もしあなたが「『ブレードランナー』の続編作ってよ」って言われたらどうだろうか。やる気になるだろうか。
世界一めんどくさいファンが多いSF映画の続編として、そして2017年のSF映画として申し分のないビジョンを提示した『ブレードランナー2049』は、この難事業を成し遂げた(公式サイト)。
「ブレードランナー2049」は圧倒的に正解な続編だ、これだけやられりゃ文句ナシだ

前作の復習はしておいた方が吉


『ブレードランナー』は、1982年に公開されたSF映画だ。原作は一応フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』だけど、映画の方はほぼ別物。この映画で描写された2019年のロサンゼルスの情景は未だに語り草で、「日系企業の巨大な広告が煌めく街の屋台で割り箸を割るハリソン・フォード」や「巨大なピラミッドのような超高層ビル」みたいな要素はその後いろんな作品で真似されまくった。あんまり真似されたんで、今いきなり見ても逆に新鮮味がなく、どこがすごいのかわかりにくい。いわゆるサイバーパンクというジャンルにおける、ビートルズやセックスピストルズみたいな映画である。

『ブレードランナー』は人間を上回る能力を持つ人造人間レプリカントと、彼らを取り締まる専門職の警官"ブレードランナー"のデッカードとの追跡劇を描いており、現在ソフトが手に入りやすいものだけでも4つのバージョンが存在する。
ややこしいが、とりあえず『2049』を見る前には「ファイナルカット版」と書いてあるものを見ておけば問題ない。というか、『2049』は思った以上にこの映画の続編的な要素が強いので、前に一回見たよという人も鑑賞前にもう一度おさらいしておくことをオススメする。

捨て犬系主人公ゴズリング、そしてデッカードの帰還


『2049』の舞台は前作から30年後のロサンゼルス。気候変動により海面が上昇し市街地は縮小、ロサンゼルスの住環境と治安はますます悪化していた。レプリカントの製造を担っていたタイレル社は社長の暗殺後に倒産。その事業を買収したウォレス社がシェアを伸ばし、地球外にも影響を及ぼしていた。一方で最新型のレプリカントは警察など公的機関でも運用され、ブレードランナーとして違法な旧型レプリカントを狩る任務に就く者もいた。
『2049』の主人公"K"も、そんなブレードランナーの一人である。

ある日、Kは旧型レプリカントであるネクサスシリーズを「解任」(要は処刑である)する任務のため、カリフォルニア郊外の農場に赴く。反逆レプリカントであるサッパー・モートンとの死闘の末に彼を解任するKだったが、ドローンによって農場の木の根元に人間の死骸が収められたコンテナを発見する。調査の結果判明したのは、その骨は30年前に死んだレプリカントの物であること。そしてそのレプリカントは妊娠しており、出産時の帝王切開によって死亡したことだった。繁殖能力がないはずのレプリカントがなぜ出産したのか。
そして生まれた子はどこへ消えたのか。Kは追跡調査にあたるが、その過程で自らのアイデンティティを揺るがす事態に直面する。

人間なのかどうかちょこっとだけ含みのあった前作のデッカードに比べ、今回の主人公"K"はレプリカントであることがはっきりしている。その仕事内容は過酷そのものな上、警察の同僚からは「スキンジョブ(人間もどき)」という差別発言をバンバン言われ、友達もおらず、家に帰って立体映像の美女"ジョイ"と会話したりするのが唯一の楽しみという冴えないお巡りさんだ。男前なハードボイルド感があったデッカードに比べると、なんだかしょっぱい。食べてる物も変な寒天みたいなやつで、前作で印象的だった屋台のメシに比べるとなんだかショボい。
捨てられた犬みたいなキャラクター性と、ライアン・ゴズリングのあのタレ目な顔が妙にマッチしている。

前作主人公であるデッカードも『2049』に登場する。なんせ予告編で何回も登場シーンを見せられていたので、寝間着みたいな格好のハリソン・フォードがブラスターを構えて出てきても「あ、はいはいこのシーンね……」くらいの感じになっちゃったのはちょっと残念。けれども、『2049』におけるデッカードの立ち位置は「ファンサービスで軽く出してみました」という程度ではない。物語の根幹に関わる人物として、めちゃくちゃ重要な位置で登場するのだ。なので、本当に「前作で彼が何をやったのか」だけはおさらいしておいていただきたい。
そこを踏まえた上で『2049』を見ると、シリーズを通してあまりにも真っ当な"愛と記憶"の物語になっていることに驚くはずである。そうなんです、ラブなんですよ……。

絵面と音の合わせ技にシビれろ


『2049』で強烈なのが、圧倒的なビジュアルとそれに被さるノイジーな音楽である。ロサンゼルスの気象状況は30年前と比べて激変しており、前作ではジトジトと雨が降っているだけだったのが、『2049』では始終雪と雷雨に襲われる土地になっている。それに合わせて都市の景観も暗く変化。より絶望感の強いダークな雰囲気になっている。

本作で重要なのが、ロケーションをロサンゼルスの外に移す点だ。
巨大な人口過密都市であるロサンゼルスを支えるために、近郊の状況はどうなっているのかを真面目に考えた結果、都市の周囲は工場のような農地とゴミ捨て場だらけという身もふたもないことになっている。大量のゴミの中から使える電子機器を漁るのが事業化していたり、限られた農地で育てられる貴重なタンパク源として芋虫を育てたりと、そのディテールも最悪度満点。Kの旅路はさながらサイバーパンク地獄めぐりの様相である。

特に強烈なのが放射能汚染を受けて放置され、半ば砂漠に戻りつつあるラスベガスだ。全体がオレンジ色の砂に沈む中、かつて建てられていた巨大な彫像やピラミッドのような建物が朽ち果てつつ佇む様は圧巻。このラスベガスの設定やデザインには『ブレードランナー』を支えた名デザイナーのシド・ミードが大きく関わっており、それも納得の不気味な美しさである。

これらの強烈な風景に「ドコーーーーーン」みたいな音楽ともなんとも区別のつかない、「ブレードランナーっぽい」としか形容できない音が乗っかるわけで、もう口は開きっぱなし、ヨダレはダラダラである。ヴィルヌーヴの映画は特に本筋とは関係なく「でかい風景にでかい音が乗った映像」がズドーンと出てくることがちょいちょいあるのだが、まさにその強みがビリビリと活きている。これはぜひ映画館の巨大な画面で見てほしい!

絵面と音の強さに痺れつつ、世代を超えたストーリーに涙する。もうこれだけやってくれたら『ブレードランナー』の続編としては本望なのではなかろうか。いやほんとヴィルヌーヴさん、お疲れ様でした。

【作品データ】
「ブレードランナー2049」公式サイト
監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演 ライアン・ゴズリング、ハリソン・フォード、アナ・デ・アルマス、シルヴィア・フークス、ロビン・ライト ほか
10月27日より全国ロードショー公開中

STORY
2049年のロサンゼルス。対レプリカント専門の捜査官"ブレードランナー"のKは、ロサンゼルス郊外の農場で違法な旧型レプリカントを解任する。しかし、その農場で見つかったあるレプリカントの遺骨は、人とレプリカントの関係を大きく揺るがすものだった。調査にあたるKは、その過程で自らの過去を揺るがす事実に突き当たる。
(しげる)

『ブレードランナー2049』動画は下記サイトで配信中


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