「嵐」の櫻井翔が主演のドラマ『先に生まれただけの僕』(毎週土曜 後10:00/日本テレビ系)が10月14日からスタート。
初回平均視聴率は10.1%。
視聴率2ケタ突破の好スタート。
今日21日午後10:00から第二回放送だ。

設定がユニーク&リアル


櫻井翔が先生役だが、いわゆる「青春教師学園ドラマ」ではない。
なにしろ櫻井くん演じる鳴海涼介(35歳)は校長なのだ。
会社が経営する私立京明館高校は、偏差値平均44、毎年赤字の不採算部門。
この学校を建て直すのが、校長になった鳴海涼介の勝利条件。
この設定が、いい。

破天荒な先生がやってきて、熱意とかテクニックとか優しさで学校を変えていくというロマンあふれる青春モノではない。
優秀な営業マンだったただの若者が校長になったらどうなるか。
それがリアルに描かれている。
櫻井翔主演「先に生まれただけの僕」奨学金の罠に迫るガチさ、櫻井くんの自然な演技、いいスタートだ
イラスト/米光一成

櫻井翔の演技がいい


櫻井翔が演じる鳴海涼介(35歳)は、校長先生。
もちろんベテラン教師から叩き上げで校長になったわけでも、スーパーティーチャーでもない。
35歳。
バリバリの営業マンだったが、会社の派閥争いのトバッチリで、左遷されて校長になった。

櫻井翔は、とんでもない状況に巻き込まれた平凡な若者を見事に演じる。
肩肘張らず、変にでしゃばるでもなく、自然な、バラエティ番組やニュース番組に出ている櫻井くんが、そこにいる感覚で観れた。
これが、良い。
奨学金問題など社会的な問題も扱われているのだが、それをコミカルにそらすのでもなく、重々しく主張するのでもない。
「今ある問題」をエンターテインメントのドラマとして、自然なトーンで転がしていく。
それを可能にしているのは、桜井くんの誠実な演技の力だろう。


奨学金問題!


第一話で重要なテーマとなるのは奨学金問題だ。
「奨学金が借金だって実感したのは就職してからだった」
「最初の給料なんてたいしたことないからさ。そこから三万近く引かれるってのはかなりきつかった」
「今でも払い続けている。利子含めると600万円近くなるからね。全部払うのにあと10年かかるよ」
「でも、そんなことになるなんて聞いたことがない。記憶がないんだよね」
奨学金問題の重要なポイントがちゃんとセリフで登場する。
本来、奨学金というのは、返済の必要のない給付型だった。

しかし、今の制度では、奨学金のほとんどが返済しなければならない借金なのだ。

「いやアルバイトでもなんでも自分で働いて授業料を払え」と言えるのは良き時代に大学へ行っていた老人だろう。
『奨学金が日本を滅ぼす』によると、現在、2016年の国立大学の授業料標準額は53万5800円
国立大学の授業料が年間10万円に収まっていた時代とは違うのである。
奨学金が“「経済的に厳しい、ごく少数の過程の出身者」が利用するというイメージ”も現在ではまったく違う。
奨学金の利用者は全大学生の50%を超えている。

大学を卒業し、借金600万円から社会生活をスタートする状況になってしまう若者がたくさんいるのだ。
構造的な問題なのである。

学校が抱える今の問題を真正面から取り上げた骨太なドラマでもあるのだ。

構成の見事さ


脚本・演出もすばらしい。
原案・脚本は、『HERO』『ガリレオ』『龍馬伝』等の福田靖
演出は『Mother』『ゆとりですかなにか』『Dr.倫太郎』等の水田伸生


最初のシーンでキラリと光る社員バッチが最後に効いてくるところ。
大袈裟にしない自然なセリフ。じっくりと感情移入させていく流れ。
積み重なっていった問題がラストで炸裂して、またそれが次の問題につながっていく面白さ。

