NHK総合の土曜ドラマ「植木等とのぼせもん」(夜8時15分~)も、先週の9月23日放送分が第4回で、全8回の物語の折り返しだった。志尊淳演じる松崎雅臣(のちの小松政夫)は、クレージーキャッツの植木等(山本耕史)の付き人となって以来、テレビや映画などの現場に同行しながら、さまざまなことを学びつつある。
さて、第4回では植木から何を教えられたのか。まず振り返ってみよう。
植木等がスタントなしで綱渡りに成功「植木等とのぼせもん」4話
第5回に登場した植木等主演の映画のモデルと思われる『大冒険』。10月3日(火)のお昼にはNHKのBSプレミアムで放映予定

植木等も楽じゃない!


第4回は、サブタイトルどおり、植木等の「スターの誇り」を感じさせる回だった。古澤憲吾監督(勝村政信)の映画で、ビルの屋上と屋上のあいだを綱渡りするというアクションシーンに挑むことになった植木。しかし何度も失敗を繰り返し、ついには足をけがしてしまう。けがのことは妻の登美子(優香)には黙っていたが、すぐにバレる。このあと、登美子は監督に直接会って厳重に抗議するのだった。


この一件もあり、華やかなスターも裏では苦労を重ねていることを思い知った松崎は、酒場で居合わせたサラリーマン(演じていたのはシソンヌの二人)から、植木のことを馬鹿にされて激昂。ケンカになりかけたところを、一緒に飲んでいた若手俳優の久野征四郎(中島歩)に止められる。

植木の撮影中のけがは、やがてクレージーキャッツのリーダー・ハナ肇(山内圭哉)も知るところとなる。植木は前回同様、ハナに何も言わなかったことを怒られるとともに、映画出演を考え直すよう迫られる。だが、彼は撮影続行を宣言。再度、綱渡りに挑むと、今度はみごと成功させたのだった。
このあとすぐに残りのシーンの撮影に向かった植木は、いったん振り返ると、松崎に「植木等も楽じゃねえな。でも、だからこそ面白いんだよな」とほほ笑む。

ラストでは、銭湯を出た松崎が、同じく湯あがりで出てきた理髪店の看板娘・鎌田みよ子(武田玲奈)とばったり出くわす。みよ子から「髪、伸びてきたんじゃない? またいらっしゃいよ。切ってあげるから」と言われ、松崎はデレデレ。恋の始まりを予感させたところで「つづく」。


スタントなしでアクションに挑んだのは事実!?


植木が何度も綱渡りに失敗するのを見て、さすがにこういうところではスタントマンに代役させるのでは?……と思ったのだが、小松政夫の著書によれば、何と、実際に植木は映画でほとんどスタントなしでアクションシーンをこなしたことがあるらしい。その映画は、ドラマにも出てきた古澤憲吾監督の「大冒険」(1965年)。同作に主演したときの植木の活躍ぶりを、小松はこう記している。

《元体操選手って設定でね、電車が通過している鉄橋にぶら下がったり、走行する自動車のルーフにつかまって振り回されたり、走る電車の屋根を歩いたり、ビルの屋上で懸垂したり、クレーンに体を吊られたり、スーツ姿で馬にまたがって列車に飛び移ったり……などなど、並の身体能力や度胸ではできないことをいつもの調子で普通にこなしてたけど、ジャッキー・チェンじゃないんですから。
 さすがに植木の奥さんから過酷な撮影に抗議の手紙が来たんですが、勢いで撮りきっちゃった》(小松政夫『時代とフザケた男 エノケンからAKB48までを笑わせ続ける喜劇人』扶桑社)

けがを押して撮りきったというのはさすがにフィクションのようだが、奥さんが抗議したというところまでは事実だったとは。

ちなみに小松政夫が映画に“初出演”したのも、この「大冒険」だった。それは植木の乗ったバイクが大ジャンプして転倒するという場面で、当初は本職のスタントマンが演じるはずだったが、撮影当日用意されたジャンプ台があまりに高すぎて、これは無理だと断られてしまう。
さすがの古澤監督も困っていたところ、小松が自らやると申し出たのだ。

このとき小松はまったく臆することなく、バイクを発進させ、勢い余ってカメラのフレームをはみ出すほど跳び上がった。着地すると、バイクはそのまま大転倒。その迫力に、一発でOKが出たという。

