ここに来て、こんなとんでもないエピソードをぶっ込んでくるとは……。
結局、倉本聰に踊らされているのだ
今回のエピソードは、「やすらぎの郷」での仕事帰りに、ハッピーちゃん(松岡茉優)が地元の暴走族たちにレイプされてしまったというのが発端なのだが、これに関して、ネット上ではかなり否定的な意見が上がっているようだ。
確かに、レイプの報復をするために武闘派ジジイたちが大暴れ……という年寄り格好いいエピソードを入れたいがために、取って付けたように起こった事件だったし、そもそもレイプである必要があったのかと。
報復エピソードを入れたいのなら、たとえば「やすらぎの郷」の年寄りたちが暴走族連中にカツアゲされた……とかでもよかったハズだ。
しかもレイプのターゲットが、「この娘、本当にいい子なんだろうな〜」という姿がたびたび描かれてきたハッピーちゃん。シニア視聴者は自分の孫のような気持ちで、若い視聴者は恋人のような気持ちで見守っていたであろう娘がそんなひどい目に遭うなんて……。
「なんちゅう脚本書くんだ、倉本聰、コノヤロー!」
と思ってしまう気持ちも分からなくもないが、そこまで感情を揺さぶられているということ自体、思いっきりドラマに感情移入してしまっているということ。
ちなみに、昼ドラのノリに慣れている立場から言わせてもらうと、かつて同時間帯で放送されていたフジテレビの昼ドラ(東海テレビ制作)では、ライバルの女を蹴落とすために知り合いの不良に頼んでレイプさせる的なエピソードなんてしょっちゅう起こっていたので、確かにハッピーちゃんはかわいそうだけど、そこまで騒がなくても……という感じだ。
ジジイが暴走族やっつけてたら、そりゃスッキリするよ
多くの視聴者を不愉快にさせたレイプ事件を起こしてまで倉本聰が描きたかったのは、やはり、ジジイが若者をやっつけてスッキリ! というエピソードだろう。
要は、シニア視聴者を気持ちよ〜くするための、現実離れしたサービス回。
レイプされたハッピーちゃんの報復をするために、秀サン(藤竜也)&倉田保昭・伊吹吾郎が暴走族のたまり場に乗り込んで大暴れ。和製ドラゴン・倉田保昭がヌンチャクを回し、『水戸黄門』の格さん・伊吹吾郎が暴走族を放り投げ、藤竜也がレイプ犯の金玉を潰す。
昨今のチャラい若者のことを良く思っていない年寄り連中が見たら確実に拍手喝采。
……暴走族「レッドゾーン」のマムシとダイゴ、たまり場は「ドラゴンビート」というネーミングセンスが、昨今のチャラい若者かどうかはともかくとして。
しかし、これまでちょこちょこカメオ出演していた伊吹吾郎と倉田保昭。クスッと笑える小ネタとしての出演だとばかり思っていたら、こんなに大活躍する日が来ようとは……。
「やすらぎの郷」の男従業員たちがみんな前科者であるという、「この設定、いるか?」と思っていた伏線がキッチリ回収されていたのも気持ちよかった!
先週が賭け麻雀、今週がセックス&バイオレンスと、「オレは何のドラマを観ているんだ!?」という気持ちにはなったけど。
ノー・デリカシーな発言の数々
そんな年寄りの格好いいエピソードとともに、年寄りの気持ち悪さもキッチリ描いているのが『やすらぎの郷』の恐ろしいところだ。
レイプ被害という、メチャクチャデリケートな話題が、老人たちのヒマつぶし噂話のひとつとして広まっているということ自体も恐ろしいが、ハッピーちゃん復帰後のバー・カサブランカに集った老人たちのデリカシーのなさときたら、ホントにホラーとしか言いようがない。
「ケガは治るけど、心の傷はなかなか治らないからな」
「アソコを潰されると相当痛いの?」
もはや事件について知らないふりをしようという意識すら感じられないノー・デリカシーな発言の数々。……というか、ハッピーちゃんがどんな顔して出て来てるのか興味本位で見に来てるだろう!? 最低だ、アンタら!
つらい事件を乗り越えて、やっと職場復帰したというのに、お客さんがこんなジジイババアばっかりだったら、水でもぶっかけて追い返すか、泣いて帰っちゃうかしてもいいところだ。
それなのに、ボクらのハッピーちゃんは、
「私のことだったら気にしないでいいですよ。気持ちの整理、もうつきました」
なんて言いながら笑顔を浮かべるのだ。ホントにええ娘や……! だけど、こんな娘いないよ!
そんな老人にとって都合のよすぎるハッピーちゃんの態度をいいことに、
「えらいわね、ハッピー。忘れるのよ、忘れるのが一番。
「そしてラストは認知症に(笑)」
なんて、わけのわからないことを言い出すババアたち……ホントに何なんだよ! やっぱり水ぶっかけていいよ!
もう黙って見続けます
武闘派老人の若者退治という、シニア視聴者にとってのファンタジーを見せてくれた『やすらぎの郷』第20週だが、第21週は、老人たちにとっての厳しいリアル・高齢者の危険運転問題などが取り上げられるようだ。
終盤に突入した『やすらぎの郷』。もう、老いも若きも倉本聰の手の上で転がされ続けるしかないよ!
(イラストと文/北村ヂン)