一体、どれだけトランプの犬になるつもりなのか。そう思わずにいられないニュースを2日、日本経済新聞が報じた。

なんと、日本の公的年金をアメリカのインフラ事業に投資、それによってアメリカにおける数十万人の雇用創出につなげる経済協力をおこなうというのだ。

 安倍首相は今月10日にトランプ大統領との首脳会談をおこなうことを発表したが、トランプにとって1兆ドル規模を投資するインフラ整備計画は選挙戦から訴えてきた目玉政策のひとつ。つまり、首脳会談で日本の公的年金を使った経済協力を提案することでトランプ様のご機嫌を取ろう、というわけだ。

 一方、この報道に対し、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の高橋則広理事長は「そのような事実はない」と否定したが、大手新聞社の記者は「今回の日経の情報源は官邸でしょう」と話す。しかも、GPIFは昨年7月初旬に約5兆3000億円もの運用損が発覚したときも、本来なら7月上旬におこなわれていた運用成績の公表を参院選後の7月29日に変更。これも選挙戦への影響を抑えるために安倍政権がGPIFに横やりを入れたためと見られるが、今回のアメリカのインフラ事業へ投資するという安倍首相の方針にGPIFが抵抗することなどできるはずもないだろう。
実際、高橋理事長は3日の国会審議で「結果としてアメリカのインフラへ投資されることもあり得る」と一転、その可能性を認めている。

 だが、こんな馬鹿な話が果たしてあるだろうか。そもそも、アメリカへ投資するという金は、言わずもがな国民が老後のために捻出してきた保険料だ。そして、厚生年金保険法や国民年金法に〈積立金の運用は、専ら被保険者のために、長期的な観点から、安全かつ効率的に行う〉と定められているように、第一に被保険者のために積立金は運用されなくてはならない。そんな年金を、自国でもなく世界一の経済大国であるアメリカの「雇用捻出のため」に投資するというのである。経済協力という日米関係の強化のために年金を使う──安倍政権は国民の年金を自分たちの私有財産だとでも考えているのだろう。


 実際、安倍政権はこれまでも年金の運用を自分たちのために"利用"してきた前科がある。アベノミクスの成長戦略として安倍首相は年金運用の変更を掲げ、2014年には国内・外国株式の運用比率をそれぞれ12%から25%に引き上げて株式運用枠を20兆円まで増やしたが、そこでおこなわれたのは、年金積立金を株式市場に投入することで株価を吊り上げるという見せかけだけのアベノミクスの「演出」だった。そして、前述したように2015年度には約5兆3000億円の運用損を出し、わずか15カ月でじつに10.5兆円もの国民の年金を溶かしてしまったのだ。

 そして、そのツケを安倍政権はよりにもよって国民に押し付けた。年金支給額が国民年金で年間約4万円減、厚生年金ではなんと年間約14.2万円も減る「年金カット法案」を強行採決で成立させてしまったのである。

 ちなみに、安倍首相は「消えた年金」問題が発覚した第一次政権時、「最後のひとりにいたるまでチェックし、年金はすべてお支払いすると約束する」と言ったが、何の約束も果たさないまま退陣。
結局、持ち主がわからない年金記録は約2000万件も残っている(15年5月時点)。さらには、安倍首相は「消えた年金」問題について、2008年1月に開かれたマスコミとの懇談会で「年金ってある程度、自分で責任を持って自分で状況を把握しないといけない。何でも政府、政府でもないだろ」と語ったという。

 年金を運用の改悪によってパーにしてしまった責任など微塵もなく、挙げ句の果てに、トランプへの貢ぎのために年金を使う──。国民の保険料を自分の財布と勘違いしたこの男に年金を任せていること、その事実こそがわたしたちにとって最大の「老後の心配」と言うべきだろう。
(編集部)