ドラマでも、何度も綱渡りに失敗する植木を見かねて、松崎が自ら代役を申し出たものの断られるシーンがあった。だが、どうせなら、彼がスタントに挑戦して成功させるところを見たかった気もする。
トッキュウジャーを演じていた志尊淳のことだから、きっとアクションシーンもハマったのではないか。

第4回から一曲――「ハイ それまでョ」


第4回のテレビの公開収録のシーンで、植木とクレージーキャッツの面々が歌っていたのは「ハイ それまでョ」。1962年のリリースなので、今回描かれた時期より3年前の曲ということになる。

ブルース調のイントロ、フランク永井ばりの渋い歌声で「あなただけが~」とキャバレーのホステスの誘惑のセリフから始まるも、「テナコト言われて~」のフレーズからいきなり転調、当時流行っていたツイストのリズムに乗せて、男がホステスに貢ぎ続けるさまが歌われ、そのあげく「ハイ それまでョ~」とオチがつく。とにかく転調に次ぐ転調でせわしない。

もともと植木は正調の歌手をめざしていた。したがって彼にとっては、この曲の頭の二枚目風の歌い方こそ本来望むところであったはずだが、しかし結局はいつものコミックソングになってしまう。
ようするに、「ハイ それまでョ」とは彼の芸能人生そのものなのだ……ともいえる。

ちょうどこのシーンでは、植木の父・徹誠(伊東四朗)が息子の歌う様子を見ており、一緒にいた松崎がふと「親父さん(植木のこと)、本当はもっと渋い歌、うたいたいはずなのに」とつぶやいたのに対し、「好きなことだけやって生きてる人間なんて誰もいないだろう」と返していた。この父親のセリフは、植木が本来やりたかった“渋い歌”と、心ならずも歌うはめになったコミックソングをないまぜにした「ハイ それまでョ」に、どこか重なり合う。それとともに、売れっ子スターになったからといって、必ずしも好きなことばかりできるわけではない(むしろ好きではないのにやらなければならないことのほうが多い)という今回の話のテーマとも結びつく。

好きなことだけやって生きていけるのなら、たしかに楽しいだろう。だが、好きではないことでも、やっているうちに、そのなかに楽しさを見出すこともあるはずだ。先の父親のセリフは、そんな人生の奥深さすら感じさせる。

ちなみに植木等は、自分の持ち歌のなかでも「ハイ それまでョ」がとくに好きだったという。

小松政夫の「小松」の由来が判明


さて、第4回では松崎ののちの芸名となる「小松」の由来が判明した。テレビ番組の現場で一緒になった同姓の俳優・松崎真(演じていたのはお笑いコンビ・ニューロマンスのおにぎり)と区別するため、大きいほう(松崎真)を「大松(おおまつ)」、小さいほうを「小松」と呼んだのが始まりだという。なお、松崎真といえば、ある世代以上なら、『笑点』の座布団運びとして記憶している人も多いだろう。

山本彩演じる園まりは、まず歌のみの登場


前回より登場した若手俳優の久野征四郎は実在の人物で、小松政夫の小説『のぼせもんやけん2』でも彼の親友として登場する。

今回、劇中で元℃-uteの鈴木愛理演じる奥村チヨが歌っていた「ごめんネ…ジロー」は1965年のヒット曲。なお、奥村の代表曲のひとつで、きわどい歌詞で知られる「恋の奴隷」はその4年後、1969年にリリースされた(作詞はなかにし礼)。

第4回のラストでは、山本彩(NMB48)扮する園まりの歌う「逢いたくて逢いたくて」(1966年)が流れていた。園まりは当時、中尾ミエと、ドラマにはすでに登場済みの伊東ゆかり(演じていたのは中川翔子)とともに渡辺プロダクションに所属、「スパーク3人娘」として売り出し中であった。ちなみに園は、「逢いたくて逢いたくて」のB面曲「あんたなんか」で植木等とデュエットしている。

今夜放送の第5回では、いよいよ松崎に芸人として出番が回ってくるようだ。一方で鎌田みよ子との恋の行方も気になるところ。では来週も、レビューでお会いしましょう。さよなら、さよなら、さよなら。
(近藤正高)