今年の5月23日から5日間、マレーシアの新行政都市プトラジャヤで「HARI BELIA NEGARA 2012」と題する大規模なフェスティバルが開催された。
ハリ・ブリア・ヌガラ──英語にすればNational Youth Day、つまり“青年の日”という意味のこのイベントは、およそ500もの小イベントの集合体で、日本で言えば代々木公園のタイフードフェスティバルとサマーソニックとコミケと京王駅弁大会をひとまとめにしたような、そんな感じの巨大イベントだ。


マレーシアは日本とも親交の深い国なので、このイベントには“ももクロ”ことももいろクローバーZ、そして“しょこたん”こと中川翔子が日本代表として招聘された。中川翔子なら、アニメやゲームに詳しいオタクアイドルということで、海外にも名前が浸透しているのはわかる。でも、ももクロはどうなの? 日本国内でさえ、まだそんなには有名とは言えないと思うんだ。以前からももクロを応援し続けている古参のファンはいるだろうし、雑誌「クイックジャパン」が特集したり、サブカル系文化人が言及したりして、マニアックな支持層が出来つつあるらしいというのは、わたしでも知っている。

でもねー。マレーシアだよ?

ももクロはマレーシアでちゃんと知られてるのかな。
あちらの大規模なイベントに呼んでもらったのはいいけど、いざステージに出てみたら客席スッカスカで、全然盛り上がらなかったらどうすんの。うら若き女の子がそんな仕打ちにあったら泣いちゃうじゃん。日本から熱心なファン(これを専門用語で“モノノフ”と言うらしい)が何人かは追いかけていくらしいんだけど、せいぜいそれぐらいでしょ? なんか心配だなー。

というわけで、わたくしマレーシアまで見に行ってきました!

「わー、エキレビ!ってすごーい、マレーシア取材も経費が出ちゃうのー? わたしもエキレビライターになりたーい」って、おい! 自腹で行ってきたんだよ! 何かおもしろそうなことが起こる予感がしたら、まずは現場に行ってみる。自分の足で出かけて、自分の目で見る。それがジャーナリズムというものですよ(ドン!)。


フェスをやってる5日間のうち、ももクロが出演するのは26日の午後2時半(日本時間で3時半)。事前に調べたところでは「ジャパン・フェスティバル」と名付けられた特設ステージでやるらしいんだけど、これがなかなか見つからない。なにしろイベント会場の全貌はちょっと計り知れないぐらいデカくて、東京ドーム1個とか2個ってレベルじゃないんだ。少なく見積もってもドーム20個分くらいある気がした。歩いても歩いても果てが見えない。どこまで行ってもマレーシア(当たり前)。


最初にも言ったように、会場には数えきれないほどのブースが出店、展示されている。レンタサイクルあり、サスケ(テレビで有名なアスレチック競技の)あり、鼓笛隊も練り歩いてるし、次から次へとパレードもやって来る(どんな主張のパレードかはマレーシア語が読めないのでわからなかったけど、国家の平和を願ったものであるのは間違いないだろう)。
ズラリと並ぶテントでは、各種の民芸品の展示もあれば、最新技術の展示もある。陸海空それぞれ軍の技術展示もある。マレーシアはマレーシア民族と中華系、インド系が混じり合った国なので、それぞれのお国の料理のブースがあちこちにあり、何を食べてもうまい。

ひとつ残念だったのは、アルコールが売られていないことだ。
マレーシアはイスラム教の国なので、基本的にお酒は飲まない。中華系やインド系の店にいけばビールでもワインでも飲むことはできるが、さすがに国賓が出席するようなイベント会場で、しかも昼間からアルコールを売るわけにはいかない。
炎天下のフェスティバル会場で冷え冷えビールが飲めないなんて、ほとんど拷問のような仕打ちだけど、こればっかりはその国のルールに従うしかない。ビールは夜に中華街の屋台村へ繰り出すときのお楽しみということで、昼間はミネラルウォーターとコーラでがまんがまん……。

道ゆく人に片言英語で場所を聞いて、ようやっとジャパン・フェスティバルの特設ステージにたどり着いた。コンサートが始まるまでまだ1時間以上あるので誰もいないかと思ったけど、現場に着いてみると……うわ! 日本人がいっぱい!

