カーネギー国立平和基金が発行するForeign Policyが「CONOP 8888」という国防総省の防衛プランを入手・公開し、CNNを始めとした他メディアでも大きなニュースとなった。この防衛プランにおける仮想敵が、ロシアでも北朝鮮でもなく、ゾンビだったからだ。


かつては米軍の極秘ネットワークにあったという「CONOP 8888」だが、今ではWEBで公開されていて誰でも読める。実際に読んでみたら、想像だけではとうてい書けない、具体的で細やかな内容に驚いた。

まず計画の要約の章では、作戦行動について6つのフェイズ(構想、予防、主導権奪取、制圧、安定化、文民への権限委譲)それぞれに対して、防衛、攻撃、文官援護の3種類を定義しており、事態の予測から対処、収束に至るまで、各部署が取るべきアクションを明確にまとめている。補足として、やるべきことだけでなく、やってはいけないこともきっちり書いてあるのが、いかにも軍隊だ。

次に続く基本計画の章では、想定される状況、作戦遂行時の条件、ミッションステートメント、司令官が達成するべき目的、重視する施設(病院、発電所、法執行機関など)や、優先して維持する社会システム(感染者の速やかな隔離、危機管理体制の統合、水や食物などの物流維持、警戒や警報システムの確立など)がまとまっている。ここまで細かく決めておくものなんだ、と感心すると同時に、外敵に対して軍隊がどのように運営されるのかがよく分かる。


この具体的で細やかな配慮は、ゾンビにも適用されている。社会への脅威を見積もるために、この文書ではゾンビを8つに分類している。病原体、放射能、黒魔術、宇宙由来、兵器利用、寄生生命体、ベジタリアン、ニワトリ。後半二つは一見意味不明だが、「ベジタリアン」は「Plants Vs. Zombies」に出てくる植物しか襲わないゾンビ、「ニワトリ」はアメリカの農家が安楽死させて肥料にしている卵を産まなくなったニワトリが、死にきれずに土壌から抜け出てくる社会問題を元にしているとのことだ。

この他にも「黒魔術ゾンビを相手に戦えるのが従軍牧師だけだとすると、無神論者は戦力外になる」など、細やかすぎる記述を読むと、これはさすがに冗談だろうと思う。しかし、この文書はただのジョークではない。
米戦略軍の報道官は、この文書の目的を「軍の内部の演習で使用される訓練用のマニュアルで、架空のシナリオを通じて軍事計画や治安、秩序の発展に関する基本計画を学ぶためのツール」と説明した。

仮想敵がゾンビであることにも理由がある。中途半端にリアルな仮想敵(どこかのテロリストとかどこかの大国とか)を据えてしまうと、今回のように流出した場合に「アメリカはマジで○○を敵対視している」と国際問題になる。このため、現実にはありえないと誰にでもわかるシナリオを採用したのだ。

アメリカの公共機関が企画にゾンビを採用した例はこれだけではない。軍が「CONOP 8888」を策定した2011年4月とほぼ同時期の2011年5月に、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)もゾンビ対策記事をブログに上げて話題になった。
2012年9月には国土安全保障省も「ゾンビが来るぞ」と警告し、緊急物資や避難計画を啓蒙するキャンペーンを打っている。とはいえ、軍がゾンビを扱ったのは特に興味深い。ゾンビものの映画や小説では、軍は短絡的な愚か者として描かれることが多いからだ。

日本でもオバタリアンなどの流行語の元になるほどヒットした「バタリアン」を初めに、ラストに軍が事態を収束しようとして、核弾頭で生存者もろともゾンビを吹っ飛ばそうとするのはお約束のひとつになっているし、「28週後…」でも人間とゾンビが入り乱れて混乱すると軍の司令官が「もう無理だから両方殺そう」と動くものすべてを射殺するように命令する。今回の文書にも参考文献として挙げられている「ワールドウォーZ」(映画ではなく小説のほう)でも、ハイテクで凄い威力だが高価な兵器を使っていったんはゾンビを圧倒するものの、予算不足で弾切れになって敗走する軍の姿が描かれていた。

「CONOP 8888」ではそれを踏まえたのか、「やってはいけないこと」に「ゾンビに占領された地区に対する核兵器の使用許可を出す」が入っているし、ゾンビ対策を想定したときに不足している物資についてもきちんと考察されている。
もしかすると軍の中にもゾンビファンが居て、軍イコールバカという扱いに納得がいかなかったのかもしれない。

今度はゾンビ映画もこの文書をふまえてアップデートして、「訓練で使ったCONOP 8888を覚えてないのか!核兵器による攻撃は禁じられている!」という善人で頭の良い軍人さんが出てくればいいな、と思う。
(tk_zombie)