8月29日に全世界のジョジョ紳士&淑女待望のゲーム「ジョジョの奇妙な冒険オールスターバトル」(以下ジョジョASB)が発売されました。ところが、Amazonのレビューは大炎上と言ってもいい状態になっています。


果たしてジョジョASBは本当に駄作なのか。それとも傑作なのか。見ていきたいと思います。

と、ここでジョジョ紳士&淑女の皆様は、いったいこのレビューを書いている人はどれぐらいジョジョに対して思い入れがあるのだと不安に思うことでしょう。簡単に言うと、連載が開始された第一話から週刊少年ジャンプ上で連載は全てリアルタイムで読み、単行本はもちろん文庫版から小説から副読本的な本は全て購入し、ゲームはSFC版こそ持っていないもののカプコンの3部ゲームはアーケードからPS版DC版とやりこみ、黄金の旋風もクリアし、ファントムブラッドはエキストラ応募するも外れる(もちろんゲームは買ってやっている)し、JOJOVELLERは予約済という、平均的なジョジョ紳士の要件は満たせているのではないかと思っています。

■キャラクター再現度は満点

原作である「ジョジョの奇妙な冒険」に関しては、今更説明することもほとんど無いでしょう。
1986年に週刊少年ジャンプで連載が開始され、現在はウルトラジャンプで連載されている、単行本累計100巻を超える作品です。物語は1部、2部と分かれていて、現在は8部「ジョジョリオン」が連載中です。ジョジョASBは1部から8部までの主要なキャラクターを操り、闘うゲームなのですね。

ゲームはストーリーモード、キャンペーンモード、バーサスモード、プラクティスモード、カスタマイズモード、ギャラリーモードで遊ぶことができます。基本的にはストーリーモードで1部から8部までのストーリーを追いながら各キャラクターの操作を覚え、キャンペーンモードでキャラカスタマイズのためのメダルを集め、バーサスモードでオフライン/オンラインで他の人と対戦をし、プラクティスモードで練習を、カスタマイズモードでコスチュームを変えたりするという流れです。そして、後はギャラリーモードでたっぷりとジョジョの世界に浸るわけですね。


まず、一番気になるところであろうキャラクターを見てみましょう。ジョジョを原作としている以上、生半可な動きでは納得できるわけがありません。その観点で見ると、原作再現度はすばらしいの一言。ポリゴンで動いている各キャラクターは驚くほど忠実に原作を再現していて、ちょっと動かしては「あ、これはあのエピソードで出てきた動き!」「そうそう。ここの擬音はこうだったよな」と楽しめること請け合いです。「あの『ジョジョ』に出てきたキャラクターを動かしてみたい」という点に関しては満点と言えるでしょう。


さらには細かい演出もジョジョ愛に満ちあふれています。「はい」と「いいえ」の選択肢は「YES! YES! YES!」「だが断る」になっていますし、カーソルはジョースター家の象徴とも言える★になっているし、読み込み中の時に出てくる砂時計は5部に出てきたスタンド「メタリカ」や4部の「ヘブンズドアー」で本にされた広瀬康一がめくられていくものになっていたりするわけです。

ストーリーモードではそれぞれのエピソードに「シークレットミッション」が用意されていて、単に勝つよりも原作で出てきた技を使うとボーナスが入るようになっています。例えば第一部でツェペリとジョナサンが修行をするエピソードでは、ズームパンチを当てるとかですね。シークレットミッションは「特殊技『???』を当てる」のように隠されていて、ゲーム中に手に入るコインを使うと正体がわかりますが、原作を脳内で補完する派にはこれを探していくのも楽しいのです。

■対戦格闘ゲームとしてはどうなの?

問題なのは、ジョジョASBが単なるアクションゲームではなく、対戦格闘ゲームであるという点です。
対戦格闘ゲームは長い歴史を誇るジャンルであり、独特の不文律のようなものがあります。例えば連続技を当て続ける場合は技の威力に補正をかけてダメージを少なくする、というようなものです。そして、ここの部分の作り込みが甘いのです。

例えばいまオンライン対戦で猛威を振るっている戦法に「バッタ」があります。これは、ぴょんぴょんジャンプしてほとんど地上にいないようにして戦うという戦法です。空中から地上にいる相手に攻撃を当てると、そのまま着地して連続技を入れることができるので、ジャンプ攻撃は対戦格闘ゲームの基本の動きでもあります。
でも、ジャンプ攻撃を迎撃するための対空技と呼ばれる技があるのですね。なので、いかに相手の隙をついてジャンプ攻撃を入れるかが、対戦格闘ゲームの読み合いの醍醐味だったりもします。

ジョジョASBでは、対空技がほとんどのキャラにない(もしくは弱い)上に、ジャンプ攻撃の判定が強くなっています。つまり、ジャンプ攻撃をしたもん勝ちとなっているのですね。さらに、相手の攻撃をくらったときに地上にいると連続技をそのまま食らうのですが、空中にいると吹き飛んでそれ以上技を食らわないというメリットがあります。なので、みんなぴょんぴょん飛び跳ねまくる=バッタとなるわけです。
一般的な対戦格闘ゲームではそうならないよう対空技をしっかり用意したり、ジャンプするときに一回溜める(膝を曲げてジャンプの準備をする)モーションを入れたりしてすぐにジャンプできないようにして隙があるのですが、ジョジョASBではその隙がほとんど無かったりするのです。

他にも、一度連続技が決まったら相手が倒れる(KOになるもしくはタイムアップ)までずーっと技が入り続けてしまう無限コンボ(もしくはループコンボ)がいくつも見つかったりと、ちょっと対戦格闘ゲームとしての作り込みは甘いと言わざるを得ません。

