二度の特番を経て、『ねほりんぱほりん』(Eテレ)がレギュラー化。放送初回で山里亮太はこう言った。


「NHKもどうかしちゃったんでしょうね」

モグラがブタの話を根掘り葉掘り聞き出す人形劇『ねほりんぱほりん』。2匹のモグラの正体は山里亮太とYOU。ブタの正体は顔出しNGの訳あり素人さん。見た目は子供の人形劇、中身は大人の訳ありトークである。

10月のスタートから「偽装キラキラ女子」「元国会議員秘書」「元薬物中毒者」の3回を放送。過激なトークから「攻めてる」印象が強いが、人形劇や取材内容、ネット戦略など、面白さをキープするため「守り」が強固な番組でもある。
どうかしてるようで、正気もちゃんと保っているのだ。
NHKもどうかしちゃった「ねほりんぱほりん」下世話な「攻め」を支える「守り」
Eテレ『ねほりんぱほりん』(C)NHK

人形劇だからできること


10月19日放送のゲストは「元薬物中毒者」のエリさん(仮名)。「痩せるよ」と勧められて覚せい剤に手を出し、すぐに中毒になってしまった。子供がいるのにクスリは止められず、子育てのストレスを解消するためにクスリに手を出す悪循環に。自分でもどうしようもできず、警官が家に踏み込んだときは思わず「ありがとうございます」と口にしたという……。

……という、ディープな内容なのだけど、見た目はポップな人形劇。モグラの「ねほりん(山里)」「ぱほりん(YOU)」の部屋に、ゲストのブタを招いて話を聞いているのだ。
ブタの衝撃告白にねほりんのヘルメットがボヨ〜ンと飛んだり、目を白黒させたりもする。トーク中に挟まれる再現VTRも全て人形。元薬物中毒者回のオープニングでは風に吹かれながら「YAH YAH YAH」を歌うブタ2匹の姿もあった。
NHKもどうかしちゃった「ねほりんぱほりん」下世話な「攻め」を支える「守り」
ヘルメットがボヨ〜ン(C)NHK

先にトークを収録し、後から人形の動きを合わせているため、当て振りやカット割りはとても自然。ブタは顔のパーツが動かない作りになっているのだけど、仕草がとても細かいので、笑ったり悩んだりといった感情も伝わってくる。また、人形にしたことで「顔出しNGの人が話をしていない時の様子」までも表現できてしまうのが新しい。


先程のエリさんには、いま彼氏がいる。薬物中毒からの回復を支援する「ダルク」のボランティアスタッフ・コウタさんだ。コウタからのクリスマスプレゼントに「キュン」ときたことが、薬物をやめる大事な瞬間だった。部屋にはコウタさんも(ブタの姿で)登場。コウタさんがエリさんのことを話しているあいだ、エリさんはうっとりと彼の姿を見つめ……ているように見えた。
NHKもどうかしちゃった「ねほりんぱほりん」下世話な「攻め」を支える「守り」
コウタさん(左)とエリさん(右)。服装も本人のものを忠実に再現している。(C)NHK

顔出しNGだからいってモザイクや磨りガラスで姿を隠しては、こんな表現はできない。
細やかな感情の動きを人形で伝えられるのも、古くから人形劇を数多く手がけてきたNHKだから可能なことだろう。番組のチーフプロデューサーも記者会見で「子ども番組の伝統の人形劇が“新しいモザイク”の形になって大人のトーク番組として進化した」と語っている(人形劇を隠れ蓑に元薬物中毒者らに下世話なことを聞きまくる。Eテレ「ねほりんぱほりん」過激な記者会見より)

30分番組とは思えない濃厚さの秘密


ターゲットへの取材が綿密に行われているのも特徴の一つ。これまでのゲストは「元薬物中毒者」をはじめ「プロ彼女」「没落した会社社長」等と、よくそんな人見つけたなぁ、と思われるものだが、番組内ではトークゲスト以外にも同じ境遇の複数の人物にも取材をしているのだ。

