4月7日に『ジャンプ流』Vol.7が発売された。Vol.7はアニメ放送も始まった『僕のヒーローアカデミア』の堀越耕平特集号。

裏話も満載「ジャンプ流」は究極のファンアイテム
『ジャンプ流Vol.7 まるごと堀越耕平』
『僕のヒーローアカデミア』を中心に、デビューまでの道のりや作品の面白さの解説、カラー作画風景を収録したDVDなどがついてくる。

マンガ家を目指す人のための本だがそれだけではない



ジャンプ流は、週刊少年ジャンプに連載しているマンガ家を特集し、創作の秘密を探っていきながらマンガ家になるためのDVD付マンガ講座誌だ。現在までのラインナップは以下の通り(リンクはAmazon)

Vol.1 まるごと鳥山明(『DRAGONBALL』『Dr.スランプ』)
Vol.2 まるごと岸本斉史(『NARUTO-ナルト-』)
Vol.3 まるごと尾田栄一郎(『ONE PIECE』)
Vol.4 まるごと久保帯人(『BLEACH』)
Vol.5 まるごと藤巻忠俊(『黒子のバスケ』)
(『暗殺教室』)
Vol.7 まるごと堀越耕平(『僕のヒーローアカデミア』)

コンセプト的にはマンガ家を目指している人が読む本でありDVDであるので、自分は読んでも面白くないのでは、と思う人もいるかもしれない。だが、そうではない。マンガ家を目指していなくても、作家のファンも作品のファンも満足する、ファンアイテムなのだ。

各巻の内容は、基本的には教本、DVD、モ写用紙、複製原画で構成されている。
裏話も満載「ジャンプ流」は究極のファンアイテム
内容物は教本、モ写用紙、カラー複製原画、DVD。DVDでのカラー作画で描かれたものが、複製原画としてついてくる

教本はそれぞれの作家のデビューまでのルーツを辿る「ROAD to JUMP マンガ家デビュー秘話」、その作家の作品は何故面白いのかを分析した「ジャン研」、付属のモ写用紙を使って1ページ分模写をする方法の解説をしている「ジャンプ モ写塾」、そしてジャンプマンガを使ってマンガの描き方を1から解説していく「マンガのイロハ」で構成されている。

「ROAD to JUMP マンガ家デビュー秘話」がまず面白い。
Vol.7の堀越耕平特集ではデビュー作『逢魔ヶ刻動物園』連載時に「連載前にどんなに面白い構想を練っていても、スタートダッシュで失敗すると、それを補うためにもとの構想を歪ませることになる」など、初連載時に反省した点やなどが詳細に載っている。これまでの他の特集作家とは異なり、2作品連続で作品が打ち切りになってしまったからこその、挫折と苦悩が語られているのだ。

「ジャン研」では、改めてその作品を読むときに、気づきにくかったポイントなどを教えてくる。Vol.2岸本斉史特集ではNARUTOをベースに、その動きの流れやエフェクト、カメラワークなどを解説している。

「ジャンプ モ写塾」では、付属のモ写用紙を使って、実際に模写を行う際にどういう点で注意をしたらいいかのポイントが書かれている。もちろんモ写用紙に描かれているのは、その作品の名シーンであり、なおかつ模写することで実力アップにつながるシーンだ。
Vol.3の尾田栄一郎特集のモ写では第634話”10万vs.10”が使われている。「10万人がいる場所なら、そう感じられるようきっちり描きこむのが尾田先生流!」であり、細かい兵士のシルエットも妥協せずに描きこもうというアドバイスなどが満載だ。
裏話も満載「ジャンプ流」は究極のファンアイテム
モ写用紙は青線で描かれた1ページ分を、自分でペン入れできるようになっている。写真は『Vol.3まるごと尾田栄一郎』付属の『ONE PIECE』第634話”10万vs.10”の1ページ。

「マンガのイロハ」では、テーマに合わせて作品が選ばれるため、その特集号に合った作品ではない。Vol.1から読んでいくと、道具の選び方、キャラクターの作り方、ネームの作り方……と、順を追ってマンガの作り方がわかるようになっている。例えばVol.7では「主人公をとりまく”仲間”たち」がテーマになっていて、ジャンプ作品におけるさまざまな形の「仲間」を紹介している。「主人公チームのキャラクターデザインは、主人公の一部と考えるべし!」という格言までを読んでから改めて他の作品を読むと、今までよりもずっと深く主人公達の関係性を理解できるだろう。


他にもコラムとして、各先生の仕事場の紹介や、担当によるインタビューが掲載されている。もちろん、裏話もたくさんある。

作者本人の解説付き



ファンアイテムとして、むしろこっちの方が本番なのではというのが、DVDだ。「体感!カラー作画」では実際にカラー原稿を描いているところを収録。これが本当に面白い。白い紙に、みるみるキャラクターが描かれ、命が吹き込まれていく。
しかも、作者本人の解説付きだ。
裏話も満載「ジャンプ流」は究極のファンアイテム
特に印象に残ったのはこの二つ。『Vol.1 まるごと鳥山明』と『Vol.6 まるごと松井優征』だ

特に印象に残っているのはVol.1の鳥山明特集とVol.6の松井優征特集。鳥山明特集では、このDVDのために撮影したのではなく、鳥山明世界展で公開された作画映像(ドラゴンボール連載終了直後に収録)を見ながら、三代目担当編集が質問し、それに答えるというコンテンツになっている。このやりとりが鳥山明の天才性と天然っぷりを浮き彫りにしていて聞き応えがある。

「田舎に住んでいたのでインクとか知らなかった。サインペンを水で溶いて、それで塗っていた。
Dr.スランプの半ばぐらいまで。」とか、「FAXとかを導入したら『今空港へ持って行きます』と言えなくなる(当時は航空便が一番速かった)ので、導入しなかった」など、どれもこれもエピソードとして面白い。

Vol.6の松井優征特集では、読んでくれる人を「読者」だけではなく「お客さん」と言っているのが非常に印象的だった。冊子の方でも「読者の方にお金をいただいてマンガを読んでもらってる。読者が欲しがっているものが何かを考え、それに応える意識が必要」と言っているように、徹頭徹尾読者のことを考えているのが絵にも表れている。

殺せんせーのペン入れ時に曲線定規を使っているが「その方が自分が描くよりも綺麗になる。だったら自分が練習してペン入れがうまくなるよりも、定規を使った方がいい」などがいい例だろう。


DVDには他にも制作スタジオを作者自らが紹介する「伝心!創作の現場から」や、「実技!マンガテクニック」が収録されている。「伝心!創作の現場から」では、単なる紹介だけではなく読者に向けたメッセージもあるし、「実技!マンガテクニック」では、背景となる木の写真の撮り方から解説しているなど、盛りだくさんだ。

ジャンプ流はジャンプ作家の流儀を紹介する、創作のコツを教えてくれるコンテンツだ。だが、創作のコツはそのまま作品を読み解くコツでもある。漫画家を目指していなくても、漫画が、特にジャンプ作品が好きならば大いに参考になるし、楽しめるだろう。

好きな作家の特集号はもちろん、Vol.1 まるごと鳥山明は創刊特別定価として他の号の半分の値段(700円)なうえに、DVDに収録されている内容やおまけも多いので、まずはこれを買ってみることをおすすめする。きっと、作品を見る目が変わってくるだろう。
(杉村 啓)