)の更新を期待してもいい。

(取材・文/酒井政人 写真/アフロ)

元の記事を読む