10月12日放送分に登場したのは「元国会議員秘書」のミナミさん。事前に山里&YOUの好物(鱒寿司と柿の種)を調べあげて手土産にする人たらし術を発揮。先生の「外付けHDD」として知識を蓄え、議会中に先生が寝てないかチェック。
選挙前には地域の葬式まで回る。忙しすぎて父親の葬式にも行けなかったという。

そんなに秘書って多忙なの?という疑問を裏付けるように、トークの合間には「元国会議員秘書が語る ここだけの話……」として取材VTRが挟まれる(もちろんこのVTRも人形劇)。「横になって寝た覚えがない」「デートも支援者が経営する店で」「女性候補の代わりに影武者をした」と、他の元秘書たちから証言がバンバン飛び出す。
NHKもどうかしちゃった「ねほりんぱほりん」下世話な「攻め」を支える「守り」
取材VTRやイメージ映像も全て人形劇。(C)NHK

スタジオトークを取材VTRが補強する形になり、内容に厚みが増す。加えて、CMが無いのでトーク&VTRがノンストップで続く。
民放バラエティに見られる煽りや引っ張りはない。そのぶん内容が詰め込まれているので、30分番組なのにとても濃厚。観終わったあと「エラい話きいたで……」と力が抜けるほどだ。

SNSのシェアを意識した「おまけ」も


10月5日放送の「偽装キラキラ女子」は、SNSでリア充を偽装しているリコさん(仮名)がゲスト。東京のOLになりすますため、上京時に高級ホテルの写真を撮りためたり、「特定班」に見破られないよう偽装ツイートを工夫したりするリコさん。目的を聞かれ、フォロワー数が増えることで発言力が高まることを挙げる。地味な自分が普通に発言しても誰も聞いてくれない。だから……と。
NHKもどうかしちゃった「ねほりんぱほりん」下世話な「攻め」を支える「守り」
偽装キラキラ女子・リコさん。Twitterではハイスペ女子だが本当は「関西在住の地味なOL」。(C)NHK

この回では「キラキラアカウント」を説明するために、リコさん自ら番組用に偽キラキラアカウント(港区わがままOL(@nehopaho))を作成した。この回のためだけに放送の2ヶ月前から数日おきに偽装ツイートを投下する凝りようで、現在もまだつぶやかれている。

人形劇に注目しがちな『ねほりんぱほりん』だが、ネットを使ったPRに力を入れていることも触れておきたい。今や番組公式Twitterや見逃し配信など、番組PRにネットを利用するのは当たり前の時代。その中でも『ねほりんぱほりん』は特に「SNSでのシェア」を意識して、専用のコンテンツが作られている。

公式Twitter(@nhk_nehorin)では実況や後日談をつぶやき、公式ブログには番組内容を文字に起こしした「まとめ」やLINEに使えるスタンプ画像などの「おまけ」を毎回掲載。YouTubeではNHKチャンネル内に毎週『5分で分かる『ねほりんぱほりん』をアップし、テーマソングの『ねほりんぱほりん 人間予報』は「いかにもヤン坊マー坊!」とアラフォー世代のハートをがっちり掴んだ。

スタンプ画像や短めの動画はSNSでシェアがされやすい。Twitterやまとめブログといったテキストにもまだニーズがある。そして手間暇をかけたパロディはバズりやすい。大げさな番宣やキャンペーンを張らない「ゲリラ戦」ながら、ジワジワと話題を作っていく。

コンプライアンスをかいくぐり、丁寧に対象に迫り、SNSを狙ったPR活動を行う。テレビを取り巻く環境が変わりゆくなか、新しい時代の番組作りを手探りで掘り進めている『ねほりんぱほりん』。
今夜10月26日放送は「2次元しか本気で愛せない女たち」。「3次元の男は諦めた」そうですよ……!

(井上マサキ)