『シン・ゴジラ』大傑作である。
中盤、ゴジラがおおおおっと○○シーンで、不覚にも泣いてしまった。

まったく泣くようなシーンではないのにもかかわらず、だ。
その後は、もう、「なんで泣いてるんだろう俺」状態で観続けた。
初日に観て月曜日には原稿をあげる予定が、興奮しすぎたのか、帰宅後、熱出してぶっ倒れて書けなかった。
いまでも、なにも書けない。
そもそも、予備知識なしで観るのが一番いい。
以下、なるべく内容にふれないように、「こういう人は観たほうがいい」とオススメしていこう。

大傑作「シン・ゴジラ」をオススメしたい人を考えてたら日本人全員になってしまった
写真は『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』 A4版全512ページの超巨大本だ。(9/20発売予定)

まず現場で働いている人たち。
『シン・ゴジラ』を知らない人にどういう映画なのか簡単に説明しろと問われれば、こう答えよう。
東京に現れたゴジラ。ゴジラと戦う日本。どう臨み、どう戦ったのか、そのプロジェクトの全貌を描く119分。
NHKのドキュメンタリー番組『プロジェクトX』の怪獣編です、と言っても過言ではありません。

様々な現場で、難問に直面した現場の人々がそれをどう乗り越え克服したかを描いた『プロジェクトX』『下町ロケット』スピリッツ満載の映画だ。
「怪獣映画を観るほどこどもじゃないしな」って思ってる働いてるおじさん、これはあなたたちの映画ですから、ぜひ。

そして政治ドラマを見たい人たち。
『シン・ゴジラ』でゴジラと戦うのは、日本政府だ。
美少女が怪獣と精神的交流をしたり、紙一重系の天才博士が大活躍したりしない。
大怪獣VS日本政府のガチ・シミュレーション映画である。

主要登場人物が、内閣関連の人たちだ。
内閣官房副長官・政務担当:矢口蘭堂(長谷川博己)。
内閣総理大臣補佐官・国家安全保障担当:赤坂秀樹(竹野内豊)
防衛大臣:花森麗子(余貴美子)
内閣総理大臣:大河内清次(大杉漣)
農林水産大臣:里見祐介(平泉成)
などなど。
これ観た後、政治家の顔を見るのがちょっと楽しくなる。

ああ、でもポリティカルな主張が濃いとイヤだなと持ってる人たち。
だいじょうぶ。

日本政府がどう動くか、ある種ゲーム的とすらいえるほど誠実にシミュレーションとして描いている。
会議シーンも続くが、ハイテンポなカットと、コントロールされた映像で、飽きさせない。
政治批判みたいな斜に構えた視線もあまりなく(笑いどころとしてちょいとあるけど)、どちらかというと凄腕のプレイヤーたちが集まった場合、こうなるよねっていう気持ちよさ。
なにかの政治的主張を求めたり、鈍重な政治ドラマを求める人にとっては、そこが物足りないと感じるかもしれないと思うほどだ。

そして群像劇を見たい人たち。
どんだけの人が出ているのか。

いや、逃げ惑う人々がたくさん、というのではなく、「ゴジラVS日本」のプロジェクトのなかで活躍する人たちの多さ。
がんばっている大勢の人たちを描いた群像劇だ。
優秀なハグレモノたちが集まった「巨大不明生物特設災害対策本部」のメンバーの活躍も、もっと観たかった(スピンオフのテレビドラマ化希望)。

そして東京を見たい人たち。
東京映画だ。
ゴジラ、徹底して東京を破壊する。

「ああああ、あそこが!」とか「うちの近所が!」とか、臨場感半端ない。
上空から俯瞰したゴジラがいる東京の恐ろしくも美しいシーンも、心に残る。

そして怪獣映画を見たい人たち。
まさに、これが、俺たちの観たかった怪獣映画だ! と興奮するぞ。
群像劇のシーンが活きているのも、ゴジラが凄いからだ。
ゴジラがしっかりと恐ろしいからだ。
登場シーンでドギモ抜かれ、中盤の妖しくも恐ろしいシーンで泣き、ラストでぐおおおっとなる。

そしてゴジラファン。
1954年、終戦から9年しかたってない時に、第一作目の『ゴジラ』を観た人はどのような衝撃を受けたのだろう。
ってのは、今となってはわからんなーと思っていたが、これかー、これなんだろうなー、というのが『シン・ゴジラ』を観たゴジラファンの実感だろう。
だから、何匹も怪獣が出て戦うタイプの「東宝チャンピオンまつり」タイプを期待すると、ちょっと違う。
だが、ゴジラ、すごい! ゴジラしか出てこないのにすごい。

そして鉄道ファン。
いや、鉄道ファンじゃない俺でも、めっちゃアガるシーンがあって。
「鉄道ファンだったらよかったのに、おれ何で鉄道ファンじゃないんだーー」と後悔したぐらいなので。

そしてエヴァファン。
想像以上にエヴァンゲリオンであった。
いや、エヴァが、ゴジラだったんだな、とすら思った。
市川実日子は、伊吹マヤだった。
石原さとみは、アスカだった。日米安保条約だった。
国連の動きは、ゼーレだった。
音楽も、ゴジラとエヴァだった。

そしてテロップファン。
テロップがドンと出るのが好きな人は、必見。
岡本喜八監督『日本のいちばん長い日』のごとくガンガン、テロップが出る。
情報として受け止める以上のスピードで出るテロップの連打が快楽に感じられる人も多いだろう。
っていうか、この映画でテロップファンになるぞ。

そして宮崎駿ファン。
これは、宮崎駿『風立ちぬ』へのアンサーなのではないか。
『風立ちぬ』は、“宮崎監督は戦闘機が大好きで戦争にすごく詳しい。しかし戦争は大嫌い。(…)そうした一種矛盾を抱えた人物が零戦の設計技師・堀越二郎を主人公にした漫画を描いた。これを映画化したい(『スタジオジブリ絵コンテ全集19風立ちぬ 月報』)と考えた鈴木敏夫プロデューサーの提案から作られた映画だ。
『シン・ゴジラ』は、戦車、戦闘機などが大活躍する映画でありながら、いかにして戦争を押し止めるかという苦闘を徹底的に描いた。
宮崎さん、二郎さんがこんなすごいもん作りましたよ!

そして、311を経験した日本人。
我々は、この映画を、どうしても311での出来事を重ねて観ざるを得ない。
制作陣も、311の膨大な資料や情報を調べて作った(とプログラムに書いてある)。
だから311がなければ作られなかった映画だ。
だが、ゴジラを単純な災害のメタファーとして利用していない。
『シン・ゴジラ』は、ちゃんと怪獣映画だ。
怪獣と対決する人間を描いた映画だ。
人間にがんばれって言っている映画だ。
だからこそ、『シン・ゴジラ』は、2011年3月11日から5年後の今年夏に観るべき映画だ。
(米光一成)