第一話の構成を分析しながら、見どころをチェックしていこう。

初回14分拡大で、CMを除けば全体は約60分。
最初の10分でコンパクトに状況設定と主人公を待ち受ける困難を予感させる。

校長になった鳴海涼介が、先生たちとひとりひとりと面談するシーンからスタート。
教師のキャラを素早く紹介しながら、鳴海校長と教師の考え方や感じ方の違いがゆっくりとわかってくる。
校長に左遷されるまでの経緯が、途中途中にはさみこまれる。
特進クラス担任教師の真柴ちひろ(蒼井優)との面談で、鳴海は思わず言ってしまう。
「どうしてみなさんには問題意識がないんです。京明館高校は赤字なんですよ。経費節減とか企業の人間なら普通考えられることを何故やらないんです」
「いきなりそういうこと言われても」
危機感ゼロを嘆くと、副校長兼事務長の柏木文夫(風間杜夫)が「いやいや学校の先生ですから」と答える。
マネジメント意識の高いビジネスマンと、現場で忙しくしている先生の間に横たわるミゾが、じわじわと見えてくる。
ここまで10分。タイトルが出る。

次の10分間。問題点を具体的に描いていく。
校長は、中学校や受験塾へ営業へ行く。
「教育事業から手を引いたほうがいいんじゃないですか」
「3年はかかりますね」
「入学志願者を増やせ」
「御校レベルをあげるべき」
どこへ行ってもけんもほろろ。
めちゃくちゃに言われるだけである。
安易に学校内で説明せず、外に出て営業しているシーンとして見せることで説得力があがる。
「じゃあ、どうしろってんだよ」
授業を覗くが、これもボロボロ。
つまらない授業に、まじめに受けてない生徒。
鳴海校長が立ち向かうべき問題点が、どんどんはっきりしてくる。

次の10分間、大喧嘩シーン。
「絶対に起こすなよ、いじめだ、万引きだ、暴力沙汰だ、問題を起したら責任を取るのはおまえだぞ。おわかりですね。こうちょぉぉせんせぇぇ」
会社の上司、加賀谷専務からは嫌われ、大きな枷をかけられる。
加賀谷専務を演じるのは、高嶋政伸。
『黒革の手帖』の巨大予備校予社長、『女囚セブン』の法務大臣など、嫌な権力者をやらせると天下一品の怪演っぷりは健在。

そして、加賀谷専務の言葉が呪いのように効いたのか、学校で生徒の大喧嘩が勃発する。
「これ問題になりますかね、問題はまずい」
オロオロする鳴海校長。

次の10分間。新しいタイプの問題が浮上する。
奨学金問題だ。
「俺、諦めなきゃいけないんですよね大学」
父親がくも膜下出血で倒れ、おそらく一年は働けない。
それで、進学をあきらめなきゃいけないと思っている学生を演じるのは、佐久間悠。
このドラマ、生徒を演じる少年少女の若手俳優が300人近く登場するとのこと。
「この中から、未来のスターが出てくるかも!」と思いながら観るのも楽しい。

奨学金を勧める真柴ちひろ先生。
そのやりかたに引っかかる鳴海校長。

ラスト10分は、クライマックス。
奨学金が借金であることをちゃんと説明すべきだという思い。
そうすると就職する学生が増えて立て直しも難しくなる。
ふたつの矛盾する考えを抱える鳴海校長。

クライマックス直前に実家に電話する鳴海校長(広島弁!)。
自分が大学に進学するときのことを思い出す。
外への営業、親会社、恋人、実家と、鳴海校長が関わる「学校の外」をていねいに描く。
ちょっと、ほっとするシーンを経てから、クライマックスだ。

「そのためにはまず教師が変わらなきゃならない。
一番の問題は先生がたです。
生徒に対する意識を変えてください。
先生方は生徒からの授業料で給料をもらっているんです」

と先生の前で大声で語る。
「学校はビジネスなんですか?」
と憤る先生に対して、
ドン机を叩いて鳴海校長は言う。
「ビジネスですよ、当たり前でしょう」
校長と先生の対立が決定的になり、次回に向けてドラマが駆動していく。

さらにラスト10分。さらに畳み掛ける。
鳴海校長は、学生に、自分の経験も交えて、奨学金のこと、将来のことを熱く語る。
学生の手を握って言う。
「君の代わりがいないと言われるような
人に必要とされるような力を
身につけていかなければならないんだ」

主題歌「Doors 勇気の軌跡」が流れてきて、いいシーンである。
そして……!?
急転直下展開が炸裂。

第二話、大期待である。

公式サイト「先に生まれただけの僕」
見逃した人はhuluで観れるよ。
(米光一成)