pixivで大きな話題を呼んでいた実録レポ漫画の書籍版が発売された。村上竹尾の『死んで生き返りましたれぽ』
タイトルの通り、一度「死んだ」作者が、「生き返った」作品だ。
比喩表現ではない。

〈2年ほど前からとても体調がわるく、 目眩や発熱、ねこむことは日常茶飯事になりつつありました。そのうち 固形のものが食べられなくなりスポーツ飲料のみで過ごすようになりました〉
〈「ここがどこかわかりますか?」「……」「ご自分がどういう状態か 知りたいですか?」〉
〈あとから聞いたのですが わたしは自宅トイレで気を失い あと数時間発見が遅かったらそのまま死んでいたそうです〉

ICUに運び込まれた竹尾。
当時のカルテが掲載されている。

〈4月26日の5時ごろ、母親がトイレに座っている本人を発見、応答がなく当院緊急受診した。
(中略)1#DKA、2#敗血症、3#横紋筋融解症、4#急性腎不全、5#心肺停止、6#糖尿病、7#貧血、8#高アンモニア血症、9#脳浮腫(PRES)の加療を行った〉

血糖値は932。通常値の約9倍。
竹尾は絵を描く仕事をしていて、食事も睡眠も不規則すぎる生活を送っていた。糖尿病になり、その合併症でさまざまな疾患が併発・合併し、ついに限界を迎えたのだった。
『死んで生き返りましたれぽ』では、ICUに運び込まれてから、ついに退院するまでのできごとが描かれている。

「目」だけで描かれた竹尾は、さまざまな病変を経験する。

脳浮腫の影響で、記憶や精神、視力に異常をきたし、幼児退行のような状態になったこと。
自分を責める言葉の意味がわからなくても、「責められている」ということは伝わること。
「脳が誤作動を起こし」人の顔に線が見えるようになったこと。ものの見え方がおかしくなり、携帯と携帯の充電器の見分けがつかなくなったこと。
上体を起こした瞬間、気絶したこと。
身体を壊すまで必死に取り組んでいた「絵を描くこと」が、できなくなってしまったこと。


好きなことのために、睡眠時間を削って一生懸命になった経験がある人は多いはずだ。それを繰り返していくとどんどん生活が荒んでいく。好きなことのはずだったのに、だんだん好きかどうかわからなくなっていく。
倒れる前の竹尾は、まさにその状態だった。もう二度と絵を描けなくなるかもしれない──そうなったとき、竹尾はこう思う。〈それほど好きではなかったはずなのに、失うと 苦しいのです〉

竹尾は精神的にも肉体的にも、そして創作者としても一度「死んだ」。
そして「生き返った」。
〈一回 心臓がとまって 目がみえなくなって 口もきけなくなって 記憶がなくなって 精神も感性もこわれて そこから座る練習や立つ練習をして もしかしたらこれは 人生をやり直してるのかもしれないと思うようになりました〉

もともとpixivで連載されていたため、今も全文が公開されている(全16話)。フルカラーの書籍版には、「主治医からひとこと」「脳浮腫の時の話」「あとがき」などが追加されている。

村上竹尾『死んで生き返りましたれぽ』
【書籍版】 【Kindle版】

(青柳美帆子)