エキサイトレビューライターの中には、ゲームのディレクターやシナリオライターが3人もいる! せっかくなので、自作について語ってもらいましょう。
名づけて「ゲームシナリオ座談会」。

クリエイターの目線から語る、思い出深いゲームシナリオやセリフ。うん、これは面白くなりそう。
では、とみさわ昭仁さん、麻野一哉さん、米光一成さん。よろしくお願いします。


「桃伝」シリーズはダジャレOK

米光 とみさわさんが関わっている「桃太郎伝説」のリメイクってもうすぐ発売だよね。
とみさわ 「桃太郎伝説モバイル」ケータイアプリで4月1日リリースです。

麻野 テキストってそのまんまなん?
とみさわ いや、かなり変わっていますよ。なんせ24年も前のゲームですから。
米光 そんなに経っているんだ!
とみさわ 「桃伝」ってギャグが命みたいなところあるんですけど、それが古いわけですよ。「あかおにホーマー」や「ジャキチェーン」とか(笑)。
麻野 ボブ・ホーナーね。いまだと絶対伝わらないでしょ。

とみさわ 懐かしいから、そのままでもいいんじゃないと言っていたんですけど、さすがになかろうと。基本の流れはあまり変わっていないんですけど、ディテールやイベント、キャラを変えて、そこにまつわるセリフも変えたりしてます。
麻野 どういう風に変えたの?
とみさわ 「鬼ザイル」っての出したんですよ(笑)。没になったんですけどね。
米光 わー(笑)。
とみさわ 「桃太郎伝説II」に5色の「オニレンジャー」ってのがいたので、そいつらを出したかったんだけど、「なんとかレンジャー」自体古いねって話になって。
じゃあ鬼がVの字に5体並んで「鬼ザイル」って名前にして出そうって。
麻野 アホやなあ(笑)。
米光 それ見たかったなー……。
麻野 そういえば、「かまいたちの夜」でも似たようなのがあったなあ。「私をスキーに連れてって」をネタにしたのがあったような気がする。記憶曖昧だけど。

とみさわ 時代ですねえ。気を使いますよね。「桃伝」シリーズはダジャレOKなので、自由な感じはありますよね。「天下一ダジャレ大会」とかも開かれていますし。


情報はひとつじゃないとわかりにくい

米光 極端だけど昔のゲームって全部テキストだった。「ドラゴンクエスト1」で勇者のグラフィックって、正面だけで、横の人と対話しているのに横向かない。
失礼なヤツですよ、勇者。でもプレイヤーは記号として受け取っているから、正面でいい。横を向いていようが、文字の「勇者」は横を向かない。
とみさわ テキストというかシンボルだよね。
米光 そうそう。「リンゴ」という文字は、実物のリンゴをシンボルとして表している。
それがドット絵になっているだけ。「攻撃」を選択しても、わざわざ剣を振る動作はない。
麻野 スピーディなんだよね。
米光 記号の心地よさがあった。今だと3Dでちゃんと表現して、剣を振っている途中経過が表現される。攻撃した、外れた。という瞬間のインタラクションが面白かったので、攻撃している間とかはなくていいの。「剣を振った」で終わってほしいの。
とみさわ リアルに経緯を表現するのもたいへんなんだけどね。
米光 小説でも山に登るシーンがあったとして「うねうねとした道をまた少し曲がって、すると……」とか全行程を馬鹿正直には書かないでしょう。
麻野 山登りの苦労をこれでもかと見せたいんだったら別だろうけど。何を楽しませるかで変わってくる。
とみさわ ゲームの場合は反復作業が多いので、反復作業全てに肉部分が付くと、結構めんどうなんだよね。
麻野 RPGで村人に話しかけると、メッセージウインドウを何枚も使って説明するやつがいるでしょ。大抵の人って、ウィンドウ3枚目でうんざりするのね。
米光 話聞き終わったとき、最初になにを言っていたかわからなくなる。
麻野 2枚目くらいまでは読むけど、そこで「姫が……」とか大事なことを言い出すと駄目。
米光 うっとうしいよね。
麻野 小説や漫画はひとりの人がずっと喋っているけど、普段の会話って、何か言ったら誰かがポンって返してくれる、ってのを繰り返すでしょう。下手な人がRPGの台詞を書くとただ長くなるだけなんですよ。何でもかんでも説明しようとするから。
とみさわ ひとつのセリフの中に2、3個くらい情報が入っていたりするんですよね。情報はひとつじゃないとわかりにくい。
麻野 起承転結はいらない。「起」とか「結」だけでいい。早く会話を終わらせたくてボタン連射になるだけだから。(笑)。
米光 プレイヤーは3枚目のウインドウの話を見ているときに、1枚目のことはもう覚えてないんだよね。だから「あのアイテムが~」とか言われても、「なんだっけ?」ってなっちゃう。
麻野 「あれ」や「彼」という指示代名詞は使わない。「リンゴ」とか、そのモノずばりを書く。「弟切草」や「かまいたちの夜」といったサウンドノベルで気をつかったのが行数。長くても三行。できれば二行。最高は一行。無理な場合は「、」ででもいいから、ポーズかける。でないと、ユーザーは置いて行かれるような気がして、読む気が失せるから。あと、システムの言葉を世界に持ち込まないように苦労した。
とみさわ それは僕もありますね。昔はゲーム中に「Aボタン」とか出すのは絶対に避けたもの。ゲームにもよるんだけどね。パズルゲームだといいんだけど、「ポケモン」は世界観をぶち壊しちゃうからやっちゃいけない。
麻野 それをいかに言い替えて伝えるか。
米光 「壁に書いてあったよ」みたいな。
麻野 「トルネコの大冒険」で、斜め移動は、「Rボタン+十字キー」なんですよ。しかし、これをそのまま登場人物に言わせると、さめる。かといって、どう言わせればいいのか?(笑)
とみさわ 相当難しいよね。
麻野 お城の兵士に「古の伝説によると、大いなる右手とグランドクロスが交わったとき……」とか言わせたんだけど、もうなんだか、わけが分からない。(笑)
米光 凝りすぎるとね。
麻野 いかに世界を壊さないように説明するか。これは苦労する。最近は、面倒なのか、割り切っているのか、「さぁAボタンを押そう!」ってそのままボンボンいっているのをよく見るけど……。昔はかなり噛み砕いたなぁ。「ウルティマ」がファミコンに移植されたじゃないですか。
米光 秋元康監修のヤツだ!
麻野 セーブする場所が「セーブデパート」で泣きそうになったっていうかぶん殴ろうかと思った(笑)。今ならそれぐらいのほうが楽しくていいんだけど。
とみさわ あれは椅子から落ちたもん。
米光 俺も当時怒った記憶があるけど今なら許せる気がする。


