映画やテレビドラマで売りになるのは原作者や出演俳優の名まえ。そんな時代に、監督の名まえを売りにできる数少ない人物が堤幸彦だ。
他の追随を許さない独特の演出センスが観客を引きつける堤幸彦が今回手がけたのは本格時代劇。多くのファンをもつ真田幸村(信繁)と猿飛佐助ほか9人の勇者たちの合戦ものは、のっけから予想を覆し、最後の最後まで意外性で押していく。還暦過ぎてもなお新しいトライを止めない堤幸彦は“真田十勇士”伝説をどう捉え、どのように挑んだのか?
「真田十勇士」は俺じゃないなと思っていた。堤幸彦監督に聞く
(C)2016『真田十勇士』製作委員会

──「真田十勇士」の舞台が9月11日からはじまって、映画の公開が22日からです。舞台と映画を同じ監督が同時期にやるのはなかなかない企画ですね。
堤 「悼む人」(原作:天童荒太)は最初に舞台をやって、後から映画化されました。今回も、初演は2年前で、今回は再演ですからねえ。
「真田十勇士」の映画化が決まってから再演も決定し、せっかくだから日にちも合わせることになりました。最初から狙った同時多発企画ではないですが、原作の小説ないし漫画などがあったうえで映画や舞台に派生していくのではなく、オリジナルの企画がここまで大作となって盛り上がったことはなかなか希有な例ではないかと思います。もっとも、NHKの大河ドラマ「真田丸」があったから「真田イヤー」と言えたというのもあるかもしれないけれど(笑)。
──そういう「誰もやってないことをやる」のも堤監督の魅力のひとつです。たとえば、「悼む人」を舞台から映画化したり、「20世紀少年」(作:浦沢直樹)を3部作でやったり、ゴールデンタイムにあえてのオリジナルSFもの(「SPEC」)をやったり、タブーである原発問題を描いた「天空の蜂」(原作:東野圭吾)を撮ったり。
堤 いやいや、そこにはプロジェクトを設計している方々がきちんといるわけでして。
今回の場合は、プロデューサーが太っ腹なんです(笑)。もちろん、そういうチャレンジングな気持ちになっていただいたということはクリエーターの冥利に尽きます。
──堤監督だったら任せられる、とみんなが思うところがすごいなと思いますけども。
堤 でも「真田十勇士」を僕ってちょっと不思議な気がしませんか? 例えば、劇団☆新感線のいのうえひでのりさんや三池崇史さんだったらなんとなく方向性が読めそうだけれど、“堤で「真田十勇士」”は読めなくないですか?
──確かに、堤幸彦の「活劇」ってイメージはなかったですね(笑)。
堤 「大丈夫?」と普通は思うよね(笑)。でも既に舞台をやっちゃっているんで(笑)。
スタッフには、舞台も映画も、諸鍛冶裕太さんというアクション界のスーパープレイヤーがいたり、いろいろな作品を手がけているCGデザイナーさんがいたり、そこかしこにいろんな保険が効いているので「堤でもいいんじゃないか」っていう(笑)。でも俺がプロデューサーだったら「俺じゃないな」って思うよ(笑)。
──(笑)。実際に活劇やってみてどうでした? 
堤 アクション稽古のときは「ドロンします」という札を置いていなくなりました。「ずるいじゃないか」と言われるけれど(笑)、結局「僕の中にそういう男の子的な回路がない」ので、ちまちま、その世界のノリにそぐわないことを言ってしまうんですよ。ギャグを入れたり、理屈をつけようとしたりして、俺が作品の邪魔になる。
だったら、殺陣シーンでは客になることを、舞台においても映画においても徹底しました。僕ができることは、「さあ、この時間内でみんなどれだけできるのかがんばろうね。おもしろがろうね」というお膳立てをすること。だから今回は監督というよりプロデューサーに近い感じだったかなと思います。私と違うピースも混ぜながらそれをパズルのように組み立てていったという意味では、レアケースだったかもしれません。近い例でいうと、木村ひさし(「民王」「99.9─刑事専門弁護士─」「IQ246〜華麗なる事件簿」などの演出を手がけている)がB班として活躍してくれた「20世紀少年」ですかね。

