まっとうな恋愛をしていない。
高校生のときに付き合っていたIくんは「お前は可愛くないが3日で慣れてやった」と言い放つような人だったし、大学生のときに好きだった20歳上のHさんはよーく話を聞くと精神を病んだ彼女と同居していて別れられない人だった。

かといって、優しくてこちらを大切にしてくれる人と付き合うのもしんどい。どう接していいのかわからなくて、関係を投げ出してしまいたくなる。
周りの友達も同じような経験や思考をしている女ばかり。「自分のことを恋愛対象としない男の人と話しているときが一番楽」「恋愛対象とされない自分がつらい」「幸せな恋愛がしたい」と、自分たちで話していながら「私たち、すごいダメダメなことを言っている女なのでは?」とわかるんだけど、やめられない。

二村ヒトシの『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』は、まっとうな恋愛ができていない、まっとうな恋愛から逃げている女性に対する恋愛本だ。2011年の単行本版から大幅加筆して文庫化された。

「こうすればモテる!」「こうすれば幸せになれる!」という恋愛マニュアル本とは少し違う。前書きを引用しよう。

【あなたは「私のことをちゃんと大切にしてくれない人を、好きになっちゃう」とか「むこうから好きだって言ってくれる人は、なぜか、好きになれない」ことが多くありませんか?
「私は自分が嫌い……。でも、そんな自分が大好き」って思うこと、ありませんか?】

この文章をLINEのグループチャットに貼り付けたら、友人たちが「なにこれ…死にたい…」と書き込んでいた。わかる。死にたい。

どうしてそういうややこしい恋に陥ってしまうのか。二村ヒトシは、その理由が「心の穴」にあるのだと言う。

心の穴とは、「自分の心の欠けている部分」のこと。

【あなたが「彼に恋をした」ということは、あなたが「彼にあいてる心の穴に、反応した」ということです。
彼の特徴で、あなたが「気に入ってる」か「気になってた」ところは、あなたが自分で気づいていない「自分に『ない』と思ってる」ところから「自分と似た」ところです】
【あなたが「私の心の穴にピッタリはまって、穴をふさいでくれるんじゃないか」と思える人ほど「あなたの心の穴の、苦しい部分」を刺激してくる人でもあるのです】

自分の心の穴をきちんと受け入れられていない(認められていない)と、相手と恋愛することで苦しくなってしまう。愛してくれない相手を好きになるのも、愛してくれる相手を好きになれないのも、自分を受容できていないから。


「私を新しい世界に連れていってくれる男の人が好き」
「私なんかを好きになる男の人は見る目がない」
「本当の私を知ったら彼は私のことを嫌いになる」
「こんな私を好きだといってくれるんだから大事にしなくちゃ」

こういう台詞を言った覚えがある人は、自分を受容できていない。だから恋愛に苦しめられるし、自分を苦しめるような相手ばかり無意識に選んでしまう。
ハイ、私、口癖です。
1章の「なぜ、あなたの恋は『うまくいかない』のか?」から9章の「運命の相手は、どこにいるのか?」まで、読んでいると身につまされてどんどん具合が悪くなる。

直面させられるのは読者だけではない。筆者の二村ヒトシも、自分の心の穴と向き合わないではいられない。

文庫化のさいに加筆された10章「女性読者の恋のお悩みに答える」、信田きよ子との特別対談「どうして女性学はあるのに『男性学』はないんですか?」では、女性たちにこう問いかけられて、二村はたびたび言葉に詰まる。
「あの、二村さん。すみません。そういう話、正直、私にはどうでもよくて……。社会背景や理屈が聞きたいわけじゃないんです。(中略)二村さんの心の中がどうなっているのかを知りたいんです」
「あーもう、そんなこと言わないで、二村さん。
あなたこんな本書いて、ここまで話していて、なぜそんなこと言うかな(笑)。(中略)それはお母さんの影響なんですか? そんなつまらない結論でいいんですか?」
女性心理と恋愛のプロフェッショナルに見える二村でさえ、心の穴にとらわれている。

二村の前著である男性向け恋愛本『すべてはモテるためである』の最初のページには、「なぜモテないかというと、それは、あなたがキモチワルいからでしょう」と大きく書いてある。これは外見の話ではない。自意識や自信の持ち方が「キモチワルい」から、モテない。そのキモチワルさを認めることがモテにつながる。

二村ヒトシは男子よりも女子に優しい(この優しさはある意味見下しでもある)ので、本著は『すべモテ』のようなストレートにキツい言葉は使われていない。だから自分で最初のページにこれを書き足しておきたい。
なぜ私たちが「愛してくれない人」を好きになるのかというと、それは、私たちがキモチワルいからだ!
(青柳美帆子)