「任天堂は『トモダチコレクション』の中で、どのような形での社会的主張も行うことは意図していません。ゲームのリレーションシップオプションは面白い別世界でのもので、現実をシミュレートするものではありません。
本作を風変わりで面白いゲームとしてとらえ、そこには何の社会的主張も存在しないことをファンの皆さんに理解して欲しいと思っています」

これは、当初任天堂が「トモダチコレクション」について表明したものだ。

任天堂の「トモダチコレクション」は、ゲーム世界に自分や友達のアバター(Mii)を作り、彼らの生活や人間関係を深めるようすを楽しむ大ヒットゲーム。2009年の一作目は3ヶ月でミリオンセラーに。2013年4月に二作目の「トモダチコレクション 新生活」が発売され、現在180万本新仕様としての売り上げ。今年6月には北米展開も予定されている。

「トモダチコレクション 新生活」は、新仕様として「出産」要素が加えられている。
一作目ではMiiどうしの関係は恋愛・結婚と発展するが、二作目ではさらに出産もできる。さまざまな人間関係が展開する「トモダチコレクション」だが、結婚・出産できるのは男女間だけだ。
この要素に関して、アメリカのアリゾナ州に住む任天堂ファンの男性Tye Marini氏がキャンペーンを立ち上げた。「トモダチコレクションで同性婚ができないか」。フィアンセのMiiとゲーム内でも結婚したいと考えているのに、ゲームでは同性婚の仕様がないためできない。同性どうしでも結婚できる仕様を加えてくれないか、という要望だ。


任天堂は、5月7日に仕様の追加はできないと回答。その理由がさきほど紹介したとおりの「どのような形での社会的主張も行うことは意図していません」だ。

海外メディアはこの回答を批判。AP通信は「Nintendo says no to virtual equality in life game」ーー任天堂は仮想空間の平等にノーを表明、と報じた。
これを受けて、任天堂は9日に当初の表明を撤回。「多くの人々を失望させた」と謝罪し、「トモダチコレクション 新生活」(北米版タイトルは「Tomodachi Life」)に同性婚の要素を加えることはプログラム上できないが、次回作ではゲームデザインの段階から検討する、と発表した。
一連の問題はこの声明で収束を見せたといえる。

ただ、すこし気になることがある。
任天堂の回答は、「社会的な主張(この場合は、同性婚に対する態度)は行わない」。けれどAP通信の報道は「任天堂は平等を否定」だ。任天堂側としては「否定はしない」というスタンスを見せたはずだったのに、むしろ「否定している」と取られてしまっている。

なぜこのようなことが起こるのか。
それは、海外の「差別」に対する考え方に由来する。
海外ドラマを見ると、さまざまなキャラクターがいることに気づく。メインキャラクターは白人だけで構成されないようにさまざまな人種の人物を登場させるし、ゲイやレズビアンなどのLGBTが出てくるものも多い。聴覚障害や視覚障害など、障害を持った人物が出てくることもある。
欧米では、「差別意識がない」ことを表明するためには、その対象を積極的に取り上げること(もちろん、マイナスイメージのつかない形で)がよいとされているのだ。
任天堂の表明はまさにその逆。
海外ドラマでたとえれば、登場人物が全員白人、全員が異性愛者の内容を放送してしまったというべきか。主張しないことで、かえって主張とみられる、という事態になってしまった。

日本はいっけん同性愛に寛容な国だ。男色文化の歴史はある。同性愛をタブーとする宗教もそこまでの多数派ではない。BL(男性同士の恋愛もの)や百合(女性同士の恋愛もの)の市場だって大きい。

ただし、実際の性的マイノリティに対しては、あまり関心を払おうとはしていない。それだけではなく、やんわりとした差別意識がある。
テレビなどのメディアでニューハーフやいわゆるオカマの人々が登場しても、それはあくまでもネタ扱い。BL好きの中には「BLはファンタジーだから好き。実際のゲイとBLは違う」と言っている人がいるし、百合好きの中にも「百合はきれい。レズビアンは百合じゃない」と定義しようとする人もいる。大手のまとめブログでは、LGBTに対する批判的な言葉が多く並んでいるところもある(LGBT叩きはPVが伸びるため、あえて偏向まとめをしている節もある)。
任天堂の当初の表明は、むしろ海外よりも日本のこうした空気に向けて発信されてしまっていた。初めから「プログラム上難しい」と言っていれば、このような問題になることはおそらくなかった。

アメリカやヨーロッパでは、同性婚が可能な州や国が増えてきている。それに対して、ロシアやアフリカなどでは逆に同性婚・同性愛が否定される向きもある。
日本がどのような方向に向かっていくのかはわからない。しかし今回の任天堂のような「どのような主張もしない」という態度は、もはや難しくなっている。

(青柳美帆子)