──「監督らしさ、らしくなさ」という部分で、「負けるとわかっていても戦いに行く」「自分の命を捨ててでも」みたいな「滅びの美学」、このちょっと浪花節みたいなところって監督らしいのか、らしくないのかどちらでしょうか。
堤 らしくないですよ、全然。私はお涙ちょうだいも浪花節もほんとのところは好きじゃないですから。・・・と言いつつ、「くちづけ」とか「悼む人」とか「明日の記憶」とか泣かせる作品もやっていますけど(笑)。
──最後に泣かせるのが巧みですよね(笑)。
堤 それは表現の問題で(笑)。
でも、今回は最後に非常にトリッキーな結末が、映画「スティング」のようにくっついているわけです。つまり、最後は閉じてなくて、開いているんです。
──どういう意味ですか。
堤 夏の陣が歴史的に終わったときに「秀頼は生き伸びている」とか「薩摩にいる」とか、それこそ「琉球にいる」とか「島原の乱に絡んでる」とかいろんな噂が流れたそうで。ストレートに「大坂夏の陣で死にました、終わり」としないで創作を語り継いで行く流れがあったんですね。そういうところが面白いと思って、今回の作品はそれを生かしたものになっています。
──それは興味深いですね。
堤 しかもその噂話は理にかなっていて、すべて西に向かって開いている。やっぱり西軍だから東に向かっては開かないんですよ。東に行くと江戸城がありますからね。もっと北へ行くと寒さで滅びの印象がいっそう濃くなる。それに比べて西や南に向かうとなんだか明るい感じがしますよね。その伝説があるからこそ、今回、従来の真田十勇士ものに流れる悲壮感だけでは終わらない気がして楽しくやれました。
──脚本家のマキノノゾミさんに伺ったら、監督が「最後に楽しくというか明るく終わりたい」とおっしゃったとか。
堤 そうだっけ? 忘れちゃったけど、言ったとしたら、たぶん適当なことを口から出まかせで言ったんでしょう(笑)。あくまで娯楽作品にしたいという思いはありました。


後編
では、「真田十勇士」で堤監督が力を注いだ点や、12月公開予定の「RANMARU 神の舌を持つ男」について
実際どう思っているのかなどについて伺います。


[プロフィール]
堤 幸彦
1955年11月3日生まれ。愛知県出身。映画、テレビドラマ、音楽ビデオ、ドキュメンタリー等、手がける作品は多岐にわたる。近年の主な作品に映画「20世紀少年」三部作(08〜09年)、「BECK」(10年)、「MY HOUSE」(12年)、「くちづけ」(13年)、劇場版「SPEC」シリーズ(12〜13年)、「悼む人」(15年)、「イニシエーション・ラブ」(15年)、「天空の蜂」(15年)など、ドラマ「トリック」シリーズ、「SPEC」シリーズ、「ヤメゴク〜ヤクザやめていただきます〜」、「視覚探偵 日暮旅人」、「刑事バレリーノ」など、ドキュメンタリー「Kesennuma,Voices.東日本大震災復興特別企画~堤幸彦の記録~」など。舞台「テンペスト」「悼む人」「真田十勇士」「スタンド・バイ・ユー〜家庭内再婚〜」など。12月3日には「RANMARU 神の舌を持つ男」公開。
「真田十勇士」は俺じゃないなと思っていた。堤幸彦監督に聞く
堤幸彦

[作品紹介]
真田十勇士 
監督 堤幸彦  
脚本 マキノノゾミ  
出演 中村勘九郎 松坂桃李 大島優子 永山絢斗 加藤和樹 高橋光臣 石垣佑磨 駿河太郎 村井良大 荒井敦史 望月歩 青木健 伊武雅刀 佐藤二朗 野添義弘 松平健(特別出演) 大竹しのぶ 加藤雅也

(C)2016『真田十勇士』製作委員会
配給:松竹・日活
公式HP

全国公開中

関ヶ原の戦いから10年、天下の名将として一目置かれていた真田幸村(加藤雅也)だったが、じつは運と顔の良さだけで生き残ってきたに過ぎなかった。あるとき、幸村と出会った抜け忍・猿飛佐助(中村勘九郎)は己の才覚(嘘とハッタリ)で幸村を本物の天下一の武将に仕立てあげようと思い立つ。抜け忍仲間の霧隠才蔵(松坂桃李)をはじめ仲間を集め「真田十勇士」を結成し、亡き秀吉の遺志を継いで豊臣家復権を狙う淀殿(大竹しのぶ)のもと、徳川との戦いに参加する。佐助と才蔵の命を狙う幼なじみのくの一・火垂(大島優子)の攻撃も交わしつつ、大坂冬の陣、夏の陣と戦いは激化の一途をたどり・・・。