8月25日(日)の深夜、匿名掲示板「2ちゃんねる」で祭りが起こった。最近トレンドの、アルバイトによる炎上ではなく、「●」(通称:まる)の情報が漏えいしたというのだ。

「●」は、「2ちゃんねるビューア」(http://2ch.tora3.net/)で利用されているサービス。●を購入すれば、2ちゃんねるの過去スレッドを閲覧したり、規制中のプロバイダーからも書き込むことができる。価格は年間33ドル(約3,200円)で使い放題だ。規約で禁止されている住所などの個人情報を書き込む輩がいると、そのプロバイダーすべてのユーザーが2ちゃんねるに書き込めなくなってしまうのだが、最近は多くのプロバイダーが規制を受けており、●がないとろくに書き込めなくなっていた。今回の漏えい事件は、●を買う人が増えてきたタイミングで起きた、国内ネット史上最悪のトラブルなのだ。

 流出した情報は多岐にわたる。

匿名掲示板の2ちゃんねるで発言者が同じことを証明するためのトリップの情報、●のIDとメアド、ここ2年間の●購入時の個人情報とクレジットカード、IPアドレス、そしてここ2カ月分くらいの書き込み履歴だ。それぞれ別ファイルにまとめられており、すでに入手は難しくなっているが、それでも数え切れない人によってこれらの情報をダウンロードされている。

 個人情報とクレジットカードがセットで流出しているため、まずは金銭的被害が考えられる。しかし、いくつかの大手銀行は利用者の口座を24時間監視し、不正利用された場合でも負担をかけないと発表した。いち早くカードを止め、再発行手続きを行えば問題ないだろう。

 問題は、すべてのデータをリンクさせて細かく分析すると、2ちゃんねるへの書き込みと個人情報がひも付けられてしまうこと。

これがどうして重大なのかわからないなら、常識人の幸せ者。“便所の落書き”といわれてきた2ちゃんねるの膨大な罵詈雑言を、誰が書いたのか丸わかりになるのだ。心当たりがある人は、漏えい事件を知ったときに人生終了の鐘が聞こえたと思われる。

 自分が勤めている会社の悪口や内部情報を書き散らした者。会社では責任のある地位にいるのに、子どもみたいな書き込みを連発した人。アウトなエロ画像・動画を張りまくった人。

他人のプライバシーを侵害したり、脅迫した輩。掲示板を荒らしまくったバカ者。これらすべてが、本名とメールアドレスとセットでバレてしまうのだ。顔面蒼白では済まない。

 動物を虐待する書き込みを行った人物を特定しようという動きが出ているなど、多くの人がデータの照会を始めている。すでに特定されている事案もある。
例えば、ライトノベル『神様のメモ帳』の作者である杉井光氏は数百件の書き込みを特定された。匿名で、ほかの作家へ暴言や誹謗中傷を投稿しまくっていたのだ。現在は、ホームページで謝罪文を公開している。2ちゃんねるのまとめサイト「僕自身なんJをまとめる喜びはあった」の管理人も、書き込み履歴が漏えい。謝罪文で、荒らし行為をライフワークのように行っていたと告白。ブログを閉鎖することを宣言した。
そのほかにも、ステマやライバル企業の誹謗中傷、目を覆うばかりのネトウヨ・ネトサヨ発言などの投稿者も特定されつつある。漏えいした約4万人のうち、ほとんどが書き込みをしているはず。書き込みが常識の範囲内であれば晒されることはないだろうが、匿名をいいことにモラルに反した書き込みをしているなら危ない。

 漏えいしてしまった情報を回収することはできない。しかし、心当たりがあるがまだ晒されていない人たちがあがき始めた。まず、漏えい内容を書いた人をサイバーポリスに片っ端から通報しているのだ。

確かに、個人情報の流布は取り締まりの対象になるし、プロバイダーに削除を要請することもできる。また、漏えいした情報と同じファイル名のダミーファイルを作成し、ありとあらゆるルートでばらまいている。本物をこれ以上拡散させないためだ。焼け石に水とはいえ、さすが生粋の2ちゃんねらーは対応が早い。

 漏えいした情報には、大手企業や政治家の名前、メールアドレスも含まれている。すべての書き込みがリンクされたら、大事になるだろう。ただ、不幸中の幸いなのが、あまりにも規模が大きすぎて、少々の書き込みであれば風化してしまうという点。記録がネットに残ってしまうのはいたしかたないが、被害はある程度抑えられるかもしれない。

 今回の漏えい事件はしばらく収まらないだろう。とはいえ、2ちゃんねるのひどい書き込みも、少し沈静化しているように見える。心当たりがある人は、2ちゃんねるなどの誹謗中傷行為に詳しい弁護士に相談するという手もある。自暴自棄にならずに、再生の手段を模索していただきたい。今回の災難を逃れた人は、ネットでの行動に責任を持つよう意識したほうがいいだろう。
(文=柳谷智宣)