先週末に逮捕され、芸能界に衝撃が走ったキングオブコメディ・高橋さんの事件。

高橋さんとは「エキレビ!」で一緒に取材に行ったり、プライベートでも仲良くさせてもらっていたもんで、まったく予想外すぎる今回の事件にはさすがに白目をひんむきました。

ちなみにボク、今年の3月には田代まさしさんとの共著『マーシーの薬物リハビリ日記』も出版してるんですが、その後、7月に田代さんが迷惑防止条例違反の疑いで取り調べを受けるという事件もあり……。まあ、こっちに関しては「まったくの予想外!」というほどでもなかったので、白目まではむきませんでしたが。

とにかく、なんちゅう(悪い意味で)ミラクルな年なんだと。「ボクが何かを呼び込んでるんじゃないのか!?」と本気で考えてしまうレベルですよ。

もちろん、知り合いだろうが何だろうが、悪いことは悪いこと。起こしてしまった事件自体に関して擁護するつもりはないですし、それが報道されたり、叩かれたりするのも当然だろうと思います。

ただ「(出かけるときに)リュックサックを背負ってたかな」とか「軽トラに乗っているところを見たことがある」という近所の人の証言などを、さも異常なことのように伝えているテレビ報道なんかを見ちゃうと、「いやいや、普通の人だってリュックを背負うし、軽トラに乗ることもあるでしょ!?」と突っ込まずにはいられません

何でもない発言を、ものすごく意味深な感じにまとめ上げる手腕。……さすがテレビ局の人たちは(ある意味)プロフェッショナルですなぁ。
せめてググッてから報道して欲しい。「黒い大統領」フェラ・クティ
ミュージシャンとしてのみならず、黒人解放運動でも知られるフェラ・クティ

「フェラクティ!」ってフェラ・クティのことでしょ?


そして「事件と関係あると思われる異常発言」というニュアンスで複数の報道番組、ワイドショーでやたらと取り上げられていたのが、高橋さんのTwitterでのこの書き込み。




確かに、ここだけ切り取ると「覚せい剤でもキメて犯行に及んだのかな〜?」と思ってしまうようなツイートではあります。

ただ、その後「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」の感想ツイート(これもそう)をしていることや、映画公開日の12月18日という日付を踏まえれば、ただ単に「『スター・ウォーズ』を見に行くぜ!」といっているだけだと考えるのが妥当でしょう。

さらに「犯行当日にも意味不明な言葉を……」ということで紹介されていたのが以下のツイート。



まあね……知らなければ意味不明な言葉なんだろうけど。

「スター・ウォーズ」と比べるとご存じない方も多いかも知れませんが、これはアフロ・ビートの創始者でもあるミュージシャン「フェラ・クティ」の名前をツイートしてるだけでしょう。

しかし、なぜ唐突に「フェラクティ!」なんてツイートしたのか? 「シドヴィシャス!」じゃダメだったのか? ……これにも理由があるんです。

このツイートが投稿された4月25日。「めちゃめちゃイケてる!」(フジテレビ系)では、「爆笑!DJタカシの休日に密着スペシャル」ということで、みんなでレコード屋のディスクユニオンに。

そこで出演者たちがレコードを漁っている中、よゐこ・濱口さんが「めっちゃいいの見つけた!」ということで、カメラの前に差し出したのが、フェラ・クティのレア音源集『VOL 1』のジャケットなんです(ビキニパンツ一丁でサックスを吹いているという、確かに面白いジャケット!)。

ゴールデンタイムの番組でいきなりフェラ・クティのジャケットが登場したもんで、当日はネットの一部がザワついていたんですが、ファンク・ミュージック好きの高橋さんもその流れで「フェラクティ!」とツイートしたんだと思われます。

フェラ・クティは超・大御所ミュージシャンです


「覚醒してくる」にしても「フェラクティ!」にしても、まあ個人のTwitterやブログ、まとめサイトなどで、「事件を起こしたあいつ、こんな変なツイートしてたんだぜ!」とネタ的に取り上げられるのは仕方ないかなと思いますが、それをそのまんまテレビでやっちゃうのはアウトでしょう。

フェラ・クティが日本でそこまでメジャーなアーティストだとは思いませんが、ブラック・ミュージックの世界では「Black President(黒い大統領)」と呼ばれるほどの超・大御所!

フェラ・クティの生涯をミュージカル化したブロードウェイ・ミュージカル「フェラ!」は2010年にトニー賞で3部門を授賞しているし、そのコンサート版「フェラ!ザ・コンサート」は、ちょうど今年12月に日本公演を予定していたところ(残念ながら公演中止となってしまったようですが)。

少なくとも、すんごくマニアックなミュージシャンということはないです!

いや、分かりますよ。「フェラ」といういう響きで「これはエロワードに違いない! 性欲が高まりすぎてツイートしたんだ!」とか思っちゃう気持ちも。音楽好きの間で、死ぬほど使い古されたネタだもん。

でも、何人もいるであろうテレビ番組のスタッフがひとりも「フェラ・クティ」を知らないとは……。そもそも、ちょろっとググッてみればミュージシャンの名前だってすぐに分かるのに……。

テレビはバカにしか相手にされないメディアに!?


しかし「フェラクティ!」を怪しいワードだと思い込んで、そのまま放送しちゃったんだとしたら、相当マヌケな話ではありますが、まだマシなんですよね。

もっとヤバイのは、実は「まあ、こりゃ『フォースの覚醒』のことだろうな」「フェラ・クティのことだよな」と分かった上で、「でも、こういう取り上げ方をすれば、視聴者は覚せい剤やってると思うでしょ?」「怪しいワードをつぶやいてるように見えるよね」と、確信犯的に視聴者のミスリードを狙って放送されていた場合。

高橋さんのツイートを日頃からチェックしていて前後関係が分かっているファンや、フェラ・クティを知っている人ならば、「テレビがメチャクチャなことを放送しとるわ」ということに気づけますが、そこまで興味ない人だったら、テレビで放送していることをそのまま鵜呑みにして、

「この犯人は『フェラクティ!』とか意味不明の言葉を叫んで『我慢できないから覚醒』しちゃう危ないヤツだ!」

……というイメージをすり込まれちゃうわけです。

確かにボク自身も、さほど興味のない事件だったら、多少変な報道をされていたとしても気にもしないと思いますからね。……気をつけたいところです。

ネット掲示板・2ちゃんねるは「嘘は嘘であると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい」なんていわれていましたが、もはやテレビを見るのにも「嘘は嘘であると見抜く」スキルが必要になってきているのかも。

あまり情報が集まっていない状態でも番組の時間を埋めなきゃいけないし、視聴者の関心を引くセンセーショナルな内容にしなければ視聴率も取れない……というのは分かるんですが、こんな番組作りを続けていると、むしろテレビが「嘘が嘘であると見抜けない」レベルの人にしか相手にされないメディアになっちゃうと思いますよ!
(北村ヂン)