でも恋はアートじゃない
人生そのもの
過酷で
ドロドロに汚れるものだ

こんなビターなセリフを元に生まれたチョコレート専門店「ショコラヴィ」(LaVieが人生の意味)のオーナーシェフ小動爽太(こゆるぎ・そうた/松本潤)の、熱で溶けたチョコのようにドロドロした恋を描くドラマ「失恋ショコラティエ」(CX月曜9時)が、1月13日からはじまった。

原作は、同タイトルの少女漫画。
現在、小学館「月刊フラワーズ」にて連載中で、単行本は7巻まで発売されている。
12月21日付けで6刷になっている6巻の帯には「1−7巻累計200万部突破」とあり、かなりの人気作だ。

主人公・小動爽太は、学生時代から憧れていた先輩・サエコ(石原さとみ)に、彼氏の補欠のように扱われてしまう。
バレンタインデーの前日に、その事実をつきつけられ傷心となった爽太は、愛するサエコが好きなチョコレートを作る職人になろうと、パリへ修行に向かう。
6年後、サエコが大好きなカリスマ・チョコレートショップの店員となって日本に帰ってきた爽太だったが、時既に遅く、彼女は結婚が決まっていた。
しかし、爽太は恋を諦められなくて・・・。


ドラマの第1話では、原作1巻の第2話まで、
主人公爽太がチョコレートショップをオープンするまでが描かれた。
1話に関しては、セリフやストーリー、キャラクター造形は、かなり原作に忠実。
なんといっても気になるのは、キャラの雰囲気があっているかどうかだが、主人公の爽太役は、昨年暮れの紅白歌合戦で司会をつとめ、最後に北島三郎を目立たせようとしていた心配りの男・嵐の松本潤。ほか、罪なかわい子ちゃん・サエコ役は石原さとみ、オンナに辛辣な薫子役は水川あさみ、爽太の妹役に有村架純など、好感度の高いキャスティングである。
唯一、気になるといえば、フランス人シェフ・オリヴィエか。ややバタくさい顔とはいってもやっぱり日本人にしか思えない溝端淳平に演じさせるという難しいトライにあたり、フランス人と日本人のハーフという設定に変更し、かつ、劇中「こう見えてハーフ」「お父さんも日本人だよね」というツッコミを入れることで、批判をギリギリ回避しようと努めていることが見て取れた。
溝端はかなり少女漫画フェイスではあるが、それにしても今回は難役である。がんばってほしい。

とはいえ、主人公・小動爽太が揺るぎなければ(名前は「こゆるぎ」だけど)、無問題なのである。
松本潤で、単行本1巻の表紙の絵の雰囲気とどことなく似ているので、原作ファンも安心なのではないだろうか。

松本潤の何かいいかといえば、目頭から目尻を繋げるカーブである。まぶたのラインが瞳の光りを、朝日のような柔らさから、月のような妖艶さに自在に変える。

それによって、恋する主人公のピュアさと、その奥にあるドロドロした情念が的確に表現されるのだ。
しかも松本潤は、明治のチョコレートのCMにも出演していて、CM「カーニバルの男篇」では「冬はチョコ」と連呼している。チョコレートドラマの主人公と言ったら、ジョニー・デップ(映画『ショコラ』、『チャーリーとチョコレート工場』)か松本潤である、と思いきって豪語してしまおう。

さて。チョコレートと恋と聞くと、スイートな印象を抱いてしまうけれど、この作品はチョコも食べ過ぎると鼻血が出ますよというような、チョコと恋の、濃密で強烈な真理が描かれている。
最初に引用した
「恋はアートじゃない〜」が最たるものだし、爽太の「チョコレートを彼女の体に注ぎ込みたい」という「淫らな野心」とか、ミニスカートはいてきた彼女にムラムラしての「攻略」妄想とか、カカオ濃度は高いほう。

時々出現する色っぽい黒マツジュンと、唇美人の石原さとみのラブシーンはドキドキした。

爽太は「嘘か本当かわからないイノセントさにやられて ますますあなたにはまっていくんだ」とサエコへの思いを募らせていく。
原作でいいなと思ったところは、サエコが傍から見たらそれほどすごい美人ではないというころだったが、ドラマの1話ではその表現はなかった。今後出て来るだろうか。
いずれにしても、ヒトは、なぜか、好きなヒトの言動を都合よく解釈し、よせばいいのに深みにはまっていく。
それが、この作品には痛烈に描かれている。

バレンタイン当日はダメで前日にしか会ってくれない時点でどう考えても本命じゃないだろうという哀しい体験もしながら、主人公は、人妻を思い続けるという倫理に反した行為を止められない。6年も。学生の時をいれたら10年以上も。長っ! 
が、それが、いやな感じになり過ぎず、時に清々しくさえ思えるのは、主人公がイケメンだというだけではない。
どんなに道を外れていても、その思いによって、チョコレート職人として、オトコとして魅力的になっていくという成長物語になっているところが、少女漫画のステキさだ。

とはいえ、結局のところ主人公がイケメンだから、他の女の子といい思いもしてしまうところが、世の非モテ男子には面白くないかもしれないが、オンナに泥の中に突き落とされ溺れながら、這い上がっていくオトコの子のドラマには、誰もが勇気をもらえると思う。


なにより、漫画に出て来るボンボンショコラや、ムース・オ・ショコラにエクレアなど、キレイで美味しそうに再現されていて、トレヴィア〜ン。
白い光りが柔らかく人物を照らし、全体的なトーンもチョコレートブラウンで統一していて、甘い雰囲気を盛り上げている。

原作7巻の帯には「正も誤もない。これが、恋だ。」とある。
寒い季節に、ちょこっと不埒なラブストーリーで、血の温度をちょっと上げてみるのも悪くなさそうだ。

予告によれば、次週の松本潤は、水原希子との濃厚ラブシーンがあるようで、そちらも気になります!
(木俣冬)

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