ファミコン、スーファミ時代に青春を過ごした人たちが、否応なしにノスタルジーを喚起させられてしまうのが「ドット絵」。

ヘタしたら「ドット絵って何?」なんていうヤングもいるかもしれないけど、昔のゲーム機は性能が低かったから、あんま細かいグラフィックを表示することが出来なくて、仕方なく色数も少なく解像度も低い、カクカクッとした点(ドット)の集まりでキャラクターを表現してたんだよ!

今の「ほぼ写真!」といった感じのリアルなゲーム画面を見慣れていると、ドット絵のキャラクターなんて「なんじゃこりゃ? 何が描かれてるの?」ってなもんかもしれないけど、当時の子どもたちは、そんなドットの集合体の中にヒゲのおっさんや、美人(らしい)お姫様の姿を見ていたのだ。

堀井雄二はえらい。ファミコン世代感涙、全コマドット絵漫画『ファイナルリクエスト』の衝撃

だからあの頃は、ゲームのキャラクターを落書きするのも当然ドット絵で。いや、そこは別にパッケージとかに描かれている普通の絵の方をマネすればいいじゃん……と思わないこともないけど、みんな算数で使う方眼用紙にカクカクっとしたマリオを描いていたし、当時のゲーム下敷きの裏には大抵「ここにドット絵描けよ!」とばかりにマス目が印刷されていた。

それだけドット絵に心をワッシリつかまれていた子どもたちだけど、別に「ドット絵フォーエバー!」とか思っていたわけでもなく、「未来のゲーム機ではもっともっとリアルなグラフィックが表示出来るようになるんだろうな〜」と期待を膨らませ、リアルなおっさん顔のマリオがヒゲ1本1本をフワッサとたなびかせながら、胞子までリアルに再現した巨大きのこを喰らう未来を夢想してみたり……。

結果的にマリオはリアルなおっさん顔にはならなかったものの、ゲーム機は当時の想像を遙かに超える進化を遂げて、ハリウッド映画級の映像がグリグリ動きまくり。当時の子どもたちの夢は現実となった!

……それじゃあ解像度の粗いドット絵はもうお役御免なのかと思いきや、それはそれでいまだに魅力的で、いくらでもリアルな画像を表示することができる最新のゲーム機やスマホでも、わざとカクカクッとしたドット絵を使用したゲームがリリースされている。21世紀になってもドット絵が愛され続けるなんて、コレは予想外でしたな。


確かに、画面の中に全てのビジュアル情報が詰め込まれている今のゲームよりも、見る側が想像力を駆使しなければ、何が描かれているのかもイマイチ分からないようなドット絵の方が、むしろ無限のイメージが浮かんできてワクワク感が上だったような気もする。昭和の子どもたちは、カクカクッとしたキャラクターたちが動き回る画面で笑い、恐怖し、涙していたのだよ!

だったら、ゲームに限らずドット絵で物語を表現することもできるんじゃない? ……とまあ、そんな思いつきを本気で実行しちゃったと思われるのがこの漫画『Final Re:Quest ファイナルリクエスト』(1)。なんと全ページ、全コマがドット絵で構成されているという斬新すぎる漫画なのだ。
堀井雄二はえらい。ファミコン世代感涙、全コマドット絵漫画『ファイナルリクエスト』の衝撃
『ファイナルリクエスト1』日下 一郎、ヒューガ/講談社

普通の漫画は当然、漫画家さんが手描きした絵で物語を展開していくわけだけど、要はその絵の部分が、ファミコン画面のようなドット絵に置き換わっているということ。本を開いた瞬間に目に飛び込んでくる、ファミコンゲームの画面キャプチャーのようなページの連続は、なかなか衝撃的!

もちろんドット絵で漫画を……といっても、ただ単に解像度が粗い漫画というわけではない。キャラクターのサイズはこれくらいで、マップのタイルはこれくらい、1キャラに使える色数は4色まで……などなど、ファミコンの性能を想定した制限をかけてドット絵を制作しているらしい。
そこまで、こだわる必要あるか!?

さらに、セリフ部分も8×8ピクセルで構成されたドット文字。しかもひらがな、カタカナのみで漢字ナシ! 確かにファミコン時代に漢字の表示は難しかったけどさぁ……。そんな、クレイジーとも思えるほどのこだわりを積み重ねた結果、漫画を読んでいるというよりは、ファミコンのRPGをプレイしているかのような読書体験を与えてくれる。

そして「全ページドット絵」という、パッと見のインパクトで、その手法にばかりに目を奪われがちだけれど、この漫画のキモはドット絵とストーリーの融合だ。

物語は、架空のゲーム機・FAMIBOY用ゲームソフト『ファイナルクエスト』のエンディングからはじまる。魔王を倒して世界は平和になりました、めでたしめでたし……みたいな、いかにもファミコン時代のRPGにありがちな展開なのだが、その平和になった世界に突然異変が……バグッてしまったのだ!

ゲームの世界に異変が起こって……みたいな漫画やアニメは、これまでにもいっぱいあったけど、ドット絵世界が崩壊する「バグッた」シーンの衝撃は、ドット絵で描かれた漫画だからこそ表現できたものだろう。
だってホントにページがバグッてるんだもん(セーブしてないのに、おかあさんがファミコンに掃除機をぶつけちゃった感!)。

さらに、ドット絵に目が慣れてきた頃に突如として登場する、ある仕掛けにも腰を抜かしましたよ。たとえるならば、アニメ『トップをねらえ』第6話でモノクロで進行していた画面が、突如カラーになった的な衝撃! 詳しくは実際に読んでビックリしよう。

……とまあ、単にドット絵で描いたというだけではなく、ドット絵だからこそのギミックが散りばめられた『Final Re:Quest ファイナルリクエスト』(1)。今後、ドット絵漫画のフォロワーが続々と出てくるとも思えないので、この手法でやれそうなチャレンジは全部やっちゃってください!

ちなみに、単行本の巻頭には架空の「取扱説明書」が掲載されていて、ドラクエでいうところの「鳥山明が描いたオフィシャルカットはものすごく上手いのに、誰が描いたんだかよく分からない微妙にヘタなイラストも混ざっている」というのまで再現されていて、アラサー以上にはタマラナイものがあるだろう。

そして何より、「いつか人間になりたい」と願っているモンスターと一緒に旅をする戦士の話や、商人の話など「どう考えてもドラクエ4のパロディだろ!」というエピソードが頻発する漫画の帯にコメントを出す堀井雄二の懐の深さよ……!

ちなみに漫画は、ニコニコ静画で連載中。
こちらだと、ファミコン風のBGM付きで読める。そして、5月24日(日)には出版記念イベントも開催されるので、こちらもチェックしよう!
(北村ヂン イラストも)