給料より「パーパス」が勤労意欲を高める? ザッカーバーグも重視する重要事項

世界では、“会社が何のために存在するのか?”の「パーパス(Purpose)」を重視する考え方がトレンドだ。米国調査では、給与が下がってもパーパスが良ければ働きたい人が半数近くもいることが分かった。


そこまで会社で働きたいモチベーションを維持できる「パーパス」とは何なのか。あのFacebook創業者マーク・ザッカーバーグ氏も重視しているというこのパーパスについて探り、日本で広がる可能性を考えてみた。

ポジティブな「パーパス」を掲げる企業で働けるなら給料が下がってもいい49%


米国LinkedInが2016年7月、3,000人のビジネスマンを対象に行った調査によると、「人々の生活や社会に対してポジティブなパーパスを掲げる企業で働くならば、給与が下がってもいい」という回答がほぼ半数を占めたという。

「給与が1~5%下がってもいい」20%
「給与が5~20%下がってもいい」19%
「給与が20~100%下がってもいい」10%
⇒合計49%が「パーパスに共鳴できるなら給与が下がってもいい」と回答

米国LinkedIn調査「LinkedIn Fulfillment Study」2016年7月実施 対象:3,000人のビジネスマン

この恐るべきモチベーション維持をもたらす「パーパス」。しかしいまいちピンとこない。そもそも何のことなのか。

パーパスブランディングに基づいた企業ブランドなどのコンサルティングを行うエスエムオー株式会社のジャスティン・リーさんは次のように教える。


「パーパス(Purpose)は、日本語では『目的・意図』などと訳されることが多いですが、企業のブランディングにおいては『何のために存在するか?』、つまり『存在意義』のこと。企業のブランディングでなじみの深い『ビジョン』『ミッション』『バリュー(企業文化)』とはまた異なるものです」

「企業がパーパスを実現することで、人々の生活や世界に変化をもたらします。ポジティブなパーパスは、個々人・環境・世界へポジティブな影響をもたらします。重要なのは、従業員の心をがっちりつかんだパーパスであること、例えるなら磁石のように従業員を引き寄せる力がなくてはならないということです」

すでにパーパスブランディングに成功している日本企業


日本でも、すでにパーパスブランディングに成功している企業はあるという。ジャスティンさんは次の企業を挙げる。

「日本企業のうち、世界的に注目されているのはMUJI(無印良品)とユニクロでしょうか。どちらも、海外マーケットに応じたブランドのコア(核心)を再解釈してから世界に出て行って成功した例です。


例えば、ユニクロは、米国内では『simple apparel with a not-so-simple purpose: to make your life better(生活をより良くするという、そうシンプルではないパーパスを持った、シンプルな服)』で商品をポジショニングしています。今、世界で成功するには、パーパスは必須条件ではないでしょうか」

日本は世界一「給料が下がっても勤務時間を短くしたい」


しかし日本の現状はどうか。総合人材サービス会社ランスタッドホールディング・エヌ・ヴィーの調査によれば、日本は「給料が下がっても勤務時間を短くしたい人」が世界一いることが分かっている。

「給与が下がっても勤務時間を短くしたい」と回答した日本人の割合が14.1%。
調査対象24の国と地域のなかで最上位(グローバル平均6.0%)

出典:「ランスタッドアワード2016」対象は全世界196,193名 18~65歳の男女(就業の有無は問わず)、日本国内は任意に選出された18~65歳の男女8,500名。

日本では、特定の会社で働きたいというより、むしろ長時間勤務への不満・改善意欲が大きくなっているようだ。政府の「働き方改革」による影響もあるだろう。

そんな日本でもこの先、パーパスの役割が大きくなってくるという。ジャスティンさんは、その理由として次の2つを挙げる。

1.グローバル競争に勝ち残るために移行の必要性がある
「ユニリーバやHSBC、LinkedInといったグローバル企業が、経営理念をパーパス志向のものに移行しつつあることです。グローバル競争の中で勝ち残っていくためには、日本の企業もそうした移行の必要性が出てくると思います」

2.現代の若い世代に合っている考え方
「日本も他の多くの国と同じように、不確か、かつ、情報過多の時代にきています。特に若い世代に関しては、『シンプルで人間らしい』こと、そして『今その時を生きる』ことを好みます。ビジョンやミッションという言葉はビジネス上のみで使われる言葉であるのに対し、パーパスという言葉はビジネス上だけでなく、日常生活にも関わってくる概念です。

また、ビジョンやミッションは『将来』を重視した考えであるのに対し、パーパスは『現在形』です。パーパスを重視する経営こそ、現代の世代に合っていると思います」

あのFacebook創業者マーク・ザッカーバーグ氏も、先日の演説の中で、いわゆる1980年代~2000年初頭生まれのミレニアル世代に対して「パーパス」について次のように語っている。それは、「パーパス」を持つことは重要だが、それだけでは不十分で、これからの世代には、誰もがパーパスを持てる世界を作り出すことの責任があるという。つまり今後はさまざまな組織と社会を「パーパス実現の場」にする必要があるということだ。

日本企業に必要な工夫


給料より「パーパス」が勤労意欲を高める? ザッカーバーグも重視する重要事項

順応せざるを得ない世界的な大きな流れ、そして世代的な傾向もあり、パーパス重視の考え方は、日本にもどんどん浸透していくと考えられる。しかし社員が会社のパーパスに賛同して働くようになるには、まだまだハードルが高いように感じる。
企業がパーパスを掲げる場合、どのような工夫が必要になるだろうか。

「まず、企業がパーパスをシンプルで明解なものにすること。そうでないと社内全体での浸透はむずかしくなります。
次に、これからパーパスをつくろうとしている場合は、社員それぞれがパーパスをつくる過程に関わる工夫をすること。例えば、パーパスは、ムーブメントを起こすきっかけとなります。ムーブメントの起動のためには、社員全員がパーパスの設定に関わることができるようにすることです」

(石原亜香利)

取材協力
Justin Lee(リー・ジャスティン)さん
エスエムオー株式会社 パーパス・マネージメント・コンサルタント
シリコンバレー企業にてキャリアをスタート。
日本のプライスウォーターハウスクーパース(前者:ベリングポイント)にてマーケティング、海外市場参入戦略担当。
現在はLAと日本を拠点に、多くの起業とブランドのパーパスの発見の手伝いをし、パーパスに関する講演活動、事業・組織コンサルティングに従事。
カリフォルニア大学バークレー校卒(在学中に一橋大留学)。日本語、中国語、英語のトライリンガル。
http://www.smo-inc.com/