ステージ前面を取り囲むように100人ほどの日本人が集結している。
すげえ、みんな来たんだー(感動)。いや、わたしも関係ないのに来ちゃったわけだけど、やっぱり本気のファンがちゃんと海外まで応援しに来てるのって、すごいことだと思う。ももクロさんたち、いいファンを持って幸せだよなー。

ももクロは、メンバーそれぞれにイメージカラーがあるので、ファンは自分の推している(応援している)子のカラーのTシャツを身に着けている。ステージ周辺に赤・黄・ピンク・緑・紫のTシャツがひしめいている様はなかなかに壮観だ。
もちろん、現地マレーシアのファンも数えきれないくらいいる。
今回の旅に誘ってくれた友達(緑推し)によると、ももクロはシンガポールのラジオに出ているそうで、そちらからのファンも結構な人数が遠征してきていたらしい。

一般的にコンサートが始まる前の会場では、そのアーティストが影響を受けたりしたミュージシャンの曲を流しておくことが多い。でも、ももクロは自分たちの曲を延々と流している。潔くていいことだと思う。ファンもそれを望んでいるようで、CDの音源なのにすでにコンサートが始まっているかのような熱狂で応えている。

と、ここでびっくりな出来事があった。CD音源で客席がノリノリになっているところに紫の子(高城れにさん)が出てきて、振り付きで踊りはじめたのだ。
彼女が立っているのは、ステージの上じゃなくて、ステージを降りたところにある客席との間の空間。だから最前列のモノノフとの距離は約1メートルくらい。そりゃあ盛り上がるに決まってる!
しかも、楽屋でその騒ぎを聞きつけた赤の子(百田夏菜子さん)と黄の子(玉井詩織さん)とピンクの子(佐々木彩夏さん)が出てきて、一緒に踊るでもなく、その様子を笑いながら写真に撮ったりしている。なんてフリーダムな状況なんだろう。

普通、本番前にアーティスト本人が観客の前に出てくることはあり得ない。なぜなら、それをすると本番の価値を薄めてしまうから。でも、ももクロの場合は、そうした掟破りな行為もひっくるめて、ファンのみんなが楽しんでる感じがしたな。それはすごく羨ましく思う。タレントにとっても、ファンにとっても、非常にハッピーな空間がそこに出来上がっていた。

なんかここまでですべて語りきってしまった感があるな。開演前までにあまりにも濃密な時間が流れていたから。でも、このあとちゃんとコンサートは開演されて、メンバーは10曲弱の歌を披露してくれた。モノノフどころか、ももクロのにわかファンでしかないわたしは彼女たちのパフォーマンスについて語る言葉を持っていないけど、その盛り上がりはももクロを知っている人なら想像に難くないだろう。体調不良で出演が危ぶまれていた緑の子(有安杏果さん)も、全力で踊っていた。日本から5300キロ離れた異国の地で生まれた一体感は、これまでにどんなコンサートでも見たことのないものだった。

そうそう、コンサートの途中にマレーシア首相のナジブ・ラザク氏がやってきて、ステージ上から挨拶をするという場面があったっけ。いきなりの国家元首の登場に大歓声をあげるマレーシアのモノノフたち。首相という存在をイマイチ尊敬することができない日本人のわたしは、そんな彼らのことをうらやましいと思ってしまった。
大変な声援に見送られながら去っていく首相に、紫の子が「大統領はモノノフですかー!?」と呼びかけていて、モノノフジャパンは大爆笑。開演前の行動といい、このアドリブといい、紫の子って大物だわ。

ともかく、こうして無事にももクロinマレーシアは終了した。最後には驚きの近距離での撮影会などもあった。これも異国の地ならではのサービスか。
地下アイドルとして地道な活動からスタートしたももクロだけど、いまはどこでコンサートをやってもチケットは即完売だという。わたしはファンになるタイミングを逸してしまって、いまさらももクロの世界には入っていけないなーと躊躇していたんだけど、マレーシアで見ることができてなんだかそのハードルが下がった気がする。これからは胸を張ってももクロのファンだと言おう。そのうちファンが集まる席で「マレーシアのやつ? ああ、行ってるよ」とかサラリと言ってみたい。


●おまけ
中川翔子さんのステージは翌27日だったそうだけど、僕らはももクロで体力を使い果たしちゃったのと、宿泊したホテルから会場までが遠いので見ていないんだ。しょこたんゴメンね。でも、本人のブログによるとギガント盛り上がっていたみたいで、よかったよかった。
(とみさわ昭仁)