月9「失恋ショコラティエ」(CX、月曜9時)も、3月10日放送分が第9話で、そろそろ佳境です。

恋するピュア男子・爽太(松本潤)が、夫のある身・サエコ(石原さとみ)と11年にわたる恋を実らせるのか。

人気モデルえれな(水原希子)と友達から恋人に関係が変わるのか。
はたまた、チョコレートショップの店員(つまり爽太の部下)薫子(水川あさみ)の密かな思いに気付くのか。
気になって、ドラマも原作も、見逃せません。

第9話では、急展開。
サエコが旦那さんとうまくいかなくて、爽太の店の仮眠室にまんまと転がり込み、そこで、毎晩、口にはできない行為をしまくります(と視聴者に想像させるだけですけどね)。

その様子に薫子が苛立つのは、ごもっともな話です。
だって、仮眠室っていったって職場の一部。眼鏡は顔の一部(古っ)みたいなものですから。

薫子は、いとうあさこのようにイライラし続け、結果、えれなにとんでもないことを。

えれなは、爽太から、ホワイトデーにサエコの思いに決着をつけて正式につきおあうと言われていたのですが、爽太はホワイトデーの晩から音信不通になってしまった(サエコとうまくいっちゃったんだなとだいたい察しています。ひどいよね、爽太)ことを気に病んで、爽太の店を訪ねます。

「無駄なんですよ
結局図々しい子が勝つんだって」

薫子は、えれなに、爽太とサエコのことを話してしまいます。


図々しい子というのは、もちろん、サエコのこと。
お店に居座るのは図々しいし、なにより、夫のいる身ですしね。

でも、サエコ、図々しいを超えて、清々しいほど鮮やかなんです、やってることが。

爽太と同じ「小動DNA」をもつお父さん(竹中直人)と妹まつり(有村架純)を早々と攻略して、味方につけてしまうのですから。
ふむふむ、身内から攻めるのは、賢い方法ですな。

サエコは、お父さんにはトイレ掃除をかいがいしくしているところと、旦那から受けたらしい傷をチラ見せ(8話)。

まつりには、恋の相談に乗ってあげるのです。

「恋多き女の先輩って頼りになりますよねえ」
と、まつりはすっかりサエコ派に。
なにしろ、
「先に進まなきゃ正解も不正解も確かめられないもん
若いうちにどんどん失敗して未来のために鍛錬つもう!」

なんて前向きなアドバイスをしてくれるんですよ、サエコは。
このセリフを、石原さとみがやたら明るく力強く、英会話のCMの極めて流暢な発音のごとく語るので、思わずサエコ派になりそうでしたよ。ふう。あぶない、あぶない。


まつりは、オリヴィエ(溝端淳平)と、そうだ、京都、行こう というような決心をします。

さて、ここで、薫子的横やりを入れますと(小姑的な)、ホワイトデーが終わった時期から桜のシーズンの京都で宿を取ろうとするのは無謀です! めぼしい宿は既に満室ですよーー! 
ただ、オリヴィエ、セレブだから、裏技もっているのかもしれませんね。

オリヴィエとまつり。爽太とサエコ。
なんとなくまとまりかかって、これで、チーム孤独解散か?と思いきや、爽太はまだ孤独の海をさまよい続けます。
いや、むしろ、ますますサエコがわからなくなってしまって、悩みまくるのです。


爽太はサエコに「巻き込んじゃって」ごめんと謝られてショックを受けます。自分は共犯者にもなれないのだと。

ここは水城せとなの原作ままですが、ドラマの脚本を書いている安達奈緒子は、同じ月9「リッチマン、プアウーマン」で小栗旬演じる主人公に、石原さとみ演じるヒロインに対して「巻き込むぞ」というセリフを語らせています。そこでのそれは、死なばもろとも的な深い絆を感じさせるある種のくどき文句だったので、そのニュアンスの違いが面白いです。

もうひとつ、「巻き込む」が使われている作品があります。映画にもなった人気シリーズ「SPEC」の「翔」でも戸田恵梨香演じる主人公が加瀬亮演じる相棒に「巻き込みます」と言います。
こちらも感動シーン。

この2作について、私は以前、「巻き込む」は英語でエンゲージと言うので、ちょっといいくどき文句と書いたことがあります。

ところが、爽太は「巻き込む」では満足できません。
「共犯者」でいたい、最初から対等でありたいというないものねだりで、むやみに苦しんでしまう。

あくまで自分が主人公でありたい、という若い男子が虚勢を張っている様子がかわいらしいですが、巻き込まれてあげられるくらいの余裕があると、恋愛上級者なのではないでしょうか。

というか、悩みたいのですね、爽太は。
サエコとの恋が叶うことを考えてない。ただただ、恋して悶々としたいのです。

が、巻き込む問題で小動(こゆるぎ)ならぬ大動(おおゆるぎ)した爽太も、ついに、
「正も誤もない、これが恋だ」の境地に達します。

もはや、巻き込まれるとか共犯とかにこだわっている場合じゃない。

これまで爽太は、最初にサエコに振られたことがトラウマで、彼女はホントのところどう思っているか気にし続けてきました。
ああかもしれないこうかもしれない、と果てしなく裏掘りし続けて、とうとう、ただただサエコが好きなだけであると確信し、それを言葉にするクライマックスは、血糖値上がりまくります。

「ただ、おれは」がオフのセリフで、「好きだよ」がオンのセリフで、サエコに語りかける爽太。

これまでの爽太は、「ハムレット」のごとく、長い長いモノローグで内面を語り、オンとオフのセリフが交互に出てきていたのですが、オンとオフがひっくり返って「好きだよ」がポンとオンになる。

「好きだよ」も自分の中のオンもオフもひとつに統合するのです。

そう、この何もかもすべてひっくるめたエネルギーの塊こそが「恋」!

そして、爽太とサエコが抱き合って、その瞬間、月が満月に!

この回、最初に、落ち込んだえれなが六道(佐藤隆太)の店で食べるチョコレートのお皿が三日月柄。
その後、帰ってこないサエコを夫が心配している晩は半月。
まつりがオリヴィエと旅行に行くことにする晩が、十三夜月か、待月。
と、月が満ちていくところを挿入しています。
(演出は、このドラマのプロデューサーでもある小原一隆)

冒頭、爽太とサエコがいちゃいちゃしている時には「ムーン・リバー」がかかっていました。
さえこといちゃいちゃしながら、これでいいのかと考えている爽太の想念から、えれなのシーンに変わる時に画面が暗転するのは、新月もしくは月のない夜と考えていいかもしれません。

新月から満月まで、ほぼ2週間。
この期間、登場人物たちの思いが動いて、
ひとつの結論へと導かれていったのです。

ちなみに、爽太のお店ショコラヴィの控え室のドアの窓が丸くて、満月みたいなんです。
このお店は、世界の完成形であって、このお店の中にすべての答えがあるのかもしれません。

第10話の放送日、17日、今夜はリアルに満月です。乙女座で満月なのですが、マツジュンは乙女座ですよね。

9話のマツジュンは、妄想シーンでホストになったりロンバケの主題歌で高まったり、サエコの夫(眞島秀和)との緊張感あふれる心理戦を演じたり、さとみを抱きしめ髪を撫で「好きだよ」とささやきチューしたり、テッパンの後ろからハグをしたり、とひたすらサービスをしまくるエンターテナーの鏡でしたが、満月デイの今晩、第10話も盛り上げてくれることでしょう!(木俣冬)

第一話はコチラ
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