なので、友達とわいわい遊ぶのは楽しいのですが、オンラインで見知らぬ人と殺伐とした戦いをするのにはちょっと向いていないと思っています。説明書P.32にオンラインバトル時のマナーとして「相手が嫌がるプレイは行わず、正々堂々プレイしましょう」とわざわざ明記してあるのも、正々堂々じゃないプレイがたくさんできてしまうからでしょうか。

■ゲーム部分の作り込みは全体的に甘い

全体的な欠点としては、ロード時間が長いということがあげられます。ハードディスクインストールをするにも関わらず、少しメニューを変更するのに数秒間ロード時間。対戦相手が決まったら数秒間ロード時間。この積み重ねが馬鹿にできません。読み込みが終わってからは快適なのですが、1戦ごとに読み込みがかかるのでは、短時間にたくさん遊びたい時にストレスを感じるでしょう。

ストーリーモードでは、ストーリーが文字のみで(オープニングとエンディングはナレーションなどの音声あり)展開されます。まあこの辺は原作を読み込んでいる人だったら脳内で補完できるでしょう。でも、基本的には使うことのできるキャラクターのみが登場するエピソードしかストーリーモードには登場しないため、全体的にすかすか感はいなめません。各部が3話、多くても7話で構成されていますし、同じ組み合わせの対戦が何度もあったりするのです。

さらに不評なのがキャンペーンモードです。オンラインで行うモードで「探索」を選ぶとスタミナが減少し、敵を探します。そこでは他のプレイヤーが登録しているヴィジョンと戦ったり、ボス(これはディアボロではなく、単純に敵のボスという意味です)と戦えます。ボスを倒すとキャラの台詞やコスチュームが増えるメダルがもらえ、カスタマイズできるようになっています。

問題は、ボスと戦うときは当然対戦で行うのですが、ボスにはそれぞれHPが2つ設定されています。対戦時のものと、キャンペーンのHPです。探索をしてボスと遭遇をしたら、対戦をして倒すことで、キャンペーンHPを少しだけ削ることができます。つまり、どんな条件で対戦に勝ったとしても、ボスのHPを大幅に削ったりすることができません。

なかなか会えないボスも、一度遭遇をするとそのあと10分間は必ずボスと遭遇できるようになっています。なので、カスタマイズ用アイテムが欲しければなんとかしてボスに遭遇し、後は10分以内に戦い続けるしかないのです。このアイテムは狙った物が手に入りませんし、ダブっても他のものと交換ができません。自分の愛用しているキャラクターを着せ替えたり色々したいと思っても、いつになったらそれができるのかは全然わからないのです。

さらに、キャンペーンモードは探索をするのにスタミナを消耗するのですが、これが20分に1つしか回復しません。スタミナを回復させるアイテムは、課金をして購入することができます。どうせだったらカスタマイズのコスチュームとかを販売してくれたら購入しまくるのに、なぜスタミナを回復するアイテムしかないのでしょうか。

そして個人的に一番納得がいかないのは、ギャラリーモードです。ここではさまざまな2DアートイラストやBGMやボイス、そして3Dモデルを見ることができます。特に3Dモデルはすばらしく、さまざまなポージングをさせて、それをあらゆる角度から見ることができるのです。ですが。あまりにも見られる状態にするまでのハードルが高すぎるのです。

ストーリーなどをクリアすると、ゲーム内で「ゴールド」が手に入ります。ギャラリーモードでは、ギャラリーショップからこの「ゴールド」を使って3DモデルやイラストやボイスやBGMを買うことができるようになっています。ですが、これが買えない。いや、買えるんですけれども、買う気に全然なれないのです。

というのも、ギャラリーアイテム数が膨大にあるのです。そして、まとめ買いは一切できずにひとつひとつカーソルで選択して購入するしかありません。さらに1つ買うごとに「ワンチェン」(1部の中国人商人)が「ありがとうのことよ。ヒヒ……」と言ってきます。選択し、購入しますか? で「YES! YES! YES!」を選び、ヒヒを聞きでようやく1つ購入できます。これを、例えば2Dアートを全部見ようと思ったら500回以上繰り返さなければならないのです。

百歩譲って(譲りたくありませんが)2Dアートはいいとしましょう。でも、各キャラのボイスが全部ばら売りされているのはわけがわかりません。「ジョナサンVOICE1」を選んでYESでヒヒ、ジョナサンVOICE2を選んで(略)これをジョナサンだけで20回以上繰り返し、34キャラいるので全部で700回近く繰り返さなければ全部を買うことができないのです。この仕様にした人は正気とは思えません。

というわけで、キャラクターやボイスをギャラリーモードで堪能するということがとてつもない苦行になっているのです。ジョジョの世界にひたることも許されないというのはキャラクターゲームとしても厳しいとしか言いようがありません。


というわけで、まとめます。ゲーム中の各キャラクターの動きの再現はとてもすばらしく、友人とわいわい遊ぶのは楽しいです。でも、そこまでで力尽きちゃったのではないでしょうか。細かいところで遊びづらさが目立ちます。キャンペーンモードの仕様などは、フルプライスのパッケージゲームにソーシャルゲームの手法を取り入れようとして、あまりうまくいっていないように見えます。この辺の遊びづらさが今後のアップデートでどこまで修正されるかはわかりませんが、買うかどうか悩んでいる人は、この辺を「覚悟」した上で買うといいでしょう。
(杉村 啓)