ゲームのためのゲームにならないように

とみさわ テレビ界特有の楽屋オチみたいなギャグだからね。堀井(雄二)さんはセーブデータのことを「ぼうけんのしょ」と言った。素晴らしいなと。その世界だったら何て言うべきなんだろうって、常に基準にするようになりましたね。「桃伝」だったら、どう操作説明を自然に言わせるか。もともと最初の村にいろいろ教えてくれるうんちがいたので、もっとわかりやすくしてみたんです、全部そいつらに言わせようって。「何についてシリたい?」って「知り」をわざわざカタカナで書いたり、そういうこざかしいことをしています。
麻野 ギャグがいちいち細かい。
とみさわ プレイヤーの移動速度の変更方法があることは、早足で移動するうんちに話かけるとわかる、「僕は走るうんちだよ」って誘導してくれる。
麻野 人殺すのはまずいけど、ゾンビだったら思う存分殺せる、みたいな。
とみさわ うんちが言うことだからいいだろうって(笑)。
米光 とみさわさんは「少年ジャンプ」で堀井さんと一緒に仕事をしていたんだっけ。
麻野 「ファミコン神拳」
とみさわ そうです。直接じゃなくて、堀井さん直弟子の宮岡寛さんからRPGを作る上でのいろいろなことを学びました。堀井雄二流のゲームデザイン作法、シナリオ作法。
米光 それってどんなの?
とみさわ 言葉は刈りこんで短く分かりやすく、ひとつのセリフの中にはひとつの要素しか入れないというね。堀井さんは「ジャンプ」をやっていたことで、漫画のセリフから学んでいて、それは僕も同じように受け継いでいるんです。
米光 麻野さんは「ドラクエ」もやっているもんね。ふたりとも堀井チルドレンだ。
麻野 そうそう。「ドラクエ5」のとき漢字を使おうって話になったのよ。で、どこまでの漢字を使うかって話になって、俺は頭が固くて、「小学校5年生の教科書までかな」とか言っていたのに、堀井さんは一言「ジャンプに出ている漢字だけ」って。
米光 わかりやすい!
麻野 そのほうがいい、教科書とか関係ないわ、って目からウロコが落ちた。
とみさわ 本質的なことをちゃんとわかっている人ですよね。
麻野 ダンジョンのマップを書いていて、「ここを右に行って左に曲がったところにアイテム置いて」っていろいろ考えていたら、堀井さんがボソッと「一番大事なアイテムは、ちょっといいところに置いてよ」って言うの。普通にぽんと置いてあるんじゃなくて、周りに水があったり、高台になっていたり、大事に保管されていなきゃ駄目だって。
とみさわ 辿り着いた! って感じだよね。
麻野 宝を拾ったときの獲得感が全然違うでしょ。物語を追っているプレイヤーからすると当然なんだけど、現場でゲーム性ばかり追いかけていると、忘れちゃうのよ。ダンジョンの構造ばかりに頭がいっちゃって。
米光 宝箱の置き場所だけでも物語があるからね。
麻野 そうそう。そこを忘れると、ついパズル的なものを作っちゃう。昔、知り合いのミステリー作家が、飯野賢治の「エネミー・ゼロ」に怒っていて。
米光 なんでなんで?
麻野 宇宙船の中で冷凍睡眠から目覚めるのよ。で、他の仲間を探しに行くんだけど、みんな寝ているところがバラバラなんだ。そのミステリー作家さん、「それはありえない」って。「宇宙なんて不安だから、同じ場所に寝るはずだって」って。
とみさわ ははは。
麻野 「ゲームの都合上、船内を歩かせたくて、離れて寝かされているんだろうけど、リアリティがない」とこぼしていた。物語を作る世界の人だから、よけい納得がいかないんだよね。
とみさわ そんな離れたところに冷凍睡眠のカプセルがあったら、生命維持装置の配管すんのがめんどくさくてしょうがないよね(笑)。
麻野 人情としては変でしょ。宇宙空間でそんなバラバラに寝ているのかって。
とみさわ そんなにお互いが嫌いだったのかなって(笑)。
米光 ゲームのためのゲームにならないように気を遣わないといけない。
麻野 そうそう。ゲームの都合にしか過ぎない。話もどるけど、堀井さんは、その辺、かなり引いて見ていた気がする。


Part2のテーマは「お気に入りのゲームのテキスト」について。(加藤レイズナ)