土曜時代ドラマ『みをつくし料理帖』。土曜の夕方6時という、あまり人がテレビの前に座っていない時間帯にひっそりスタートしたドラマだったが、完成度の高さとキャスト陣の熱演によって、じわじわとファンを広げてきた。
そしてついに迎えた最終回。これ、完全にシーズン2がある終わり方!
「つづく」みたいな終わり方に期待しかない「みをつくし料理帖」最終回「好きだ…この上なく、好きだ」
原作4巻

「人のために“みをつくし”てきたからだよ」


最終回は、澪(黒木華)たちが働く料理店「つる家」と高級料理店「登龍楼」が同一の食材、鰆(さわら)を使って料理番付を競う「腕競べ」が行われるという料理マンガのような展開に。

しかし、アクシデント発生! 小松原(森山未來)が実は御膳奉行の小野寺だと源斉(永山絢斗)から聞いていた澪だが、料理の最中、御膳奉行の一人が不正で罰せられたという噂話を耳にしてしまい、思わず指を包丁で切ってしまうのだ。痛っ!

指だけでなく心も痛める澪の前に、久しぶりに現れた小松原。想いを寄せる相手の前で弱気な姿を見せる澪に、再び人生の指針になる言葉を与える。

「澪、澪標(みおつくし)の澪、それがお前の名だろう。それは船路の道標(みちしるべ)となるものだ。
それを頼りに人は海を進んでいく。お前の澪標は何だ? 澪」

「いいか。道は、一つだ」

シンプルに言い切って、その場をさっと離れる。うーん、カッコ良い。悩んでいる相手にアドバイスを与えたら、答えを聞くのでも質問を受け付けるのでもなく、自分で考えさせて成長を促す。やっぱり小松原は人間として一流だ。


源斉の治療と周囲の人々の支え、そして今週もカッコ良くやってくる又次(萩原聖人)のおかげで腕競べに向けて料理を続ける澪。「困ったときの又次」(ツイッターより)とはよく言ったものだ。シリーズ影のMVPをさしあげたい。

人々の支えに感謝する澪。「澪は果報者です」と言うご寮さん(安田成美)と澪に、おりょう(麻生祐未)はこう言う。

「えらいのは澪ちゃんだよ。
こうしていろんな人が助けてくれるのはさ、これまで澪ちゃんが人のために“みをつくし”てきたからだよ」

いいセリフ! 結局、番付は「登龍楼」に軍配が上がるが、納得のいかない客が版元に押し寄せているのだという。澪の料理は客の心を掴んだのだ。又次に向かって、あさひ太夫(成海璃子)はこう語る。

「澪ちゃんは勝ち負けなんか考えて作ってへん。無心に精進を重ねてるだけや。そやさかい澪ちゃんのお料理は、あないに人の心と体に染み渡るんやで」

さすが澪の一番の理解者!


「ああ、好きだ……(伏し目)この上なく、好きだ」


澪と源斉と小松原の穏やかな三角関係には、ふわっとした結論が与えられる。

源斉は澪にあえて小松原が無事だということを告げなかった自分を「私は卑怯者です」と詫びるが、澪は「なんでそれが卑怯者になるんですか?」と源斉が嫉妬心を抱いていたことに気づかない。
源斉は恋のレースのスタートラインにすらつけなかったようだ。

一方、澪と小松原は、炒り豆を食べながら冗談を飛ばし合う。「そんなにお好きなんですか? 炒り豆が」と澪に聞かれた小松原の答えは、

「ああ、好きだ……この上なく、好きだ」

「炒り豆」とは「素朴で地味、華やかさはないが滋養がある」という小松原の好みのタイプ、すなわち澪のこと。「この上なく、好きだ」と告げる小松原は、「道は、一つだ」と言い切ったときとは別人のように目を伏せる。こういうカップルはいつまでも見ていたいね。

ラストシーン、澪とご寮さんは、行方知れずの若旦那、佐兵衛(柳下大)の姿を偶然見かける。
佐兵衛は生きていた! 必死に声をかけ、自分たちが「つる家」にいることを伝える澪。ご寮さんの手をとり、未来への希望を語る澪。

「きっと、きっと天満一兆庵も立て直せます。その日まで、私、みをつくして精進します」

「つづく」って出ないのが不思議なぐらいの終わり方! 

『みをつくし料理帖』は無言のシーンが良い


このドラマの魅力は無言のシーンにある。ながら見じゃもったいない! と言わんばかりのドラマだった。

とろとろ茶碗蒸しを食べた小松原の言葉を思い出し、ついにやけてしまう澪。

久しぶりに現れた小松原の軽口を背中で聞きながら、涙をこぼす澪。
化け物稲荷から去る小松原を、朝の光の中で見送る澪の横顔。
微笑み合う澪とおりょうをニコニコしながら見つめる太一(林田悠作)。
自分の恋心に気づかない澪を前にして、何も言えなくなってしまう源斉。
口やかましい清右衛門(木村祐一)が最後に見せる初めての微笑み。
それに対する澪の深々としたお辞儀(清右衛門がちょんと頷くのも良い)。
「つる家の女料理人」の話を聞いた采女宗馬(松尾スズキ)の不穏な視線。
そして何より、無心に料理をつくる澪の姿。

最終回だけでも、これだけある。出演者の芝居の良さもさることながら、説明セリフ過多にならず、こうした無言の“間”を生かした脚本を書いた藤本有紀と、演出の柴田岳志、佐藤峰世の丁寧な仕事ぶりが光った。

無言ではないが、「寒鰆の昆布締め」を食べた人は、誰一人「うまい」という言葉を使わずに美味さを表現していた。そうそう、本当に美味しいものを食べたときって、そんなにポンポン「うまい」って言わないよね。グルメレポーターじゃあるまいし。「うまい」という言葉を使わないことで、逆に美味しそうな感じが際立っていた。これ、絶対に日本酒にも合うよね。

正味35分、全8回という長いとはけっして言えないシリーズなのに、登場人物全員に愛情が注がれているのもとても良かった。豆まきをするふき(蒔田彩珠)と健坊(斎藤絢永)の姉弟が幸せそうだったのがうれしい。

それにしても、まだまだ描いてほしいエピソードはたくさんある。澪と小松原の恋路、采女宗馬との対決、ご寮さんと佐兵衛の再会……。やっぱり8話じゃ足りない!

制作統括の城谷厚司氏は「(原作は)まともにやったら朝ドラ1シリーズやれるくらいの中身の濃さがあるんです。今回はその半分ぐらいを描こうと思っている」と語っていたので、あと半分も絶対に制作されるはず。期待して待ってますよ。

(大山くまお)