またもや"あの男"がやってくれた。自由党共同代表の山本太郎参院議員のことだ。



 15日未明に成立した、カジノを中心とする統合型リゾート(IR)整備推進法案だが、14日の参院本会議採決の際、山本氏はひとり「牛歩」戦術を敢行。多数のヤジをものともせず、強行採決に抵抗の意を示したのだ。

 牛歩自体は、伊達忠一参院議長の権限で投票時間を1分以内に制限され、反対票を投じるべく長時間には及ばなかったものの、しかし、この男の目的は、やはりパフォーマンスではなかった。壇上へゆっくりとあがり終え、伊達議長から「まもなく投票時間となります」と告げられた次の瞬間、山本氏は突然、議場の方を向き直し、大声でこう叫んだのである。

「パチンコやスロットの規制をせずに、どうして次の賭場を開くようなことさせるんだよ! おかしいだろって!!」

 そして、鋭い眼光で議場を見渡しながら、腕を振り、次から次へと指を指して、議員ひとりひとりに対し政治家としての資質を問うたのだ。

「誰のためにやるんですか! セガサミーか? ダイナムか? 外資か? 国民のための政治をやれよ!!」

 パチンコ業界大手の企業名まで具体的に出したことに、議場は騒然。
だが、山本氏の叫びは、間違いなく国民の多くの声を代弁したものだ。

 そもそもこの法案はIRなどと言い換えているが、実際は賭博を法的に認める「カジノ解禁法案」で、その影響によるギャンブル依存症患者の増加が医師や専門家からも懸念されている。国内で「病的ギャンブラー」と判断される人は全国で536万人にものぼるといわれており、そのうちの多くが、パチンコとスロットにのめり込んだ人たちだ。

 山本氏は13日の参院内閣委でも、パチンコやスロットなどによるギャンブル依存症の危険性を指摘しながら、国がこれまでほとんどケアをしてこなかったことについて、こう糾弾している。

「パチンコ・スロットのホール、全国のローソンよりも多い1万2000館。世界中にあるパチンコ・スロットの機器が720万台中で、3分の2が日本にある。
これ、誰がつくり出したんですか? 国ですよ。政治ですよ。それに対する依存症患者がたくさんいると思われる。すでに重症化している人たちたくさんいますよ(略)。それを国として野放しにするような状況で、ずっとエスカレートさせてきた現実があるじゃないか。カジノ解禁、じゃないんだよ。
IRがどうしたって話じゃないんだよ。まず目の前のここに対策しろっていう話だと思うんですよ。それが政治なんじゃないのか?」

 だが、安倍政権はこうした問題を置き去りにしておきながら、カジノ解禁法案についてほとんど議論することなく、強引に成立へと導いてしまった。その拙速な成立の裏には、山本氏が国会で「セガサミー(のため)か?」と叫んだように、安倍首相とセガサミーホールディングス会長・里見治氏の"蜜月関係"があるとみられている。
 
 パチンコ業界大手のセガサミーは、12年に韓国のカジノ企業と合弁会社を設立、来年4月には韓国・仁川に大型カジノリゾートをオープン予定で、今回のカジノ解禁法案の恩恵を大きく受ける企業だ。セガサミーはここ数年、国内カジノ利権の主導権を握るため政界工作を行ってきたといわれており、事実、13年に開かれた里見会長の愛娘の結婚披露宴には、森喜朗ら首相経験者や菅義偉官房長官などの大物閣僚が駆けつけて、とりわけ安倍首相は新婦側の主賓まで努めている(ちなみに、このセガサミーと安倍首相の関係に関しても山本氏は13日の内閣委で堂々と述べていた)。


 さらに「選択」(選択出版)13年9月号の記事では、里見会長の側近の一人が「参院選前に、里見会長は安倍首相に五千万円を手渡した」と吹聴したと報じられるなど、カネをめぐるキナ臭い噂も流れている。

 また、IRの大阪誘致を目論むなど自民党以上にカジノ解禁法案に積極的だった日本維新の会も、セガサミーとは無関係ではない。橋下徹氏(現・法律政策顧問)は大阪市長時代に「大阪カジノ構想」をぶちあげたが、その橋下の大学時代からの友人で、松井一郎大阪知事(当時)が13年に大阪府教育長に抜擢した中原徹氏は、部下へのパワハラが発覚し辞職してからわずか1カ月あまりで、セガサミーホールディングスの役員に就任している。

 カジノ解禁をめぐる疑惑はまだある。しんぶん赤旗が12月8日付で、カジノ解禁推進法案を提出し成立を推進した議員のうち3人に、カジノ関連業者から献金やパーティ券購入があったことを報じた。これによれば、自民党の西村康稔議員、平沼赳夫議員、日本維新の会の小沢鋭仁議員の各政治資金団体や代表を務める政党支部に、ギャンブル関連会社から合計で691万円分の献金やパーティ券購入があったという。


 とくに平沼議員にはセガサミーの経営者から3年間で計450万円の個人献金が、小沢議員はダイナムジャパンホールディングスから計130万円分のパーティ券購入が政治資金収支報告書から判明。ダイナムはパチンコホールを全国チェーン展開する大手企業で、すでにカジノへの参入を表明している。

 まさに、山本議員が叫んだ「セガサミー」と「ダイナム」というギャンブル関連業者から資金を受けた議員らが、カジノ法案を強固に推進していたのだ。これは企業への利益誘導であり、贈収賄の疑いさえある。実際、カジノ法案の審議がスタートしただけで両社の株価は高値をつけている。

 ところが今回のカジノ解禁法案を巡って、大手メディアがこうした数々の癒着疑惑を踏み込んで報じる気配は皆無。
一応、毎日新聞と朝日新聞だけは、しんぶん赤旗の報道を受け、12月14日付で維新・小沢議員のダイナムのパーティ券問題を報じてはいる。しかし、これはその前日の参院内閣委員会で、共産党の大門実紀史議員からこの一件について追求された小沢議員が返金する考えを示したことで、初めて報じたにすぎない。明らかに腰砕け状態なのだ。

 なかでもお笑いなのは産経新聞だ。ウェブ版「産経ニュース」14日付では、「自由党の山本太郎代表がまた『牛歩』 参院議長の『1分以内』警告であえなく退散」なるタイトルで山本氏の牛歩を揶揄したが、一方、そのなかで〈大声で「ギャンブル法案には反対だ」と叫び、反対票を投じた〉と書くなど、山本氏が癒着疑惑を追及したセガサミーとダイナムの企業名を露骨にネグっていた。「物言う新聞」を自称する産経だが、聞いてあきれるではないか。

 国内カジノの開業は、今後1年以内に政府が実施法案を国会に提出し、可決されてはじめて解禁される。表向きはカジノ解禁法に反対している大手マスコミだが、安倍政権や維新との癒着の報道に尻込みしているところみると、疑惑追及にはほとんど期待できない。

 だからこそ、山本氏にはこれからも国会内外で存分に暴れまわってほしい。そして、本サイトもカジノ解禁がいったい「誰のため」なのか、明らかにするために、取材を続けるつもりだ。
(編集部)